家庭医学館 「精神神経免疫学」の解説
せいしんしんけいめんえきがく【精神神経免疫学】
脳細胞と免疫細胞(白血球(はっけっきゅう)、リンパ球、ナチュラルキラー細胞など)は、元来、同一のシステムに属していたものが進化の途上で分化したという説があり、これを裏付ける数々の知見が提出されています。また、免疫系に固有の伝達物質であるとみなされていた種々の物質(インターロイキン、インターフェロンなど)が脳の視床下部(ししょうかぶ)に直接作用してさまざまな精神症状をおこすという報告もあります。そして、脳内固有の伝達物質とされていた物質(アセチルコリン、アドレナリン、脳内麻薬様物質のエンドルフィン、エンケファリンなど)が、免疫細胞に直接的に作用して、その活性を強めたり弱めたりすることもわかってきました。
臨床場面では、たとえば、うつ病の患者さんにがんの発生率が高いという報告は、枚挙に暇(いとま)がないほどですが、これを精神神経免疫学的観点から裏付ける研究があります。うつ病患者さんではリンパ球やナチュラルキラー細胞の活性の低下が証明され、これは脳が分泌する免疫抑制物質のためではないかと考えられています。また、インターロイキンと消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)の関連を示唆する報告があるほか、気管支(きかんし)ぜんそく、アトピー性皮膚炎など、さまざまな心身症に関して精神神経免疫学的なアプローチが進行中です。