日本音楽の文献の一つ。中村宗三(そうさん)著。1664年(寛文4)、京(都)寺町通、秋田屋九兵衛刊(五良兵衛となっている版もある)。半紙半裁型の木版本3冊で、上巻は一節切(ひとよぎり)尺八、中巻は箏(こと)、下巻は三味線の、いわゆる糸(箏、三味線などの弦楽器)と竹(尺八などの管楽器)とよばれる近世邦楽器の入門独習書となっている。各巻ともそれぞれの楽器とその音楽の歴史的概観や演奏法についての簡単な解説文のほか、当時の流行歌謡と思われる歌詞に楽譜を付したものが記載されている。楽譜は音価が不明であるが、音高は明瞭(めいりょう)で、現在までにすでにいくつかの解読復原の試みもなされている。近世邦楽の楽譜公刊本としては最古の資料であり、17世紀の日本音楽の実態を知るためには欠かすことのできない貴重な文献である。
[千葉潤之介]
『平野健次・上参郷祐康編『日本歌謡研究資料集成3』(1978・勉誠社)』
音楽・歌謡書。上中下3巻。中村宗三(そうさん)編。1664年(寛文4)京都秋田屋九兵衛または五良兵衛刊。一節切(ひとよぎり)の尺八,箏,三味線のそれぞれ楽譜を集成し,各演奏法などを概説したもの。一節切譜は,本書以前に刊行されているが,これら3種の総合的な楽譜公刊本としては最古のもの。収録曲は,初心者のための入門曲が多いが,各楽譜を通じての共通曲もあり,本書の類書である《糸竹大全》に収録される共通曲とも比較すれば,この当時の民間流行歌曲と器楽曲の実態を知るうえで重要な資料となる。とくにこの3種の楽器が合奏された事実を物語るものとして重要。序文や巻末の調子の記事などは,近世邦楽の音楽理論書としての嚆矢(こうし)ともいえる。
執筆者:平野 健次
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