デジタル大辞泉
「経営」の意味・読み・例文・類語
けい‐えい【経営】
[名](スル)
1 事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を管理・遂行すること。また、そのための組織体。「会社を経営する」
2 政治や公的な行事などについて、その運営を計画し実行すること。「国家の経営」
3 測量して、建物をつくること。
「十兵衛が辛苦―むなしからで、感応寺生雲塔いよいよ物の見事に出来上り」〈露伴・五重塔〉
4 物事の準備や人の接待などにつとめはげむこと。けいめい。
「湯を沸かすやら、粥を煮るやら、いろいろ―してくれたそうでございます」〈芥川・運〉
5 急ぎあわてること。けいめい。
「早朝告げあり。―参入す」〈小右記・長保元年一一月〉
[類語]運営・営業・営利事業・商業・商売・商行為・業務・ビジネス・外商・外交・セールス
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けい‐えい【経営】
- 〘 名詞 〙
- ① なわを張り、土台をすえて建物をつくること。縄張りして普請すること。また、造庭などの工事をすること。
- [初出の実例]「燕鸞のすみか、多日の経営をむなしうして、片時の灰燼となりはてぬ」(出典:平家物語(13C前)七)
- 「用水十分ならざるとて、近来新に大仕掛を経営せり」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一)
- [その他の文献]〔書経‐召誥〕
- ② 物事のおおもとを定めて事業を行なうこと。
- (イ) 政治、公的な儀式、また、非営利的な組織体について、その運営を計画し実行すること。「学校経営」
- [初出の実例]「凡莫大可レ為二経営一候間、周章外無レ他候」(出典:山城大徳寺文書‐(元徳三年)(1331)二月二四日・妙超宗峰書状)
- 「大いに新領土の経営をして日本国家に報ゆる覚悟じゃ」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉貧書生)
- [その他の文献]〔詩経‐小雅・北山〕
- (ロ) 会社、商店、機関など、主として営利的・経済的目的のために設置された組織体を管理運営すること。
- [初出の実例]「一家の主人となり、事業を経営(ケイエイ)せざる者なし」(出典:花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉五〇)
- ③ 物事の準備やその実現のために大いにつとめはげむこと。特に接待のために奔走すること。けいめい。
- [初出の実例]「依二明日大饗経営一不二他行一」(出典:九暦‐九条殿記・大臣家大饗・天暦二年(948)正月四日)
- ④ 意外な事などに出会って急ぎあわてること。
- [初出の実例]「弓場殿方人々走経営、問二案内一、申云、有レ火」(出典:御堂関白記‐長和二年(1013)一一月一六日)
- ⑤ 工夫して詩文などの作品を作ること。
- [初出の実例]「面白く経営したる詩也」(出典:中華若木詩抄(1520頃)下)
- ⑥ 往来すること。めぐりあるくこと。
- [初出の実例]「医学修行に諸国経営(ケイヱイ)して揚州にいたりぬれば」(出典:談義本・医者談義(1759)五)
- [その他の文献]〔傅毅‐舞賦〕
経営の補助注記
仮名文学には③④の意味で用いられる「けいめい」があるが、これは「けいえい」の音が転じたものと考えられている。ただし転化の過程は未詳。
けい‐めい【経営】
- 〘 名詞 〙 ( 「けいえい(経営)」の変化したものという )
- ① =けいえい(経営)②
- [初出の実例]「けいめい」(出典:匠材集(1597)三)
- ② 客などを迎えて、いそがしく世話をやくこと。接待や饗応、また、その準備などのために奔走すること。もてなすこと。もてなし。接待。また、人のために精を出してつとめはげむこと。いそぎ。
- [初出の実例]「木間(こま)より、火ふたともしみともし見えたり。をさなき人、けいめいしていでたれば、車ながらたちてある」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
- ③ 急ぎあわてること。あわてて騒ぎ回ること。いそぎ。
経営の語誌
②③と同じ意味の「経営」は仮名文学では「けいめい」と記された。和語の「いそぎ」とほぼ同義だが、「けいめい」が準備段階からその完成時、結果までを含むのに対し、「いそぎ」は準備だけを指すことが多い。→けいえい(経営)・いそぎ(急)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
経営
けいえい
management
経営学で用いる経営の概念には、次の3種がある。
第一は、一定の継続的施設を基礎にして、財またはサービスを経済的給付として生産する組織体を経営とよぶものであり、ドイツ語圏の経営学でいう経営Betriebはこれである。この概念を経営体あるいは構造概念としての経営ということもある。この場合、呼び売り行商のように一定の継続的施設をもたないものは、たとえ継続的に生産を営むものであっても経営には含まれない。さらに、継続的生産のすべてが経営になるのではなく、協働性、交換性、計画性を備えたもののみが経営になる。この意味で、個人性、自己消費性、当座性を特色とする個人的生産は、経営ではない。経営の実態は、種々の発展段階をもつ。最初の経営は、親方、職人、徒弟から構成される手工業経営であった。複数の手工業経営が商業資本家(企業者)によって市場生産を指向して組織化されると、次の段階としての家内工業経営になる。家内工業経営の地理的分散性を解消し、工場に集合させて分業体制を採用したものが、手工業的工場経営(マニュファクチュア)である。産業革命を契機として、各種の機械が発明され、工場が出現して、手工業的工場経営の生産手段である道具が機械によって代置されると、工場制経営となる。現代の経営の中心は工場制経営である。資本主義下では、生産が営利の形式で行われるため、経営も営利追求組織となる。このような資本主義的経営のことを企業という。経営が実体概念であるのに対し、企業は形式概念である。しかし、資本主義の変質と企業の発展とは、営利第一主義を修正、後退させ、今日では実体にさかのぼって考察しなければ、企業の本質は理解できない段階に達している。そのため、経営を対象とする学問体系に企業学ではなく経営学という呼称が用いられるのである。
第二の経営概念は、企業もしくは組織体一般を運営する動的全体過程をもって経営とするものである。「経営する」という動詞的用法や企業経営という場合の経営はこれである。この概念を経営活動、経営行動、経営機能ということもあるが、その特色は行動概念としての経営である。英語圏で発達した経営学の多くは、このような経営をその対象としている。注意すべきことは、このような経営は、企業という特定組織体はもとより、あらゆる組織体について存在することである。かくて、英語圏の経営学では、組織体一般の動的全体過程に遍在する諸機能や経営技術について、普遍的原理を探索する傾向が支配的となる。たとえば、動的過程の基本を、計画、組織、統制の循環過程(マネジメント・サイクル)ととらえ、あるいは意思決定の逐次的ネットワークととらえることにより、それらの内容や方法を研究するなどである。
第三の経営概念は、第二の概念からの派生であり、経営機能のうち、全体的、基本的、戦略的、長期的、政策的意思決定機能をもって、とくに経営とするもので、経営者機能ともよばれ、略称として経営機能(狭義)ということもある。このような経営が第二の経営概念の派生であるという理由は、経営者機能が経営活動に不可欠の中核的部分を占めていることによる。
以上の3種の経営概念は、もちろん関連させて用いることが可能である。現在の経営学は、その比重の置き方はともかく、このような方法をとっている。ただ前述のように、企業に限定するか組織体一般に拡大するかについては立場が分かれ、それが経営の理解を困難にする理由の一つになっている。
[森本三男]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
普及版 字通
「経営」の読み・字形・画数・意味
【経営】けいえい
事業をいとなむ。設計、施工する意。〔詩、大雅、霊台〕靈臺を經始し 之れを經し之れを營す 庶民之れを攻(をさ)め 日ならずして之れをす字通「経」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の経営の言及
【行政】より
… さて最後に,もう一つの第3の用語法に移ろう。英米では,政府の行政のことをpublic administration,企業の経営のことをbusiness administrationと呼ぶ。行政は公共的な行政,経営は営利的な行政であって,いずれも行政administrationであることにおいては共通の同質的な営為であると観念されているわけである。…
【経営・経営管理】より
…
[経営・管理の語意]
〈経営〉という言葉は今日,企業をはじめ行政,教育,宗教,組合など各種組織の運営にかかわる言葉として使われているが,日本語としていつごろ定着したかは確かではない。《日本国語大辞典》1940年版には,(1)縄張りをして土台をすえいとなみ造ること,(2)工夫をこらして物事をいとなむこと,とされ,中国春秋時代の《詩経》に(1)(2)の早い使用例があり,日本では(2)の使用例が室町時代の《太平記》にみられる。…
※「経営」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」