練丹術(読み)れんたんじゅつ(その他表記)liàn dān shù

改訂新版 世界大百科事典 「練丹術」の意味・わかりやすい解説

練丹術 (れんたんじゅつ)
liàn dān shù

丹砂を主要な材料として丹薬を製造する術。丹薬を服用すれば長生不死仙人となることができ,丹薬の高級品はそのまま黄金に変化すると考えられた。したがって,練丹術は中国における錬金術でもある。漢の武帝宮廷に暗躍した方士の李少君は,〈鬼神を駆使して丹砂を黄金に変え,その黄金で飲食の器を作れば益寿がかなう〉と説いたと伝えられ,鬼神の力によって作りだされる黄金には,自然の黄金にまさる神秘な力がひそむと考えられたのであった。おなじころ,淮南王劉安のもとに集まった方士たちの著作のなかにも〈神仙黄白の術〉について説くものがあった。黄白とは黄金と白銀のこと。その後,この著作は劉向(りゆうきよう)によって宮廷に献ぜられ,宣帝は錬金を行わせたが失敗におわった。《漢書》芸文志は神僊(仙)家の著作の一つとして《泰壱雑子黄冶(たいいつざつしこうや)》を著録し,やはり丹砂を黄金に変える術について説いたものだという。後漢の魏伯陽の《周易参同契(しゆうえきさんどうかい)》は《易経》のシンボル,とりわけ乾(けん)(天)と坤(こん)(地),坎(かん)(水)と離(り)(火)の卦のシンボルにかりて練丹のメカニズムを説いたが,比喩と隠語満ち,難解をきわめる。東晋の葛洪(かつこう)の《抱朴子》では〈金丹篇〉と題する金液と丹薬にかんする1章においてさまざまの丹薬製造の方法が説かれ,なかでも左慈(さじ)が神人から授けられ,以後,左慈から葛玄,鄭隠,葛洪へとつぎつぎに伝授された《太清丹経》《九鼎丹経》《金液丹経》にもとづく練丹術が重視されている。たとえば《九鼎丹経》にもとづく方法で最初に得られる丹薬(一転の丹)でさえ,服用すること7日にして仙人となり,またそれを猛火の上におけば,たちまちに黄金に変わるという。もっとも練成の加えられた丹薬は九転丹とよばれるが,かく変化(転)をくりかえしながらしかも本性を失わない可変にしてかつ不変の性質に,人間が仙人に改造され,仙人となれば長生不死となりうる象徴を,葛洪は見いだしたのであった。彼は自然の黄金の服用についても述べているが,練丹術によって人工的に作りだされる黄金は自然の黄金にまさるとさえ言っている。だが練丹のための材料の入手は困難をきわめた。しかも練丹術にはさまざまのタブーが存し,また秘教的な儀式を必要とした。北魏の道武帝や太武帝,唐の高宗や玄宗たちは財力にものをいわせて道士たちに練丹を行わせたが,丹薬服用のためにかえって生命をちぢめる天子もすくなくなかった。そのため,実際に練丹を行うことを外丹とよんでしりぞけ,それにかわって内丹とよばれる方法がさかんとなった。人間の肉体を一つの反応がま,体内の精気を薬剤とみなし,もっぱら心の修養によって〈聖胎〉とよぶ丹薬を作りだそうというのである。五代以後,《周易参同契》もこのような立場からの新解釈がほどこされて内丹の要籍となり,宋,金,元の時代におこった新道教でも,内丹が重要視された。
錬金術
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世界大百科事典(旧版)内の練丹術の言及

【火薬】より

…薬物として水銀の神秘的変化に注目し,硫化水銀を〈丹〉と呼び,丹を中心とした化学的操作を重視した。そのため彼らの研究を練丹術とも呼んだ。これは西方諸国に発達しヨーロッパ中世にも盛んであった錬金術に対応するものであり,練丹術師は薬物学者であり化学者でもあった。…

【錬金術】より

…従来,詐術の一種あるいはせいぜい近代化学の前史をなす克服されるべき擬似科学と考えられてきたが,今日では,単なる物質操作・薬物調合の技術にとどまらない,体系的な思想と実践とを具備した独自な世界解釈の枠組みとする見方が有力である。また錬金術的な思想と実践は,上記の文化圏のみならずインド,中国(さらにはその影響下で朝鮮)にもあり,とくに中国では〈練丹術〉の名で知られる。これについては同項を参照されたい。…

※「練丹術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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