家庭医学館 の解説
ろうかにともなうひふのびょうきとしょうじょう【老化にともなう皮膚の病気と症状】
湿疹は、皮膚病のなかでもいちばん多い病気です。皮膚科の患者さんの少なくとも30~50%はなんらかの湿疹だといえるほどです。
湿疹といっても、接触皮膚炎(せっしょくひふえん)(かぶれ)もあれば、アトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)など、さまざまの種類があります。これらをひとからげに湿疹として統計をとってみると、医療機関による頻度にあまり差がありません。ところが、湿疹の一つひとつを詳細にみてみると、年齢に関連するちがいが明らかになります。たとえば、皮脂欠乏性皮膚炎(ひしけつぼうせいひふえん)は高齢者に圧倒的に多いことがわかります。
「年をとると皮膚がかゆくなる」とよくいわれます。たしかに老人になると皮膚がカサカサになりますが、そのほとんどは老人性乾皮症(ろうじんせいかんぴしょう)によるもので、皮膚が乾いてくると、ふだんはなんでもない刺激にも敏感に反応し、かゆくなります。この状態が老人性皮膚瘙痒症(ろうじんせいひふそうようしょう)です。
さらに、かゆいので皮膚をかく、かけばますますかゆみが増し、さらに強くかくといった悪循環が生まれ、皮膚が湿疹化します。こうしてできた湿疹が皮脂欠乏性皮膚炎(ひしけつぼうせいひふえん)です。
このようにみると、老人性乾皮症→老人性皮膚瘙痒症→皮脂欠乏性皮膚炎という図式が成立していることがわかります。
一方、「年をとると皮膚がカサカサしてくるのは皮膚の脂(あぶら)が足りなくなったからだ」ともよくいわれます。しかし、これは正しくありません。正確には、皮膚のもっとも外側にある角質層(かくしつそう)の水分が年とともに減少するためなのです。これもまた、皮膚の加齢(かれい)現象の1つです。50歳を境に、とくに男性に急激におこります。
角質の水分はまた空気中の湿度にも影響されます。空気が乾燥する冬には、皮膚はいっそうカサカサになります。入浴や石けんの使用頻度といった生活習慣によっても、皮膚の乾燥度は左右されます。
少なくなった角質の水分を増やすには、角質に水分を補い、保たせればいいわけですが、それには保湿剤入りの入浴剤を使用したり、入浴後あるいはふだんでも、保湿剤入りの外用剤を使用するとよいでしょう。
このように、老人性乾皮症は一種の加齢現象です。人はこの状態を避けて通ることはできませんが、その程度を軽くすることはできます。それには、保湿剤の使用以外に、日常生活をどう送るかがとても重要です(「老人性乾皮症」)。
老人性皮膚瘙痒症や皮脂欠乏性皮膚炎も、その原因は老人性乾皮症にあるのですから、同じ注意が必要です。
◎しみ、いぼ、白斑(はくはん)
年をとると、顔や手の甲(こう)といった日光がよく当たるところに、いろいろな「しみ」ができます。もっとも多いのが老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん)で、雀卵斑(じゃくらんはん)(そばかす)に似た小型のしみ(小斑型(しょうはんがた))と、指の頭大のしみ(大斑型(だいはんがた))がよくみられます。
顔にかぎっていうと、小斑型は耳の前やこめかみによくできます(雀卵斑は、目のまわりや鼻のつけ根を中心に両方の頬(ほお)にできる)。大斑型は頬や額(ひたい)、まゆ毛の外より3分の1あたりのところに単発したり、多発したりします。
いずれの老人性色素斑もがんにはなりませんが、「しみ」にはがんの前段階である日光角化症(にっこうかくかしょう)や黒色(こくしょく)がん前駆症(ぜんくしょう)もありますから、注意が必要です。
老人性色素斑は本来、皮膚面から盛り上がらない褐色ないし黒褐色の斑点のことですが、古くなると一部が盛り上がり、いぼ状になることがあります。これを老人性疣贅(ろうじんせいゆうぜい)(年寄りのいぼ)といい、脂漏性疣贅(しろうせいゆうぜい)とも呼ばれます。
いずれにしても、中年以降、顔や頭、胴体(どうたい)にできる米粒の半分の大きさからエンドウ豆大のいぼ状のできもので、老人性色素斑の中にできたり、無関係にできたりします。これまた皮膚の加齢現象の1つです。
いぼといってもウイルスが原因ではありません。ごくまれにがんになるといわれていますが、心配はまずありません。ただし、短期間にたくさんでき、やたらにかゆいときには注意しましょう。内臓悪性腫瘍(ないぞうあくせいしゅよう)、とくに胃がんの存在を知らせる注意信号のことがあるからです。
年寄りのいぼががん化することはほとんどないものの、老人には、がんを含め、がんに似た腫瘍がよくできます。放置せず、医師の診察を受けましょう。
老人性色素斑がお年寄りの皮膚にみられる色のついたしみであるならば、反対に皮膚の色がぬけた、直径がせいぜい1cmほどの小さく白い斑点が老人性白斑(ろうじんせいはくはん)です。これも皮膚の加齢現象の1つで、中高年以降によくみられます。皮膚に含まれる褐色の色素(メラニン色素)をつくる細胞(メラノサイト)が老化して、部分的に皮膚からなくなってしまった結果です。
メラニン色素がなくなって、皮膚が白くなる皮膚病の代表は、尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)(しろなまず)です。この白斑は大型で、拡大する傾向があり、白くなった部分の周囲の皮膚は、そのさらに外側の正常の皮膚よりもやや濃い色がついています。しかし、老人性白斑ではこうした現象はみられず、拡大傾向もまったくありません。