耐性(読み)タイセイ(英語表記)resistance
tolerance

デジタル大辞泉 「耐性」の意味・読み・例文・類語

たい‐せい【耐性】

環境変化に対して適応していく生物能力
病原菌などが一定の薬物に対して示す抵抗力

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精選版 日本国語大辞典 「耐性」の意味・読み・例文・類語

たい‐せい【耐性】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 困難などに耐えることのできる性質
    1. [初出の実例]「屈すべからざるの耐性(タイせい)を以て飢寒を忍び」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉八)
  3. 生体が異質の化学的環境に対してもっている抵抗性。または、病原菌などが、一定の薬物に対して示す抵抗力。〔療養設計(1955)〕
    1. [初出の実例]「どの薬にも耐性がでて、とうとう処置なくなったのである」(出典:闘(1965)〈幸田文〉一一)

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改訂新版 世界大百科事典 「耐性」の意味・わかりやすい解説

耐性 (たいせい)
resistance
tolerance

抵抗性ともいう。生物が病気,害虫,薬剤,高温・低温,乾燥のような不利な環境条件などに対して対抗しうる性質。生物は一般にその生息場所の諸条件に対してはある程度の耐性をもっている。さもなければ生き残ってこなかったはずだから,これは当然のことである。例えば暑い砂漠に生息する動植物は,高温,乾燥の下で十分生きていけるだけの耐熱性,耐乾性をもっており,寒帯や高地に住む昆虫の多くは耐凍性をそなえ,また氷点下の温度でも(あるいはそのような温度条件下でのみ)活動できるものもある。日本のような温帯に生える植物も,冬の寒さに対するかなりの耐寒性をもっている。これらの耐性の機構はさまざまであり,体表の構造(水の透過性が低いなど),体液の組成(寒帯昆虫の場合はグリセリンなど凍結防止物質の存在,温帯植物の場合は糖濃度の増加による浸透圧の上昇),さらに呼吸その他体内での物質変化にかかわる酵素の最適温度が極端に高いまたは低いなど,いろいろなレベルでの適応がみられる。細菌やラン藻になると,もっと極端な高温,低温,あるいは物質的条件下でも生活できる。これらの耐性は,いずれもその生物の適応の一端をなすもので,逆にいえば,そのような条件でないと生きられないという生活範囲の限定にもつながっている。

 病原生物による病気や害虫などに対する耐性も,自然の生活環境への適応の一部であるが,この場合は二つの生物間の闘争の形になる。多くの植物は,自分の体を食べる昆虫がいやがったり,あるいはその発育を抑える物質を分泌して,その昆虫による被害を避ける耐虫性を備えているが,昆虫のほうもそれに対抗する性質を獲得しているので,いわゆる生物における軍拡競争が起こっている。これは病気についても同じである。しかし極端に耐性の強い品種や,偶然出現した耐性の強い突然変異体は,ほとんど被害をまぬがれるので,農業においてはこのような耐虫性・耐病性品種の育成が盛んに試みられている。

 一方,人間の作り出した薬剤に対しては,生物は急速に耐性を発達させ,いわゆる薬剤耐性(薬物耐性)の生物ができてくる。抗生物質をはじめ種々の医薬に対する耐性菌の出現,あるいはDDTその他の殺虫剤に対する抵抗性品種のハエ,カ,農業害虫など,その例はきわめて多く,大きな社会問題となっている。
執筆者:

抗生物質,化学療法剤,紫外線あるいはバクテリオファージなど,細菌が本来生育を阻害されるはずの要因が存在する環境下でも,細菌が生育を続けるようになることがある。このような細菌を耐性菌というが,医学では,耐性をえた結果,薬のきかなくなる薬剤耐性菌が治療上問題になる。薬剤耐性は,自然耐性(自然抵抗性)と獲得耐性(獲得抵抗性)に分けられる。自然耐性は,当該薬剤が使用される以前から存在していたと考えられる耐性で,これによって抗菌スペクトルが形づくられる。獲得耐性は,当該薬剤使用後に,耐性をもたなかった細菌が耐性を獲得するものである。獲得耐性には,染色体上の遺伝子の変異に起因する場合と,プラスミド(R因子)上の遺伝子に起因する場合とがある。獲得耐性の生化学的な機構には,いろいろなものが知られている。例えば,(1)当該薬剤が結合して作用を及ぼすタンパク質が,遺伝子の変異によって影響を受けなくなる場合,(2)当該薬剤を分解や修飾する酵素を産生して無毒化する場合,(3)細胞表面の透過性を変化させ,当該薬剤を菌体内に入らなくさせる場合等である。
執筆者:

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病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版 「耐性」の解説

耐性(薬が効かなくなる)

 薬を繰り返し使用するうちに、効き目がしだいに低下したり、まったく効かなくなる現象を「耐性」といいます。初期と同じ効果を出すためには、薬を多量に用いる必要が生じ、副作用も増えてきます。


 ほとんどの薬にこの現象のおこる可能性がありますが、とくに耐性をおこしやすい薬は、催眠剤、鎮痛剤、抗生物質、麻薬などです。


 耐性のおこる原因はいろいろですが、一般には、使用している薬の有効成分を分解してしまう酵素が出現するためで、お酒に強くなるのもアルコールに対する耐性がおこるからです。薬をむやみに飲み続けたり、かってに増量すると、耐性がおこりやすくなります。

出典 病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「耐性」の意味・わかりやすい解説

耐性
たいせい

薬剤耐性」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の耐性の言及

【抵抗】より

…精神分析の用語。患者は意識的には病気を治したいと思って精神分析者のもとにやってくるわけであるが,分析治療が始まると,しばしば無意識的に治療の進行を妨げるようなことをする。これを抵抗といい,自由連想(自由連想法)をやっても何も心に浮かんでこなかったり,逆にむやみにしゃべりつづけたり,いったん納得したはずの解釈に愚にもつかぬ文句をつけたりするなどの言動を指す。患者は,たしかに神経症に苦しんではいるが,他方では神経症になることによって葛藤から逃れ,歪められた形ではあるが自分の立場を強くすることができているわけで,神経症に執着してもいる。…

【示相化石】より

…一般に古生物の種ないし属についていうが,古動物群についていうこともある。適応力のすぐれた,すなわち耐性toleranceの広い種は不利な条件下でも生息できるのに対し,狭い種はごく限られた環境にしか生息できない。種々の環境条件に対して耐えうる範囲の大きさにより,生態の広性・狭性が区別される。…

【薬物依存】より

…薬物の反復摂取の結果として,その薬物の摂取がやめられなくなる状態で,精神的に薬物摂取の継続を渇望する状態を精神的依存psychic dependence,また,薬物摂取をやめると,種々の身体的異常,すなわち退薬症状(禁断症状)がでてくるような状態を身体的依存physical dependenceとよぶ。これらの依存,とくに身体的依存には,しだいに薬物の用量をふやさないと初めと同じ薬効が得られなくなる,いわゆる耐性toleranceが伴う。精神的あるいは身体的依存のどちらが形成されるか,または両者を共有するかのほか,退薬症状の相違や耐性を伴うか否かなどによって,表のように分類されている。…

※「耐性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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