普通には職業的労働に携わる場所を意味するが,その場所は物理的空間や環境よりも社会的空間や人間関係を指すことが多い。終身雇用制をとっている日本の職場(とくに民間企業)は,欧米の場合と比べてみると,第1に,仕事の境界あるいは縄張りが多少ともあいまいであり,人と仕事の結びつきが弾力性に富んでいる。仕事の縄張りが不分明であることは,日本の場合,職務記述書はあっても実際の仕事の進め方にはそれがほとんど意味をもっていないこと,オフィスは個室ではなく大部屋になっていること,賃金形態上職務給の占める比率が低いことなどによくあらわれている。また集団作業の職場では同僚との間で互いにその仕事が部分的に重なっていることによって,仕事をしながらよりむずかしい仕事を覚える機会をもつことができる。それが人の柔軟な配置を容易にしている。第2に,人の移動がとりわけホワイトカラー職場においては活発である。おりをみて,あるいは定期的に職場のなかの持場あるいは職場そのものを変える人事管理の慣行が広く普及している。この職場内外にわたる移動は,そのときどきの会社の必要もさることながら従業員の人材開発の観点から計画的に行われている場合が少なくない。第3に,従業員間の競争関係にいくつかの特徴がみられる。その競争相手は同期入社の同学歴者に限定されがちである。しかも従業員の抱く競争意識は同期,同年配の者に遅れたくないというものであって,赤裸々で抜駆け的であるような競争意識は認めにくい。しかし同期の者に遅れたくないという競争意識の性格は,客観的にみれば,長期にわたる競争関係の持続を意味している。この競争は主として昇格や昇進をめぐって行われるが,このうち昇格に関しては,役職につくまでの期間,昇格の最低保障とリターン・マッチ(一時期人事考課の結果が悪くて昇格が遅れていても,がんばればその遅れを取り戻すことができる)の機会を与えている企業が少なくない。役職昇進の基準は,もはや単なる年齢や勤続年数といったものではなくなっており,能力と業績考課が最も大きな要素とみなされている。第4に,日本の職場を理解するためには管理者・監督者の地位と役割に注目する必要がある。彼らの仕事内容が,他の従業員の場合と同様に多少ともあいまいで伸縮性に富んだものである点は変わらない。必要があれば,部下の私生活上の相談にのることもそのたいせつな仕事になっている。彼らが職場の部下から期待されていることは,単に仕事上の能力や知識に優れているというばかりでなく,人間的にも信頼のおける人物であること,そして他の部署や上層部の意向に振り回されることなく,職場の意向をつねにくみとり,無理な要求に対しては職場の代表としてそれをはねつけるだけの力量を持っていることでもある。
最近では,とくに若者を中心として,職場の同僚とのつきあいが少なくなってきているとか,あるいは残業をしたがらない,自分の仕事に対する縄張り意識が強まっている,中心的生活関心が仕事からレジャーなどの私生活に移ってきているといわれる。今後もこうした変化の進む可能性がある。しかしなお,欧米社会の場合に比較して,日本のサラリーマンにとって職場生活の比重は大きい。〈会社人間〉といった表現に示されるように,社縁あるいは職縁(職場の人間関係)が日常生活のなかで依然大きな比重を占めている。
執筆者:稲上 毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…職場,事業所,企業,産業,全国といった各レベルの種々な意思決定や諸活動に対し,労働者またはその代表組織が伝統的に存在していた範域を超えて,より直接的に関与する傾向が生じたことは,1970年以降の先進的資本主義社会の労使関係システムにおいて顕著に目立つ新しい変化である。それらのうち産業レベル,全国レベルなどセミ・マクロおよびマクロレベルでの労働者参加は,とくに欧米の産業社会の場合,第2次大戦後は産業別組合や全国組合の組織が相当強大に発達していたこと,およびポリティカル・エコノミーの枠組みが混合経済的ないし福祉国家的な性格をかなりに強めたことから,比較的初期から相当に進行していた。…
※「職場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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