家庭医学館 「肝損傷」の解説
かんそんしょう【肝損傷 Hepatic Injury】
腹腔(ふくくう)に存在する臓器のなかで、肝臓はいちばん大きく、腹部外傷の際に損傷を受けやすい臓器です。しかも血流が豊富で、損傷を受けると大出血になり、出血性(しゅっけつせい)ショック(「腹部外傷」の出血性ショック)におちいりやすいものです。胆汁(たんじゅう)が腹腔内にもれて、急性腹膜炎(きゅうせいふくまくえん)(「急性腹膜炎」)もおこります。
肋骨骨折(ろっこつこっせつ)やほかの臓器の損傷を合併することも少なくありません。
[症状]
出血性ショックの症状(呼吸が速い、手足が冷たい、チアノーゼなど)と、腹膜刺激症状(ふくまくしげきしょうじょう)(押すと強くなる腹痛、緊張してかたい腹壁など)がおもな症状です。
損傷が小さく出血が少量ずつ続くと、遅れてショック状態になることがありますので、腹部打撲様症状がないからといって安心できません。
[検査と診断]
血液検査を行なうと、GOT・GPTの値が上昇しています。超音波検査と造影剤を使用するCTを行なうと、傷ついた肝臓と腹腔内にたまった血液が写ります。
[治療]
全身状態がよく、悪化の兆候がなければ、輸液や輸血を行なって経過を観察します。
出血が続いていても少量で、手術を必要としない程度のときは、選択的動脈塞栓術(せんたくてきどうみゃくそくせんじゅつ)(出血している部位へ血液を送っている動脈の内腔をつめる)が行なわれることがあります。
輸液、輸血を行なってもバイタルサイン(血圧、脈拍(みゃくはく)、呼吸、意識などの状態(コラム「バイタルサインとは」))が悪化するときは、開腹して手術をします。手術は、止血、傷ついた組織の除去、胆汁の漏出の防止が目的です。
手術をしても止血のできない場合は、肝臓の周囲にガーゼをつめるガーゼタンポナーデを行なうこともあります。