肝膿瘍(読み)カンノウヨウ(英語表記)Hepatic abscess

デジタル大辞泉 「肝膿瘍」の意味・読み・例文・類語

かん‐のうよう〔‐ノウヤウ〕【肝×膿瘍】

大腸菌ぶどう球菌赤痢アメーバの感染によって肝臓が化膿する病気。悪寒・発熱・疼痛とうつうなどの症状がある。肝臓膿瘍

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精選版 日本国語大辞典 「肝膿瘍」の意味・読み・例文・類語

かん‐のうよう‥ノウヤウ【肝膿瘍】

  1. 〘 名詞 〙 細菌および赤痢アミーバの感染が原因で肝臓に形成される膿瘍。肝臓膿瘍。

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六訂版 家庭医学大全科 「肝膿瘍」の解説

肝膿瘍
かんのうよう
Hepatic abscess
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

どんな病気か

 肝膿瘍とは、肝臓外から発生原因となる細菌や原虫などが肝組織内に進入・増殖し、肝内に膿瘍(うみが貯留した袋)を形成する病気の総称です。

 病原体により、細菌性(化膿性)、アメーバ性に分けられ、発症の背景、臨床像、治療法は異なっています。また、近年、肝臓や胆道の病気を治療したあとや、抗がん薬治療後に発症する肝膿瘍が報告されています。

原因は何か

 細菌性肝膿瘍の原因として、

総胆管結石(そうたんかんけっせき)膵胆道系(すいたんどうけい)悪性腫瘍に伴い、腸内細菌が胆汁の生理的流れと逆に(十二指腸から肝臓にむかい)胆道に感染し、胆管炎に引き続き発症する場合

虫垂炎(ちゅうすいえん)憩室炎(けいしつえん)クローン病潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)などの腹腔内感染症や進行大腸がんに続発し、細菌が門脈(もんみゃく)をへて肝内に到達し肝膿瘍を形成する場合

③急性胆嚢炎(たんのうえん)の肝臓への直接的波及、大腸がんなどの肝浸潤など、周囲臓器の炎症が肝臓に直接波及し肝膿瘍を形成する場合

④外傷による肝損傷部に感染を起こし生じる場合

⑤切除不能の膵胆道系悪性腫瘍や肝がんに対する治療後に発症する場合

などがあります。

 アメーバ性肝膿瘍は、赤痢(せきり)アメーバの経口感染で発生し、海外渡航者に多く認められます。

症状の現れ方

 発熱、全身倦怠感(けんたいかん)、上腹部痛、右季肋部(きろくぶ)痛などの炎症症状と、黄疸(おうだん)など肝膿瘍の原因となる疾患に起因する症状が現れます。

 アメーバ性肝膿瘍では、前述の症状に加え、血性下痢が認められます。

検査と診断

 血液検査では、白血球の増加、CRPの高値、胆道系酵素(アルカリホスファターゼなど)の上昇などが認められます。超音波検査、CT、MRIなどで、膿瘍の存在の有無、大きさ、数、周囲臓器への影響などを調べます。

治療の方法

 細菌性肝膿瘍は、早期に診断し治療を開始しなければ、敗血症(はいけつしょう)、細菌性ショック、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)DIC)に移行し、致命的になることがあります。肝膿瘍を疑ったら、ただちに抗生剤による治療を開始します。

 また、体外にうみを誘導するために経皮的に膿瘍穿刺(せんし)ドレナージを行います。がんや結石による胆道閉塞が原因の場合は胆道ドレナージを行います。多発する肝膿瘍や抗生剤の全身投与で改善しない場合は、肝動脈内にカテーテルを留置し、抗生剤の動脈注射を行うこともあります。

 アメーバ性肝膿瘍では、メトロニダゾール(フラジール)を投与します。

病気に気づいたらどうする

 上腹部痛を伴う急性の発熱があった場合は、消化器内科を受診します。肝胆道系の治療を受けたことがある場合は、担当医から肝膿瘍を合併する可能性が説明されていると思われますので、その指示に従いましょう。

関連項目

 胆石症肝内結石胆道感染症肝細胞がん胆管細胞がん胆嚢がん胆管がん膵がん

葛西 眞一, 紀野 修一


肝膿瘍
かんのうよう
Hepatic abscess
(感染症)

どんな感染症か

 肝膿瘍とは、肝臓のなかに細菌やアメーバの感染によって化膿した部分(膿瘍)ができる病気です。

 多くはおなかのなかに何らかの炎症がみられたのち、それに引き続いて起こるのが普通です。たとえば、細菌によるものでは胆嚢炎(たんのうえん)胆管炎(たんかんえん)虫垂炎(ちゅうすいえん)、大腸憩室炎(けいしつえん)痔核(じかく)などがあります。

 アメーバ性の多くは、東南アジアや衛生状態の悪い地域に行って、食べ物や飲料水から赤痢(せきり)アメーバに感染して大腸炎を起こし、さらに肝臓に膿瘍をつくるという経過をとります。

症状の現れ方

 寒気や震えとともに高熱が出て、汗をかいて熱が下がるという状態を繰り返します。右肋骨の下あたりに重苦しい痛みがあり、その部位を押すとさらに痛みを強く感じます。このような状態が続くと、敗血症(はいけつしょう)という重篤な状態に移行することがあり、注意が必要です。

検査と診断

 診察をすると、肝臓がはれて押すと痛みがあることがわかります。血液検査では炎症により白血球数が増え、AST(GOT)、ALT(GPT)、ALPなど肝機能の数値も上昇します。アメーバの多くは抗体反応が陽性に出ます。腹部エコー(超音波)やCT検査を行うことにより、肝臓のなかに化膿した部分(膿瘍)を見つけることができます。

 最終的には、超音波検査で膿瘍を見ながらそこに針を刺し、膿を採取して培養を行い、顕微鏡で見ることによって、細菌や赤痢アメーバを確認します。

治療の方法

 細菌性では抗生剤を点滴します。アメーバ性ではメトロニダゾールという薬をのむことになります。これらの薬が効かない時、または最初から化膿した部分が大きい場合には、ドレナージを行います。これは、検査で膿を採取した時と同じように外から肝臓に管を刺し、なかの膿を吸引して治療を行う方法です。

 それでも治りが悪い場合や緊急時には、外科手術により膿瘍を切除することもあります。

病気に気づいたらどうする

 肝臓に膿瘍ができるのは、体の抵抗力が低下している状態なので、入院して治療しなければならない病気です。前述の症状がみられる場合は、早めに受診してください。

斎藤 明子

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家庭医学館 「肝膿瘍」の解説

かんのうよう【肝膿瘍 Liver Abscess】

[どんな病気か]
 肝臓(かんぞう)の局所に膿(うみ)が貯留(ちょりゅう)する病気で、膿が溜(た)まった膿瘍(のうよう)は1つだけ(単発性(たんぱつせい))のことも、多数できる(多発性(たはつせい))こともあります。原因としては、細菌の感染による化膿性肝膿瘍(かのうせいかんのうよう)と、赤痢(せきり)アメーバ原虫(げんちゅう)の感染による赤痢(せきり)アメーバ性肝膿瘍(せいかんのうよう)とがあります。
■化膿性肝膿瘍(かのうせいかんのうよう)
 発熱、右上腹部痛、肝腫大(かんしゅだい)(肝臓の腫(は)れ)が三大症状です。夜間の発汗(はっかん)、倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、体重減少、貧血(ひんけつ)がおこることもあります。
 横隔膜(おうかくまく)近くの肝膿瘍では、胸痛(きょうつう)や呼吸困難をおこすため、肺疾患とまちがいやすいものです。
●原因
 細菌感染が原因で、大腸菌(だいちょうきん)によるものがもっとも多くみられます。以前は虫垂炎(ちゅうすいえん)の原因菌が血流にのって肝臓に達し発生する肝膿瘍(血行性(けっこうせい))が多かったのですが、現在は減少して、胆道感染(たんどうかんせん)によるものが増えています。
 また、敗血症(はいけつしょう)に続発しておこるもの、感染経路が不明の特発性のものも多くみられます。
 なお、胆道感染では多発性の膿瘍が、血行性および特発性では肝臓の右葉(うよう)におこる単発性の膿瘍が多くみられます。
●検査・診断
 細菌感染にともなう白血球(はっけっきゅう)の増加、血沈(けっちん)の亢進(こうしん)、CRP陽性(C反応性たんぱく試験の結果が陽性)などの炎症所見、また、胆汁(たんじゅう)のうっ滞(たい)を示すアルカリホスファターゼ(ALP)、γ‐GTP(ガンマ‐グルタミルトランスペプチダーゼ)、LAP(ロイシン・アミノペプチダーゼ)などの血中濃度が上昇するなどの肝機能障害(かんきのうしょうがい)を示します。
 超音波検査は簡便なうえ、診断に非常に役立ちます。CT検査やMRI検査も行なわれます。
 原因菌の検索には膿瘍内の膿汁(のうじゅう)や血液の培養(ばいよう)が必要になります。
●治療
 抗生物質の使用と、超音波で腹部の画像を見ながら細い管を膿瘍部に挿入(そうにゅう)し、膿汁を体外へ排出する排膿法(はいのうほう)が行なわれます。これらで不十分な場合には手術が行なわれます。
■赤痢(せきり)アメーバ性肝膿瘍(せいかんのうよう)
 化膿性膿瘍と似ていますが、下痢(げり)や血便(けつべん)があったり、症状が軽い場合や、感染後数年以上たってから見つかることもあります。
●原因
 大腸内の赤痢(せきり)アメーバ原虫(げんちゅう)が血流にのって肝臓に運ばれることでおこり(血行性(けっこうせい))、おもに肝臓の右葉に単発性の膿瘍ができます。
 アメーバ赤痢は、以前は熱帯地方への旅行中に感染することが多かったのですが、現在は減少し、男性の同性愛者間の感染が増加しています。
●検査・診断
 血中の抗アメーバ抗体(こうたい)が陽性で、便・膿汁を顕微鏡で調べて原虫の存在が確認できれば診断がつきます。アメーバ性膿汁の特徴は、無臭で、赤褐色をしたアンチョビソース状のため、一見して診断がつきます。
●治療
 抗原虫薬(こうげんちゅうやく)を内服します。東南アジアなどの感染汚染地への旅行中や滞在中には、生水(なまみず)の摂取(せっしゅ)はもちろん、生水で洗った果物・野菜類の摂取も避けたほうがよいでしょう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝膿瘍」の意味・わかりやすい解説

肝膿瘍
かんのうよう

肝臓内に化膿性炎症をおこし限局性に膿(うみ)がたまる疾患であり、病因によって細菌性肝膿瘍とアメーバ性肝膿瘍に分けられる。

[菅原克彦]

細菌性肝膿瘍

胆管結石や胆道悪性腫瘍(しゅよう)による胆道閉塞(へいそく)が原因となる上行性感染、虫垂炎や憩室炎のような腹腔(ふくくう)内感染症による門脈性血行性感染、細菌性心内膜炎のような全身感染症時の肝動脈性血行性感染、まれには腹膜炎や胆嚢(たんのう)炎から炎症が直接波及したり、肝外傷が原因で発症することがある。膿瘍は単発することが多く、大きさは多様である。ときに肺と交通したり、横隔膜下に膿瘍をつくることがある。起炎菌でもっとも多いのは大腸菌、ついでブドウ球菌であるが、まれに嫌気性菌がみられることもある。

 症状は、悪寒を伴う発熱、右上腹部痛、食欲不振などで、肝腫大と圧痛がみられ、肺と肝臓の境界が上昇し、胸水貯留や黄疸(おうだん)などを伴うことがある。検査所見では白血球の増加、アルカリフォスファターゼ値の上昇などがみられ、単純X線像で横隔膜の偏側が挙上し、可動性を失っているのが特徴である。また超音波エコーグラムなどによる画像では、限局性疾患として認められる。治療は、強力な化学療法によるが、無効なときは切開して排膿する。

[菅原克彦]

アメーバ性肝膿瘍

アメーバ赤痢の患者の大腸病巣から赤痢アメーバEntamoeba histolyticaが門脈を介して肝臓に至り、膿瘍を形成する。孤立性で肝臓の右葉に多く、内容はペースト様である。右季肋(きろく)部(みぞおち)痛、発熱のほか、肝腫大がみられる。糞便(ふんべん)からの赤痢アメーバの検出率は低いが、間接的な赤血球凝集試験などの血清学的検査は陽性である。治療には抗アメーバ剤が有効で、膿瘍が消失しないときは穿刺(せんし)吸引療法などが行われる。

[菅原克彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「肝膿瘍」の意味・わかりやすい解説

肝膿瘍 (かんのうよう)
liver abscess

肝臓内に細菌または赤痢アメーバが感染して囊状にふくらんだ病巣部に,膿汁がたまる状態である。細菌性のものでは,胆道感染が肝臓に波及して生じることが最も多いが,虫垂炎などによって細菌が門脈血中に入り,肝臓に病巣を作ることもある。原因菌としては,大腸菌が最も多い。39℃を超える高熱,悪寒・戦慄,持続性の上腹部痛が生じる。肝臓は著しくはれ,強い圧迫痛がみられる。血液中の白血球数も著しい増加を示す。放置すると敗血症を生じ,死亡することも多い。きわめて重篤な病態で,大量の抗生物質投与,外科的排膿,胆汁排出などによって治療を行う。アメーバ性のものは,大腸に感染した赤痢アメーバが,粘膜から門脈血中に入り,肝臓に至って病巣を形成するもので,右葉に多い。囊状の病巣内には,肝臓組織の融解物であるチョコレート様の内容物を含むことが特徴的である。抗原虫剤投与により治療する。
執筆者:

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内科学 第10版 「肝膿瘍」の解説

肝膿瘍(肝膿瘍・肝嚢胞)

 肝膿瘍は化膿性(細菌性)とアメーバ性に大別される.[工藤正俊]
■文献
Kuntz E, Kuntz HD: Hepatology: Principles and Practice, Springer, Berlin, 2002.
Nakaoka R, Das K, et al: Percutaneous aspiration and ethanolamine oleate sclerotherapy for sustained resolution of symptomatic polycystic liver disease: an initial experience. AJR Am J Roentgenol, 193: 1540-1545, 2009.
Okuda K: Hepatobiliary Diseases: Pathophysiology and Imaging, Blackwell Science, London, 2001.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肝膿瘍」の意味・わかりやすい解説

肝膿瘍
かんのうよう
liver abscess

肝臓内に膿瘍が形成される疾患で,細菌性とアメーバ性に分けられる。細菌性のものは多発性で,起因菌は大腸菌が最も多く,その感染経路としては,消化管や骨盤腔内臓器の化膿性炎症が門脈を通じて波及するもの,種々の化膿性疾患の病原菌が肝動脈を通じて肝臓内に入るもの,胆道の化膿性炎症が上行性に波及するものなどがある。アメーバ性はアメーバ赤痢にかかった際,門脈から肝臓に到達したアメーバによって起るもので,熱帯地方には多いが日本ではまれである。

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