肝臓のしくみとはたらき(読み)かんぞうのしくみとはたらき

家庭医学館 「肝臓のしくみとはたらき」の解説

かんぞうのしくみとはたらき【肝臓のしくみとはたらき】

◎肝臓のしくみ
◎肝臓のはたらき
◎肝臓の病気がもたらすおもな症状

◎肝臓のしくみ
 肝臓は、人体の右上腹部に位置し、肋骨弓(ろっこつきゅう)の後ろ側で、横隔膜(おうかくまく)の下にある人体のなかでもっとも重い臓器です(図「肝臓の位置」)。成人の肝臓の重さは、1.2~1.5kgで、体重の約50分の1にあたり、生まれたばかりの新生児(しんせいじ)の肝臓は、体重の約18分の1にもなります。
 肝臓は、厚みがあって大きい右葉(うよう)と、小さい左葉(さよう)に分かれ、下面の中央に血管、胆管(たんかん)、神経が走っています(図「肝臓・周辺臓器と門脈のしくみ」)。
●肝臓の血管系
 肝臓は、ほかの臓器と異なる独特の血液循環系をもっています。
 肝臓に入る血管には、酸素を運ぶ肝動脈(かんどうみゃく)と栄養素を運ぶ門脈(もんみゃく)の2つの血管系があります。肝臓は、この血管系から入ってくる酸素や栄養素を使って、代謝(たいしゃ)、解毒(げどく)、排泄(はいせつ)などの活発なはたらきを行なっています。
 肝臓に送り込まれる血液の量は、約70~80%が門脈から供給され、残りは肝動脈から供給され、心臓から拍出(はくしゅつ)される血液量の約4分の1に相当する多くの血液の循環調節を行なっています。
 門脈は、胃、小腸(しょうちょう)、大腸(だいちょう)、膵臓(すいぞう)および脾臓(ひぞう)からの静脈が集まった血管です(図「肝臓・周辺臓器と門脈のしくみ」)。
 小腸で吸収されたぶどう糖やアミノ酸は、この門脈を通って肝臓に運びこまれます。ですから、肝硬変(かんこうへん)などで肝臓が障害されると、この血流がうっ滞(たい)して門脈の圧が上昇し(門脈圧亢進症(もんみゃくあつこうしんしょう))、側副血行路(そくふくけっこうろ)と呼ばれる異常な血管が門脈と大静脈との間に現われてきます。その1つが吐血(とけつ)の原因となる食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)です。
 門脈は12回枝分かれした後、毛細血管(もうさいけっかん)に相当するもっとも細い血管(類洞(るいどう)と呼ばれる)になります。この血管内皮細胞(ないひさいぼう)には特徴的な小孔(しょうこう)があり、それが血液から肝細胞への物質のとりこみを容易にしています。
 類洞を流れた血液は、肝静脈から下大静脈(かだいじょうみゃく)に入り、心臓に送られます。
 肝動脈は、大動脈から出る腹腔動脈(ふくくうどうみゃく)から枝分かれした動脈で、肝臓の中でさらに左右に分かれます。
 また門脈、肝動脈と並んで胆管(たんかん)が走っています。
 この中を肝臓でつくられた胆汁(たんじゅう)が血液と逆方向に流れ、胆汁は総胆管(そうたんかん)を経て十二指腸(じゅうにしちょう)に排泄(はいせつ)されます。
●肝細胞のしくみ
 肝臓の組織を顕微鏡で見ると、中心静脈(ちゅうしんじょうみゃく)という血管を中心にして、肝細胞が索状(さくじょう)、放射状(ほうしゃじょう)に配列されています。
 中心静脈は、代謝(たいしゃ)や血流調整という肝臓の機能の流れからみると、末梢(まっしょう)に相当するため、最近では中心静脈を終末肝静脈(しゅうまつかんじょうみゃく)と呼んでいます。
 この索状に並んだ肝細胞の周囲には、門脈、肝動脈、細胆管が存在するグリソン鞘(しょう)と呼ばれる部位があります。
 この門脈から類洞、終末肝静脈までを、肝臓の機能的小葉単位(きのうてきしょうようたんい)といいます(図「肝臓の小葉単位」)。
 機能的小葉単位は、アルコールや薬剤によっておこる肝臓障害をはじめ、多くの肝臓におこる病気のしくみを考えるうえで基本となるものです。
●肝細胞の微細なしくみ
 肝細胞は、直径が約20~30μm(マイクロメートル)(1μmは1000分の1mm)の多面体をしています。肝細胞の中には、核のほかに、いくつもの細胞内小器官があり、肝臓のさまざまなはたらきを担っています(図「肝細胞の微細なしくみ」)。
 ミトコンドリアは、楕円形(だえんけい)をしていて二重の膜をもち、細胞の呼吸および細胞のエネルギーの産生を行なっています。
 小胞体(しょうほうたい)にはリボソームをもつ粗面(そめん)小胞体とリボソームのない滑面(かつめん)小胞体とがあります。粗面小胞体はアルブミンなどのたんぱく質の合成を行ない、滑面小胞体はぶどう糖やグリコーゲンの合成や分解、多くの物質の代謝を行なっています。
 ライソソームは細胞内の異物を分解、処理し、ゴルジ装置は毛細胆管の近くにあって、小胞体でつくられた物質や胆汁の分泌(ぶんぴつ)に関係しています。
 また、毛細胆管は肝臓の形質膜(けいしつまく)からなる管腔(かんくう)で、胆汁をはじめ、肝臓にとりこまれて代謝された多くの物質がここに排泄されます。
 肝臓でつくられた胆汁は、毛細胆管に分泌された後、胆管という管を流れ、最終的には総胆管(そうたんかん)という太い管を通って十二指腸内に排泄されます。

◎肝臓のはたらき
 肝臓はよくからだのなかの化学工場、貯蔵庫(ちょぞうこ)にたとえられます。それは肝臓が、腸で吸収されたさまざまな栄養素を代謝、貯蔵するほか、胆汁の生成や分泌、および解毒(げどく)や排泄などの、生命の維持に必要な多くのはたらきを行なっているからです。
 肝臓には約2000種以上の酵素(こうそ)があるといわれ、これらの酵素のはたらきによって、肝臓は以下のようなさまざまな機能を営んでいます。
●代謝機能(たいしゃきのう)
 人間は食物から吸収された栄養素をそのままの形で利用することはできません。したがって、肝臓は、吸収された動物性・植物性の栄養素を別の成分に変えて貯蔵し、必要に応じて、これらを分解してエネルギーを産生しています。
 また、肝臓でつくられた物質は血液中に送り出され、全身の器官や臓器に供給されます。
 栄養素をからだが利用しやすい形に分解・合成するはたらきを代謝といい、肝臓にはつぎのような代謝機能があります。
 糖質代謝(とうしつたいしゃ) ごはん、パンなどに含まれる糖質は、からだのエネルギー源としてたいせつな栄養素です。糖質はぶどう糖に分解された後、小腸から吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれます。ぶどう糖は肝臓内でグリコーゲンに変えられて貯蔵され、必要に応じてグリコーゲンから再びぶどう糖がつくりだされて血液中に放出され、いろいろな組織にエネルギーが供給されています。また、そのぶどう糖の放出量によって、血液中の血糖値(けっとうち)がうまく調節されています。
 ですから、肝硬変のような肝機能が低下する病気になると、グリコーゲンの産生が障害され、肝性糖尿(かんせいとうにょう)といわれる糖尿病状態になります。
 ほかの糖類である果糖(かとう)やガラクトースも、肝臓に入るとすぐにぶどう糖に変えられ、同様に代謝されます。
 たんぱく質代謝(しつたいしゃ) 生体の重要な成分であるたんぱく質は、アミノ酸からできています。アミノ酸は、1つの炭素原子に水素、アミノ基カルボキシル基、および、それぞれのアミノ酸に特有の側鎖が結びついた構造になっています。肉や魚に含まれているたんぱく質は、小腸でアミノ酸に分解されてから吸収され、肝臓に運ばれます。
 食品から得られるアミノ酸は約20種類ありますが、フェニルアラニンなどのように、人間の体内では合成されず、食物から摂取しなければならないものを必須アミノ酸といいます。成人では8種(バリンロイシンメチオニントレオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン)、幼児では9種類(前述のほかにヒスチジン)の必須アミノ酸が、生体活動に必要となります。
 肝臓では、このアミノ酸からさまざまなたんぱく質が毎日約50g合成されています。そして、使われないアミノ酸は分解され、窒素酸化物(ちっそさんかぶつ)、アンモニアを経て尿素(にょうそ)となり、尿中に排泄されます。
 肝臓は、このたんぱく質合成によって、人体にたいせつなはたらきをする血漿(けっしょう)たんぱく質をつくり出し、血液中に放出しています。
 血漿たんぱく質には、アルブミン、α‐グロブリン、β‐グロブリン、リポたんぱく、血液の凝固(ぎょうこ)に必要なフィブリノーゲン、プロトロンビンなどの凝固因子(ぎょうこいんし)があります。
 肝硬変になると、肝臓のたんぱく合成能が低下する結果、低(てい)アルブミン血症(けっしょう)や凝固因子の低下による出血傾向(しゅっけつけいこう)などの障害が現われるようになります。
 脂質代謝(ししつたいしゃ) 脂肪(しぼう)は、三大栄養素(たんぱく質、脂肪、糖質)のうち、もっとも大きなエネルギー源であるだけでなく、脂溶性(しようせい)ビタミンを摂取(せっしゅ)するうえでも、たいせつなはたらきをしています。
 脂肪は、胆汁と膵臓(すいぞう)から分泌される酵素(膵酵素(すいこうそ))によって遊離脂肪酸(ゆうりしぼうさん)とグリセロールに分解され、小腸で吸収されます。
 そして小腸粘膜で再び中性脂肪(ちゅうせいしぼう)に合成され、リンパ管を経て大循環(だいじゅんかん)系(心臓→動脈→全身の臓器・組織→静脈→心臓という血液の流れ)に入り、肝臓にとりこまれます。
 肝臓では、脂肪酸の合成、分解のほか、コレステロールやリン脂質の合成が行なわれています。また、血液中の脂質はリポたんぱくと結合していますが、このリポたんぱくも肝臓でつくられます。
 アルコールの飲み過ぎや、糖尿病、肥満などが原因でおこる脂肪肝(しぼうかん)は、肝臓に中性脂肪が多く蓄積(ちくせき)した状態をいいます。
●解毒機能(げどくきのう)
 肝臓は、いろいろな物質を毒性の少ない水溶性物質(すいようせいぶっしつ)に変え、尿中や胆汁中に排泄します。そのため、肝臓では酸化、還元(かんげん)、加水分解(かすいぶんかい)、抱合(ほうごう)などのさまざまな化学反応が行なわれています。また、類洞にあるクッパー細胞は、肝細胞同様、門脈から肝臓内に入った毒素や異物を食べることで解毒作用を行なっています。
 肝臓のもう1つの解毒作用はアンモニアの代謝です。アンモニアは、腸管内の細菌によって、食物中のたんぱく質からつくられ、門脈を通って肝臓に運ばれます。このアンモニアは、肝臓のたんぱく質代謝機能によって尿素に変えられ、尿中に排泄されます。
 アンモニアは人体にとって有害な物質で、肝硬変などで肝機能が低下すると、血液中のアンモニア含有量が増えて脳が障害され、肝性脳症(かんせいのうしょう)といわれる意識障害をおこします。

◎肝臓の病気がもたらすおもな症状
 肝臓の病気にかかってもすぐには症状がでにくいことから、肝臓はよく「沈黙の臓器」といわれています。
 症状のないことは、患者さんにとってよい反面、逆に知らないうちに肝臓の病気が進み、わかった時点ではかなり進行している、という場合もあります。手遅れにならないよう、肝臓の病気のおもな症状を覚えておきましょう。
●全身の倦怠感(けんたいかん)
 疲れ、だるさは人によって感じ方が異なりますが、急性肝炎(きゅうせいかんえん)になると、食欲不振、吐(は)き気(け)とともに強い倦怠感が現われます。脂肪肝(しぼうかん)、慢性肝炎(まんせいかんえん)、肝硬変(かんこうへん)などの慢性肝疾患(まんせいかんしっかん)のある人は、この倦怠感を訴えることが多く、この場合、肝機能の増悪(ぞうあく)をともなっている場合とそうでない場合があります。
●黄疸(おうだん)
 血液中にビリルビンという色素が増えている状態で、眼球結膜(がんきゅうけつまく)(白目(しろめ)の部分)、皮膚や粘膜(ねんまく)が黄色くなってくる症状です。人によっては、尿の色が濃くなったり、便の色が灰白色になって黄疸に気づく場合もあります。
 黄疸がおこるのは、急性肝炎、肝硬変などの肝臓の病気だけではありません。胆石(たんせき)やがんによって胆汁(たんじゅう)の流れる道が塞(ふさ)がれてしまう閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)、溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)という血液の病気、生まれつき黄疸を示す体質性黄疸(たいしつせいおうだん)など、さまざまな病気でおこってきます。
 いずれにせよ、からだにとって危険な信号ですから、黄疸が現われたら速やかに医療機関を受診すべきです。
●手掌紅斑(しゅしょうこうはん)
 手のひらの親指や小指のつけ根のふくらんだ部分が異常に赤くなり、点状の赤い斑点(はんてん)が散在しているもので、慢性肝障害の人によくみられます。
●クモ状血管腫(じょうけっかんしゅ)
 肝硬変の人は、前胸部(ぜんきょうぶ)、くび、肩、腕に赤く隆起(りゅうき)した斑点がみられます。これは小動脈の血管が拡張しているためで、よくみると赤い隆起を中心に毛細血管(もうさいけっかん)が放射状に浮き出ています。
 中心の赤い隆起部分を押すと周囲の毛細血管は消えますが、離すとまた現われる特徴があります。
●女性化乳房(じょせいかにゅうぼう)
 肝硬変の男性では、乳房が女性のように大きくなることがあります。押すと痛み(圧痛(あっつう))があり、中にしこりを触れることがあります。これは肝硬変によって肝臓での女性ホルモンの分解力が低下し、女性ホルモンが血液中に増加するためと考えられています。
 ひげや陰毛(いんもう)が薄くなり、睾丸(こうがん)が萎縮(いしゅく)する場合もあります。
●腹水(ふくすい)、浮腫(ふしゅ)
 肝硬変になると、尿の出が悪くなり、下肢(かし)がむくんだり(浮腫)、腹部に水が溜(た)まってカエルの腹のようにふくれること(腹水(ふくすい))があります。
 これらの症状は、進行した肝硬変で、肝機能がかなり障害されている場合にみられます。しかも腹水の溜まり始めは気づかないことが多いため、体重の増加には注意が必要です。
●吐血(とけつ)
 肝硬変の人が、突然血を吐(は)くことがあります。この吐血の原因としては、食道の粘膜にできる食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)、胃(い)・十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)、出血性胃炎などがあげられますが、肝硬変による吐血は血が止まりにくく、とくに食道静脈瘤の破裂(はれつ)は大量に出血して死に至ることがあります。吐血した場合はすぐに医療機関を受診しなければなりません。幸いなことに、最近は内視鏡的治療(ないしきょうてきちりょう)によって、出血による死亡はかなり減ってきました。
●肝性脳症(かんせいのうしょう)
 進行した肝硬変や劇症肝炎(げきしょうかんえん)などの重症の肝障害では、血液中のアンモニアが上昇し、肝性脳症といわれる意識障害をひきおこすようになります。
 症状は、進行の程度によりさまざまですが、精神活動が鈍くなり、徘徊(はいかい)、尿や便の失禁(しっきん)、異常な言動などがみられます。このような症状をおこした後は、よく眠るようになり、最後に昏睡(こんすい)におちいります。
 このような人には、手首が羽(は)ばたくように震える羽ばたき振戦(しんせん)、芳香性(ほうこうせい)の独特の口臭(こうしゅう)(肝性口臭(かんせいこうしゅう))があります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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