肝萎縮症(読み)かんいしゅくしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝萎縮症」の意味・わかりやすい解説

肝萎縮症
かんいしゅくしょう

肝組織が急激に広範な壊死(えし)に陥り崩壊する結果、正常肝と比べて高度萎縮した肝臓の状態をさす。臨床症状は激烈を極め、高度の黄疸(おうだん)、肝性昏睡(こんすい)に陥り、発症後数日から数週のうちに死の転帰をとる。この場合の肝臓は病理学的に急性または亜急性肝萎縮と診断されるものに一致する。黄色または赤色肝萎縮ともよばれる。肝臓の表面にはしわが寄り、成人健常男性で1200~1400グラム、女性で1100~1300グラムある肝重量が、それぞれ800グラムと600グラム、あるいはそれ以下に減少する。色は健常時の暗赤褐色から汚い赤黄色となり、黄色肝萎縮とよばれるわけであるが、これは脂肪変化が強く、胆汁うっ滞も高度な肝細胞による色調の変化である。赤色肝萎縮はさらに肝細胞が強く崩壊したときの状態で、肝細胞が消失する結果、赤血球の色が強く出て赤色を呈し、脾臓(ひぞう)の割面によく似た像を示す。肝炎ウイルスや薬物(ハロセンテトラサイクリンなど)のほか、毒キノコ、四塩化炭素や黄リンなどの薬物中毒などでおこる。なお動物実験では、含硫アミノ酸の欠乏など栄養障害でも肝萎縮がおこることが知られている。

 肝萎縮症という病名は病理形態学的な記述を重視したもので、現在同一疾患の臨床診断名としては劇症肝炎急性肝不全が用いられている。また、病理学的にも肝萎縮の原因となる肝細胞の広範壊死または亜広範壊死のほうが用いられており、どちらかといえば古い用語ということになる。なお、肝萎縮症は、肝細胞の再生能が低く、壊死の進行が速いために肝不全状態で死亡する場合をいい、再生が盛んで偽小葉をつくる肝硬変とは異なる。

[太田康幸・恩地森一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「肝萎縮症」の意味・わかりやすい解説

肝萎縮症 (かんいしゅくしょう)
hepatic atrophy

肝臓は成人では1300~1500gあり,体内では最大の臓器である。急性肝炎に引き続き劇症肝炎fulminant hepatitisが発症したとき,および高度に進行した肝硬変では,肝臓は著しく小さくなる(萎縮する)。これを肝萎縮症という。劇症肝炎により死亡した患者の病理解剖を行うと,肝臓は300~800gと萎縮し,その内部は黄色または赤色を呈するため,急性黄色または赤色肝萎縮と呼ばれる。病理組織学的にも,ほとんどの肝細胞が変性壊死に陥っており,肝臓の萎縮は肝細胞の崩壊により生じるものである。医師は,急性肝炎患者に対し,胸部と腹部の打診と触診をくりかえし行うことにより,肝臓の大きさに注意するが,肝臓の急速な縮小と黄疸の増強は劇症肝炎への移行の徴候として重視しているからである。肝硬変における萎縮は,年余の長期にわたり,徐々に生じる肝細胞の脱落と繊維の増生によるものであるが,肝臓の右葉に著しく,左葉はむしろ軽度の肥大を示すことが多い。
肝炎
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