日本大百科全書(ニッポニカ) 「胃液検査」の意味・わかりやすい解説
胃液検査
いえきけんさ
胃の外分泌機能を調べる臨床検査。胃の内分泌機能検査である血中ガストリン(胃液を分泌させるホルモン)の測定と併用することにより胃疾患、とくに各種の消化性潰瘍(かいよう)の鑑別診断に用いられる。胃液中には、塩酸、ペプシンを中心とするタンパク分解酵素群、ビタミンB12の吸収に必要な内因子などの生物学的活性因子が含まれているが、そのいずれもが検査の対象となる。しかし一般には実施の容易な塩酸を測定することが多い。検体としては当然のことながら胃液が用いられるが、そのほかに血液や尿から間接的に胃の外分泌機能を知る方法も種々くふうされている。1983年(昭和58)、日本消化器病学会の胃液測定法検討委員会で標準法が定められている。
標準法では、早朝空腹時に経口あるいは経鼻的に胃管を挿入し、残留胃液をことごとく吸引採取したのち、1時間にわたり持続吸引を続行して基礎分泌を観察し、ついでテトラガストリン体重1キログラム当り4マイクログラム、ペンタガストリン1キログラム当り6マイクログラム、塩酸ベタゾール1キログラム当り1ミリグラムなどの分泌刺激剤を投与し、さらに1時間にわたって胃液の持続吸引を行い、最高刺激試験とする。採取した胃液は10分ごとにプールし、pH7.0を滴定終末点として滴定に要したアルカリ量から滴定酸度mEq/lを算定し、胃液分泌量とあわせて酸分泌量を計算する。ときにペプシン活性が測定されることもある。臨床的には基礎分泌1時間当りの基礎酸分泌量および最高刺激1時間当りの最高酸分泌量が重視され、とくに後者は、酸分泌細胞である壁細胞の総数を反映すると考えられている。したがって胃液検査は、胃粘膜の組織学的情報をもたらすところから化学的生検ともいわれる。内視鏡的正常胃粘膜症例の基礎酸分泌量は男性で1時間当り2.6±3.8mEq、女性で1.7±1.7mEqであり、最高酸分泌量は男性で1時間当り13.0±6.9mEq、女性で10.2±4.7mEqと報告されている。
標準法以外に胃液を直接の検査対象とする方法としては、カフェインを分泌刺激として胃管を介し胃内に注入するカッチ‐カルクKatch-Kalkの分割採取法が知られるが、古典的方法に属する。そのほか、インスリン試験は迷走神経切断の効果判定に用いられている。また、胃内のカプセルによりpHを知る方法も開発されている。血液を検体とする場合には、ラジオイムノアッセイ(放射標識免疫検査法)によるペプシノゲン定量が普及しつつある。また、尿を検体とする場合は、経口投与されたイオン交換樹脂が胃内で塩酸に遭遇し、遊離・吸収された色素が、血行を介して腎から尿中に排出されることを利用した無胃管法が知られる。しかし、これは定性的情報に限られ、陰性だからといってかならずしも無酸症とは限らないので、注意が必要である。
[石森 章]