梅毒トレポネマの感染によって生ずる脊髄障害で,通常梅毒の第3期(晩期)に発病する。脊髄後根および後索に変性を生じるため,深部感覚の鈍麻と,これに基づく脊髄癆性運動失調を生ずる。起立歩行の障害はとくに視覚による代償を除去したときに著しく,目を閉じては立っていることができずに倒れてしまう(ロンベルク徴候)。下肢,とくに足首,ひざなどに瞬間的な激しい電撃様疼痛や,上腹部に発作性の激痛(胃発症)などがみられる反面,腱や神経幹,睾丸などを強く圧迫したときに生ずる深部痛覚は失われる。関節の無痛性腫張や足底潰瘍などの変形,視神経萎縮,瞳孔異常,尿失禁,腱反射消失が認められることが多く,また髄液の梅毒反応は陽性である。ペニシリンなどによる駆梅療法で症状を改善することができるが,疼痛発作などは継続することが多い。
→梅毒
執筆者:岩田 誠
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梅毒に感染後10年以降に発生する変性梅毒の一つであり、脊髄後索の退行変性が原因である。症状は多様であり、電撃のような痛み、温度感覚の異常、知覚の異常、歩行障害および膀胱(ぼうこう)や直腸の障害などを伴う。
[岡本昭二]
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…運動麻痺がないにもかかわらず,随意運動がうまく行われない状態に対して用いられたことばであるが,その概念をはっきりと定着させたのはデュシェンヌ・ド・ブーローニュGuillaume B.A.Duchenne de Boulogne(1806‐75)である。彼は1858年に脊髄癆(せきずいろう)の運動障害について述べ,それが運動麻痺によるものではなく,運動を遂行するにあたって,作動すべきいくつかの筋肉の協調がうまくいかないために生ずることを明らかにした。彼はこの病態に対し運動失調症locomotor ataxiaの語を与えた。…
…反射中枢は,ヒトでは第2~4腰髄にある。脊髄癆(ろう),脊髄前角炎,多発性神経炎,脚気等で反射弓のどこかが障害されると,この反射は減弱・消失するため,これら疾患の検査に利用される。一方,脳出血や反射中枢より上位の脊髄疾患等で上位中枢からの抑制性の影響が弱まると,この反射は亢進する。…
…(2)には早期型(感染後2年以内に発症)と後期型(感染後4~10年で発症)とがあり,髄膜炎症状を中心とした多彩な症状を呈する。(3)では脊髄癆(ろう)(約30%)と進行麻痺(約15%)が重要で,10年以上の潜伏期の後に発症する。前者では電撃痛,発作性内臓痛,失調歩行,腱反射消失,瞳孔異常などが,後者では人格変化,知能低下,痙攣(けいれん)などが特徴的症状である。…
※「脊髄癆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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