脊髄硬膜外膿瘍

内科学 第10版 「脊髄硬膜外膿瘍」の解説

脊髄硬膜外膿瘍(細菌感染症)

(5)脊髄硬膜外膿瘍(spinal epidural abscess)
概念
 脊髄硬膜外腔に膿が貯留した状態.背部痛・腰痛で発症し,発熱膿瘍による圧迫・虚血で脊髄・神経根症状が呈する.近傍の感染巣や外傷・穿通創からの感染,菌血症からの血行性で起きる.治療は抗菌薬と脊髄障害に対する迅速な外科的減圧ドレナージを行う.迅速な診断と治療が重要な神経救急疾患である.
疫学・病態生理
 1万入院患者中0.2~2例とまれだが,最近は高齢化・薬物乱用HIVの増加に伴い増加傾向にある.2:1でやや男性に多い.感染経路には,①直達性→脊椎骨髄炎・椎間板炎,腸腰筋膿瘍,体幹・背部の褥瘡や皮膚化膿巣,体幹脊椎外傷や手術などからの感染,②血行性→菌血症を介した場合,③医原性→硬膜外麻酔や硬膜外カテーテル留置からの感染,がある.①では皮膚膿瘍・フルンケルからの感染が最も多く,③では硬膜外麻酔や麻酔処置は5.5%と低い.起炎菌は黄色ブドウ球菌が70%と最も多い(図15-7-12)が,連鎖球菌属・Gram陰性桿菌や結核菌および真菌でも起こす.発症部位は硬膜外腔の脂肪組織中の静脈叢が発達している胸椎・腰椎が最も多い.脊髄障害は膿瘍による圧迫や血流障害で起きる.
臨床症状
 初発は背部痛が70~90%と最も多く,発熱が60~70%で続く.病像の進展により4期に区分され,第1期は発熱と腰・背部の自発痛と圧痛,第2期は神経根痛など局所の根症状(12~47%)と髄膜刺激徴候の出現,第3期は両下肢の脱力,感覚障害,膀胱直腸障害など脊髄症状の出現,第4期は両下肢の対麻痺(34%)を呈する.危険因子として糖尿病が最も多く,外傷,薬物乱用,アルコール依存症が続く.このほか,末期の腎障害,HIV感染,悪性腫瘍などがあげられる.しかし,20%の患者は危険因子を有さない.
診断・検査成績
 背部痛・腰痛と発熱をみたら本症の可能性を考慮する.診断には脊椎のMRIが必須である.血清CRPの上昇・末梢白血球数増加・赤沈の亢進を伴う.
1)脊椎MRI:
病変はT2強調像で高信号,T1強調像で等~低信号を認め,Gd-DTPA造影でびまん性あるいはリング状の増強を示す(図15-7-12).MRIは病巣分布の把握,骨髄炎や椎間板炎などの感染原発巣の確定の点からも重要.
2)脊椎X線,CT:
骨髄炎など原発巣の検索上行う.
3)髄液検査:
通常,髄膜炎を伴わない場合,軽度~中等度の細胞増加と蛋白増加を示す.糖濃度は通常正常である.
治療
 ブドウ球菌やGram陰性桿菌を想定した高用量の抗菌薬治療を長期要するが,膿瘍による圧迫などで脊髄障害を呈した場合は,迅速なドレナージや椎弓切除を含めた外科的減圧が必要である.しかし,完全麻痺から48~72時間以上を経過した症例や膿瘍が広範囲に及ぶ場合は外科的処置は行わない.死亡率は10~23%である.[亀井 聡]
■文献
Reihsaus E, Waldbaur H, et al: Spinal epidural abscess: a meta-analysis of 915 patients. Neurosurg Rev, 23: 175-204, 2000.
Tompkins M, Panuncialman I, et al: Spinal epidural abscess. J Emerg Med, 39: 384-390, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「脊髄硬膜外膿瘍」の解説

せきずいこうまくがいのうよう【脊髄硬膜外膿瘍】

 脊髄を取り囲む硬膜の外側に化膿菌(かのうきん)による膿瘍ができ、脊髄などを圧迫する病気です。
 原因菌はブドウ球菌(きゅうきん)のことが多く、からだの各部の感染症に引き続いておこります。
●症状
 おこりやすいのは胸椎(きょうつい)で、背中の両側の痛みで始まります。痛みは持続性で、寝て安静を保ってもおさまらず、せきやくしゃみをすると痛みが強くなります。放置すると、2~3日で両下肢(りょうかし)(両脚(りょうあし))がまひします。
 ほかの脊髄の圧迫性疾患と異なり、発熱、震(ふる)えなどの全身的な炎症症状があります。
●検査
 診断には、MRI検査が必要です。硬膜外穿刺(こうまくがいせんし)で硬膜外腔(こうまくがいくう)から膿(うみ)が吸引されることで診断できます。
●治療
 抗生物質を使用し、できるだけ早く手術をして膿を取り除き、脊髄に対する圧迫を減らすとまひが軽くなります。両下肢のまひが高度になると、回復は困難です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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