脱法ハーブ(読み)ダッポウハーブ(英語表記)synthetic cannabis

デジタル大辞泉 「脱法ハーブ」の意味・読み・例文・類語

だっぽう‐ハーブ〔ダツパフ‐〕【脱法ハーブ】

危険ドラッグの一種。大麻覚醒剤と同様の作用をもつ化学物質を乾燥した植物片に添加したもの。「合法ハーブ」と称して販売されるが、重大な健康被害事故を引き起こす原因となる。

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共同通信ニュース用語解説 「脱法ハーブ」の解説

脱法ハーブ

脱法ドラッグの一種で、乾燥させた植物の葉に、幻覚や興奮作用がある化学物質を混ぜて作る。厚生労働省薬事法に基づき、個々の物質の成分分析で人体への作用を確認して「指定薬物」に定め、製造販売や輸入を禁止していたが、成分構造の一部を変えた物がすぐに出回り、いたちごっこになっている。このため、基本構造が似た物質をまとめて規制する「包括指定」の仕組みを導入。4月からは改正薬事法が施行され、指定薬物を所持することも処罰対象となった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脱法ハーブ」の意味・わかりやすい解説

脱法ハーブ
だっぽうはーぶ
synthetic cannabis

法の不備などで違法とされていない大麻成分類似の合成薬物を、乾燥させた葉や茎などの植物片に吹きつけた大麻類似品。インターネットや店頭で購入できる。表向きはお香やアロマの名目で売られているが、煙草のように煙を吸うと大麻同様に催眠、興奮、幻覚、幻聴などの作用があり、意識障害や呼吸困難になることもある。

 カンナビノイドcannabinoid(大麻の化学成分の総称)の一種である大麻の主成分THCテトラヒドロカンナビノール)は、脳などにあるカンナビノイド受容体に結合して作用する。脱法ハーブの主成分である合成カンナビノイドsynthetic cannabisもこの受容体に働き、THC類似の精神作用をもたらす。代表的な脱法ハーブ「スパイス」は当初、ヨーロッパでは合法であったが、2008年ごろから規制されるようになった。日本では2009年(平成21)から流通し始め、厚生労働省の指定薬物として規制対象にはなったが、業者が対象外にするために合成カンナビノイドの構造を少しずつ変えており、いたちごっことなっている。そのため、厚生労働省は2013年に指定薬物と化学的構造が類似するものを一括して規制する「包括指定」を導入している。元になるTHCは日本では「麻薬及び向精神薬取締法」(昭和28年法律第14号)で規制されているが、THC自体には鎮痛、抗炎症、抗不安、食欲増進などの薬理作用があり、欧米のかなりの国では薬として用いられているため、流通を完全に断ち切ることもむずかしい。

 2012年5月には大阪府下で、脱法ハーブを吸った男が乗用車で暴走事故を起こすなど、脱法ハーブのもつ危険性が現実となり、その対応が課題になっている。和歌山県は2013年4月から全国で初めて脱法ハーブの販売・購入者に対し、誓約書を義務づける条例を施行した。購入者には「吸引しない」との誓約書をとるが、その効果は十分とはいえない。

[田辺 功]

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知恵蔵 「脱法ハーブ」の解説

脱法ハーブ

大麻や覚醒剤などの違法薬物と類似した成分を吹き付けた香草。法規制の対象から外れているが、催眠・興奮・幻覚・幻聴作用などがあり、痙攣(けいれん)・意識障害・呼吸困難などの重篤な健康被害を引き起こす恐れもある。
日本国内では2009年頃から欧米経由で流通し始め、12年3月末時点では少なくとも29都道府県389業者が確認されている(厚生労働省発表)。体内摂取を目的とする未承認薬物の売買は薬事法違反になるため、販売店はお香・アロマ・鑑賞用の「合法ハーブ」「合法アロマ」などと称して販売している。しかし、厚生労働省は「合法」という呼称を使わず、「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)」の一つとして、販売業者の監視・指導を強めている。実態としても、吸引目的の売買が前提で、販売店の中にはパイプなどの喫煙具と一緒に販売しているところも少なくない。
脱法ハーブは麻薬や覚醒剤につながる入門薬物(ゲートウェイ)とも呼ばれるが、身体への影響が未確認な成分を含むものも多く、治療方法も確立されていないため、「禁止薬物」以上に危険だという声もある。実際、吸引者の救急搬送や吸引が主因とみられる死亡例も増えている。12年5月には大阪市で、脱法ハーブを吸った男が乗用車で商店街を暴走。ひき逃げ・当て逃げ事故を起こし、危険運転致死罪の容疑で逮捕された。
厚生労働省は07年から、人体への有害性を確認した上で、薬事法の取り締まり対象とする「指定薬物」制度をスタートさせている。12年7月末時点で73種の化学物質を指定しているが、主成分(合成カンナビノイド)の化学式を一部だけ変えた「新製品」が後を絶たず、規制とのいたちごっこが続いている。これに加えて最近は、覚醒剤に酷似したα-PVPを含む薬物が販売されているという報告もある。
厚生労働省は、類似成分を含む物質を一括して規制する「包括指定」制度の導入を検討しているが、09年に同制度を導入したイギリスでは、6グループの物質を包括指定し、数百種を規制したものの、すぐに別の構造をもつ新たな薬物が現れたという。「包括規制」は一定の効果はあるものの、対象を広げすぎると新薬開発などの妨げになり、逆に狭めすぎると抜け道が多くなるというジレンマもある。

(大迫秀樹  フリー編集者 / 2012年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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