腎炎(読み)ジンエン(その他表記)nephritis

翻訳|nephritis

デジタル大辞泉 「腎炎」の意味・読み・例文・類語

じん‐えん【腎炎】

腎臓炎症が起きている状態。特に、糸球体腎炎をいう。腎臓炎。
[補説]腎臓に起こる炎症性疾患には他に間質性腎炎腎盂腎炎がある。

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精選版 日本国語大辞典 「腎炎」の意味・読み・例文・類語

じん‐えん【腎炎】

  1. 〘 名詞 〙 腎臓の糸球体に炎症性病変を示す疾患。むくみ、血尿、蛋白尿、血圧上昇などを主症状とする。重症になると尿毒症を起こし、死亡する。急性と慢性とがあり、急性ははっきりした上気道感染後に発症するもの、慢性は徐々に発症したものをいう。糸球体腎炎。腎臓炎。〔医語類聚(1872)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「腎炎」の意味・わかりやすい解説

腎炎 (じんえん)
nephritis

腎臓に起こった炎症性病変をさし,腎臓炎ともいう。1827年ブライトRichard Bright(1789-1858)は,タンパク尿と浮腫を腎臓の組織異常と関連づけて,ブライト病を記載し,泌尿器科的疾患とは異なった腎臓疾患があることを明らかにした。以降,ブライト病についての病理学的研究が進められ,79年には糸球体腎炎が,1905年にはネフローゼが記載された。そこで,14年フォルハルトF.Volhardらは,これらの疾患を整理・分類して,ブライト病を,尿細管の上皮の変性を主体としたネフローゼnephrose,糸球体の炎症性病変を主体とした腎炎,腎臓の動脈硬化を主体とする腎硬化scleroseの3型に分けた。これが現在の腎臓病学の基礎となったが,その後の研究によってフォルハルトらの分類には矛盾や欠陥があることが明らかになり,さらに各種の分類が試みられている。現在,単に腎炎というときには急性または慢性の糸球体腎炎glomerulonephritisをさすが,とくに慢性糸球体腎炎についての分類は,いまだ十分確立されたものではなく,今後病因が明らかにされるにつれて再編成されることも考えられている。

単に急性腎炎ともいう。両側の腎臓の糸球体に起こる急性の非化膿性の炎症性病変で,溶連菌感染後に起こるものとそれ以外のものに大別される。溶連菌以外のものとしては,ブドウ球菌肺炎双球菌,各種のウイルスなどの感染があるが,溶連菌によるものの場合が急性糸球体腎炎の多数を占める。病気の発生には免疫反応が関与しており,各種の感染によってつくられた抗原抗体複合体が糸球体に沈着して,炎症が起こると考えられている。

(1)症状 主として咽頭炎,扁桃炎などの上気道感染症,猩紅(しようこう)熱,中耳炎など,先行する感染から1~4週間後に,浮腫,血尿,タンパク尿,高血圧,体重増加,乏尿などの症状を伴って発症する。あらゆる年齢にみられるが,8~14歳の学齢期の児童に最も多くみられ,以降年齢が高くなるにしたがって減少する。性別では男に多く,季節的には冬に多発する傾向がある。血尿はコーヒー様のものから,顕微鏡で見なければわからないものまであり,またタンパク尿も高度のものから,比較的早く消失するものまである。成人や老人などでは,このような尿症状以外ほとんど無症状のこともある。浮腫は一般にそれほど高度ではなく,また高血圧や乏尿も一過性のことが多い。

(2)診断と治療 診断は症状と,腎機能検査糸球体ろ過量の低下),血液検査(好酸球増加,赤沈の促進),血清学的検査(血清ASLO価上昇,補体価の低下),眼底検査などの検査結果によるが,典型的な症状がそろえば比較的容易である。しかし,成人や老人など典型的な症状がないときには,慢性腎炎の急性の悪化,急速進行性糸球体腎炎など類似の症状を示す他の疾患と区別しにくい。

 治療としては,安静(とくに発症後1~2週間),食事療法(食塩とタンパク質の制限など),感染巣の再燃を防ぐための抗生物質の投与などを中心とした薬物療法が行われるが,これらはすべて対症療法であり,特別の治療法はない。治癒率は児童では90%以上,成人では60~75%とされ,多くの場合,比較的短期間に治癒するが,6ヵ月以上過ぎてもタンパク尿や血尿が残って慢性腎炎に移行したり,まれに心不全,急性腎不全などによって急性期に死亡することもある。

 なお,急性糸球体腎炎には,上記の溶連菌感染症あるいはそれ以外の感染症によるもののほか,種々の原因によって急激に発症し,数週間から数ヵ月で重症の腎不全に陥る急速進行性糸球体腎炎rapidly progressive glomerulonephritis(RPGN)などが含まれる。

慢性腎炎ともいわれ,糸球体腎炎のうち,急性糸球体腎炎を除き,慢性に経過するものの総称である。急性糸球体腎炎が慢性化したものをはじめ,さまざまの原因によるものが含まれると考えられており,今後,原因が明らかにされるにつれて,さらに再分類されると考えられている。一般に症状は慢性化した尿症状(タンパク尿,顕微鏡的血尿など)が中心であり,高血圧,動脈硬化,ネフローゼ症候群による症状など,病型により種々の症状を示す。尿症状以外に自覚症状のない場合を無症候性タンパク尿というが,一方で,腎排出機能の低下による腎不全の進行,腎硬化性腎炎などによって,予後不良となるものもある。治療は,病気を悪化させる腎外性進行因子の排除と食事療法による。
腎不全
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食の医学館 「腎炎」の解説

じんえん【腎炎】

《どんな病気か?》


〈自覚症状の少ない慢性腎炎。放置すると腎不全に。〉
 腎臓(じんぞう)には、毛細血管(もうさいけっかん)が糸くず状にかたまった糸球体(しきゅうたい)という組織があり、血液をろ過して尿をつくりだしています。この糸球体が炎症を起こす病気が腎炎(じんえん)で、急性と慢性があります。
 急性腎炎は溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)(溶連菌(ようれんきん))などの細菌が上気道(じょうきどう)などに感染して抗体(こうたい)をつくり、細菌と抗体が結合したものが動脈を通って腎臓に入り、糸球体を障害して起こります。
 子どもに多く発病しますが、大人でもかかることがあり、そのうち1割ほどの人は、慢性腎炎に移行します。初期には入院による絶対安静ときびしい食事制限が必要です。
 慢性腎炎は、急性腎炎が治りきらずに移行するケースも多少はありますが、9割は原因不明です。症状はまぶたのむくみ、血尿(けつにょう)、尿量の減少、血圧の上昇などですが、自覚症状が強くはでず、大半は定期検診の尿検査などで発見されます。

《関連する食品》


〈急性腎炎の場合は、食事や水分の制限が必要〉
○栄養成分としての働きから
 急性腎炎の場合、たんぱく質の老廃物が腎臓にたまるのを抑えるため、食事のたんぱく質量を正常なときの半分くらいに制限します。
 初期にはむくみもあるため、水分量も制限します。尿量も減り、カリウムの排泄(はいせつ)が悪くなっているので、生野菜やくだものなど、カリウムの多い食品もひかえます。
 一方、慢性腎炎では、腎機能が正常であれば、たんぱく質を極端に制限する必要はありません。むくみがない場合は、水分制限も必要ありません。また、急性、慢性いずれの場合も、塩分摂取量をひかえます。
〈ビタミンA、B群、セレン、亜鉛も有効〉
 腎炎には、腎疾患全般に有効なIPA(イコサペンタエン酸)やグリシニン(「腎疾患とは」参照)のほか、体内の免疫力アップによいとされるビタミンAやB群、セレン、亜鉛(あえん)といったミネラルも効果的です。
 ビタミンAは、動物性のレチノールと植物性のカロテンから摂取できますが、たんぱく質の多い動物性食品よりも、コマツナやニンジンといった緑黄色野菜に含まれるカロテンを多くとるようにしましょう。
 また、ビタミンB群を効率よくとるには、B群をまんべんなく含む玄米(げんまい)や小麦全粒紛(ぜんりゅうこ)を主食にとりいれるといいでしょう。玄米にはセレンも豊富で、ほかにワカサギやイワシ、ネギにも含まれています。
 たんぱく質制限がなければ、亜鉛を多く含むカキ、牛もも肉、納豆なども利用したい食品です。
 また、ビタミンCには、かぜなどのウイルスが腎臓に侵入するのを防ぐ働きがあり、腎炎に有効です。ビタミンCは野菜やくだものに多く含まれますが、急性期で尿量が減っているときはカリウムをひかえたほうがよいので、ブロッコリーやコマツナなどの野菜をゆでて、カリウムを減らして食べるといいでしょう。
○漢方的な働きから
 漢方では、アズキ、スイカ、ダイズなどに利尿作用があります。浮腫(ふしゅ)(むくみ)が起こりやすい人は、これらの食品をとるといいでしょう。

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百科事典マイペディア 「腎炎」の意味・わかりやすい解説

腎炎【じんえん】

腎臓の炎症性疾患。腎臓炎とも。急性と慢性とに分けられる。急性腎炎は普通なんらかの感染と関係があり,特に溶血性連鎖球菌の上気道感染が先行することが多い。全身倦怠(けんたい),頭痛,微熱,浮腫,血尿,尿量減少,高血圧などの症状があり,尿中にタンパク,赤血球,顆粒(かりゅう)尿円柱などを認める。原因感染の治療のほか安静と保温が最も重要。浮腫があれば食塩制限,乏尿や尿素排出の障害があれば水分,タンパク質などの制限を行う。心不全,高血圧性脳症,急性腎不全などを合併することがある。死亡することは少なく,80〜90%は数週間でなおるが,一部は慢性腎炎に移行する。慢性腎炎は急性からの移行のほか最初から慢性として発病するものもある。一般に浮腫のほか症状は少なく,長期にタンパク尿が続き,尿中に赤血球や各種尿円柱を認める。きわめてなおりにくいが,腎機能の障害がない限り,過度の運動を避け,食事に注意する程度の生活でよい。しかし重症の場合は腎機能の障害から尿毒症,心臓衰弱,脳出血などにより死亡したり,萎縮(いしゅく)腎に移行したりする。
→関連項目血液透析早産妊娠腎泌尿器科扁桃炎扁桃肥大溶血性連鎖球菌

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腎炎」の意味・わかりやすい解説

腎炎
じんえん

腎臓の炎症のことで、おもに腎臓の実質である糸球体が細菌感染によって侵され、腎機能が障害される。現在では糸球体腎炎と同義に使われる場合が多い。主として溶連菌が体内のどこかに感染し、その毒素に対するアレルギー現象として発症する。浮腫(ふしゅ)、血圧上昇、血尿、タンパク尿がみられ、急性と慢性に大別される。

 なお、間質性腎炎は腎実質の炎症である糸球体腎炎に対してよばれたもので、種々の病因によっておこる腎間質を中心とした非特異的反応状態をいい、急性と慢性がある。

[加藤暎一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腎炎」の意味・わかりやすい解説

腎炎
じんえん
nephritis

腎臓の炎症性疾患の総称。遺伝性の有無により遺伝性腎炎 (アルポート症候群) と後天性腎炎,障害部位により糸球体腎炎腎盂腎炎,経過によって急性と慢性とに分けられる。また特殊なものとして,腎膿瘍,腎周囲炎,腎結核も腎炎に含められる。糸球体腎炎は,溶血性レンサ球菌の感染による直接の炎症ではなく,感染症に続発する抗原抗体反応によって起るびまん性の腎疾患である。腎炎はいずれも末期には腎不全や萎縮腎を起し,尿毒症に移行するので,早期に適切な治療をすることが必要である。

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栄養・生化学辞典 「腎炎」の解説

腎炎

 腎臓の炎症.

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世界大百科事典(旧版)内の腎炎の言及

【病巣感染】より

…すなわち身体のどこかに限局した慢性の炎症性病巣(これを原病巣focusという。たとえば慢性扁桃炎など)があり,それ自体はほとんど無症状か,もしくはときに軽い症状を呈するといった程度にすぎないのに,病巣から離れた各種臓器(たとえば腎臓)に障害,すなわち二次的疾患(たとえば腎炎)を起こすことをいう。 原病巣として最もよく知られているのが扁桃,次いで歯牙関係疾患であり,それぞれ60%,30%を占めるという。…

※「腎炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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