家庭医学館 「腎臓損傷」の解説
じんぞうそんしょう【腎臓損傷 Renal Injury】
腎臓は、外力から保護されやすい位置にあるため、傷が体外に開いた(開放性)損傷はおこりにくいものです。
腎臓損傷は、交通事故や労働災害などによっておこるもので、肝臓など他の臓器の損傷をともなうこともまれではありません。
損傷の程度によって、挫傷(ざしょう)(打撲(だぼく)や被膜下血腫(ひまくかけっしゅ))、裂傷(れっしょう)(亀裂(きれつ))、断裂傷(だんれつしょう)(破裂(はれつ))、腎茎損傷(じんけいそんしょう)(腎臓のおもな動静脈が切れる)の4段階に分けられます。
[原因]
腎臓損傷のほとんどは、オートバイに乗っているときの交通事故や、高いところから転落するなどの労働災害、けんか・スポーツによる外傷などの外力によって、肋骨(ろっこつ)や脊椎(せきつい)などが圧迫され、その圧力でおこります。
[症状]
程度の差はありますが、ほとんどの症例は一時的に外傷によるショック状態をおこします。ショック状態が長く続くと、出血性のショックをおこして死亡する危険性もあり、緊急手術が必要となることもあります。
ショック以外には、血尿(けつにょう)や腎部(じんぶ)(背部)の痛みと腫(は)れ、皮下の出血斑(しゅっけつはん)などがみられます。
なかでも血尿は、もっとも重要な症状です。肉眼では見えない潜血(せんけつ)という程度の軽いものから、血液のかたまりを含むような重い血尿までありますが、かならずしも損傷の程度を反映しているわけではありません。
[検査と診断]
まず、腹部の単純X線写真をとり、骨折の有無や消化管のガス像をみたうえで、造影剤を静脈注射して腎臓からの尿の排泄(はいせつ)をみる経静脈性尿路造影(けいじょうみゃくせいにょうろぞうえい)や、超音波、CT、血管造影などの画像検査が行なわれます。
これらの検査で、腎臓の損傷の程度、腎臓の周囲に血液がたまっているかどうか、尿が腎臓の外へもれているかどうかなどを確認して、治療の方法を決定します。
[治療]
腎臓損傷の治療の基本は、生命の維持と、腎臓の機能をいかに保つかということです。腎臓損傷の90%以上は手術はせず、絶対安静にしたうえで、補液(ほえき)(体液のバランスを維持するために補給する水分や電解質など)や止血剤の使用などで対処します。
出血が続き、ショック状態から回復しない場合は、開腹して腎臓の状態を確認し、腎臓の縫合や摘出などが行なわれます。
腎臓損傷は、将来、合併症として高血圧や結石(けっせき)の形成がみられるので、治癒後(ちゆご)も厳重に経過を観察することが重要です。