腰掛(読み)こしかけ

精選版 日本国語大辞典 「腰掛」の意味・読み・例文・類語

こし‐かけ【腰掛】

〘名〙
① 腰を掛けること。また、そのための台。椅子。ベンチ。〔運歩色葉(1548)〕
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「桜の樹の下に据ゑ付けてあったペンキ塗りの腰掛へ腰を掛ける」
江戸時代評定所や寺社奉行所、町奉行所などでの訴訟人の控所。たまり。
浮世草子・好色万金丹(1694)三「跡式の公事の種を蒔き残し、公儀の腰懸(コシカケ)に町衆を退屈させ」
③ (②から転じて) 明治時代、裁判所をさしていう。
※歌舞伎・綴合於伝仮名書(高橋お伝)(1879)七幕「それでは今民事の腰掛(コシカケ)へ行きますから、代筆するお人を私が頼んで来て上げませう」
④ 江戸時代、江戸城大手門、桜田門など諸門に設けられた番士の詰所。登城した武士従者の控所ともなった。
※禁令考‐後集・第四・巻三一(1825)「あばれもの御仕置之事〈略〉登城之供いたし、大手腰掛後ろに供待いたし居候処」
⑤ 茶道で、茶室の外の露地に設けられた、参集者の小憩するところ。中くぐりの内と外の二か所に設けられているのが普通で、外露地のものを外腰掛または待合(まちあい)といい、内露地のものを内腰掛または中立(なかだち)という。
南方録(17C後)覚書「腰かけに客入て後、亭主水をはこび入べし」
年増女の髪の結い方の一つ
洒落本古契三娼(1787)「としまの風には、しの字わげ、こしかけ、京ぐるなぞがいいふうさ」
⑦ 希望する職業や地位などにつくまでの間、一時的に別の職や地位に身をおくこと。また、その職業や地位。〔俚言集覧(1797頃)〕
真理の春(1930)〈細田民樹〉ひるしぼむ花「いはば『腰(コシ)かけ』に、そこで働いてゐた家村のせゐだった」

こし‐か・ける【腰掛】

〘自カ下一〙 こしか・く 〘自カ下二〙
① 椅子や台などの上に腰をおろす。腰をかける。
申楽談儀(1430)序「もりかたの申楽に、物にこしかけ、経を読む所へ」
② ちょっとの間休む。
(イ) ちょっと立ち寄る。
※浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)三「折ふしは此方へもお心むけられ、おこしかけらるるやうにたのみ上る」
(ロ) 仮の住居を定める。また、一時的に、ある職業や地位につく。
※雑俳・勝句寄(1730)「腰かけたやうに思ふて永いしゃば」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「腰掛」の意味・読み・例文・類語

こし‐かけ【腰掛(け)】

腰を掛ける台。いす。
本来の希望を達するまでの間、一時ある職や地位に身を置くこと。「郷里に帰るまでの腰掛けに勤める」
江戸城内の番士の詰め所。
江戸時代、評定所奉行所で、訴訟人の控え所。
茶室の外の露地に設けた休憩所。
[類語](1椅子ベンチソファー座椅子回転椅子揺り椅子ひじ掛け椅子安楽椅子長椅子寝椅子床几しょうぎ縁台・丸椅子・止まり木ロッキングチェアデッキチェアスツールカウチ/(2副業サイドワークサイドビジネス

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「腰掛」の意味・わかりやすい解説

腰掛
こしかけ

日本で使われていた昔の座具の総称。それらの多くは背もたれのない台形のもので、儀式に使われた。形によって倚子(いし)、床子(しょうじ)、草墪(そうとん)、胡床(あぐら)、兀子(ごっし)などがあり、身分により使用区分が決まっていた。そのなかで天皇、皇太子が用いたのが御倚子で、現在正倉院や清涼殿にその原形がみられる。それには背もたれがつき、西洋の椅子(いす)と同じ形であったため、椅子が輸入された明治以降、腰掛と椅子は同義語として使われるようになった。西洋では背もたれのつくものをチェアchair、ないものをスツールstoolとよび区別しているが、腰掛はスツールにあたると考えてよい。現在の腰掛には1人用の床几(しょうぎ)のようなものから、3~4人が掛ける縁台風のものまで種々ある。茶道では、招客が露地入りして腰掛けて待つ場所を腰掛、または腰掛待合という。

[小原二郎]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

靡き

1 なびくこと。なびくぐあい。2 指物さしものの一。さおの先端を細く作って風にしなうようにしたもの。...

靡きの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android