デジタル大辞泉
「腸結核」の意味・読み・例文・類語
ちょう‐けっかく〔チヤウ‐〕【腸結核】
肺・喉頭などの結核の病巣から、結核菌が粘液・痰などとともに飲みくだされ、腸粘膜を冒すことによって発生する二次性の結核。下痢・発熱・腹痛などの症状がみられる。
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ちょう‐けっかくチャウ‥【腸結核】
- 〘 名詞 〙 腸に病巣をつくる結核。主に小腸末部に発生。初期には便秘、下痢を繰り返す不整便、大腸におよぶと腹痛と下痢がおこり、食欲はなくなる。
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腸結核
ちょうけっかく
Enteric tuberulosis
(食道・胃・腸の病気)
結核菌が腸に侵入し、炎症を起こして潰瘍を形成する病気です。腹痛、下痢、発熱、体重減少などがみられますが、症状があまりはっきりしない場合もあります。結核というと過去の病気と思われがちですが、決して減少しているわけではありません。抵抗力の落ちた高齢者や糖尿病、腎不全などほかの病気をもっている人に多く発症します。
活動性の肺結核があると、結核菌を含む喀痰を飲み込み、この結核菌が腸粘膜に侵入して腸結核を生じることがあり、続発性腸結核といいます。ほかの臓器に結核性病変がなく、腸に初めて感染巣をつくる場合を、原発性腸結核といいます。
感染経路からの分類では、結核菌を飲み込む管内性転移が大部分で、そのほかに他臓器から血管やリンパ管を介して結核菌が侵入する場合や、隣の臓器から直接入り込む場合があります。
腹痛、下痢、発熱、体重減少、下血などがみられますが、腸結核に特徴的な症状はありません。活動性の肺結核を伴っていれば咳、痰などの呼吸器症状も現れますが、日本では肺結核を伴わない場合が多いようです。
全消化管に発生する可能性がありますが、最も多いのは回腸、盲腸、上行結腸です。腸管に侵入した結核菌は、粘膜下に結核結節を形成し、円形・不整形潰瘍や輪状・帯状潰瘍といわれる腸管の横軸方向の潰瘍をつくります。またその周囲に、多発性の潰瘍瘢痕や特有の萎縮状粘膜、変形がみられます。大腸X線検査で特徴的な所見が得られますが、大腸内視鏡検査で病変部を観察して生検を行い、組織学的に結核菌や乾酪性肉芽腫といわれる特徴的な病変がみられれば確定診断されます。
しかし、検出率はあまり高くなく、生検組織の培養やPCR法による結核菌の遺伝子診断、糞便の結核菌培養などを行い、いずれかの方法で結核菌が証明されれば腸結核と診断されます。
そのほか、血液検査では炎症反応の上昇や軽度の貧血、低栄養状態がみられます。肺結核の合併の有無を調べるには胸部X線撮影を行います。結核菌の感染の有無を調べるためにツベルクリン反応も行われます。
診断が困難なことも少なくない病気ですが、最近では、採取した血液から結核感染の有無を診断する、全血インターフェロンガンマ応答測定法(クオンティフェロン)といわれる補助診断法の有用性が認められてきています。
抗結核薬による化学療法(イソニアジド、リファンピシン、エタンブトール、ピラジナミドなど)が基本になります。多剤併用といい、3~4種類の抗結核薬を同時に使用することで結核菌を死滅させます。症状の強い時には腸管の安静のために絶食とし、輸液を行います。狭窄、腸閉塞、穿孔、瘻孔形成、大出血などの合併症のある場合は手術が必要になることもあります。
抗結核薬による治療は半年以上かかりますが、中途半端な治療は結核菌の薬剤耐性のもととなり、その後の治療を難しくすることがあるため、中断せず続けるようにします。
設備の整った病院で診断を受けます。結核と診断された場合、感染症法により、医療費の一部が公費負担となります。適切な治療で完治する疾患ですから、症状がなくなったあとも治療を継続することが重要です。腸結核だけの場合、通常は他人に感染させることはありません。
肺結核
日比 紀文, 高木 英恵
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
腸結核(腸疾患)
定義・概念
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が腸に侵入し,炎症を起こして潰瘍を形成する病気で,回腸の末端部と盲腸,上行結腸に発生することが多い.また,小腸結核と大腸結核を総称して腸結核という.
分類
腸管に初感染巣をつくる原発性(一次性)腸結核と,肺結核病巣の結核菌が痰の嚥下によって腸に達し,直接腸粘膜に侵入して発病する続発性(二次性)腸結核とに分類される.
疫学
日本の結核の平成22年度の罹患率(人口10万人対の新登録結核患者数)は18.2と対前年比0.8減であるが,国内ではいまだ23000人以上の結核患者が発生している(厚労省平成22年結核登録者情報調査年報集計結果(概況)).肺結核の46~70%に腸結核が併発されると報告されており,肺結核の減少に伴い腸結核も減少しているが,高齢者,糖尿病,腎不全,臓器移植後,AIDSなどの免疫不全に伴う腸結核が増加している.
病理
乾酪性肉芽腫を伴う潰瘍が特徴であり,その後に広範な線維化がみられることが多い.潰瘍部には炎症性細胞が集簇しており,深い潰瘍をつくって漏孔や肛門部病変も認められることもある.病初期には乾酪性肉芽腫を伴った潰瘍部に多数の結核菌である抗酸菌(Ziehl-Neelsen染色)がみられるが,慢性期になると著明な線維化や狭窄となり,結核結節として腫瘤を形成する.なお,線維化部分には抗酸菌はほとんどみられなくなる.
臨床症状
無症状のこともあるが,症状としては腹痛が多く,発熱,食欲不振,下痢,体重減少,便秘,鼓腸,血便などがみられる.特に小腸の結核では栄養状態が急に悪化し体重減少したり,慢性期になると腸管が狭窄し,悪心や嘔吐といった腸閉塞症状が出ることもある.腹部腫瘤(結核結節)が触知されることもあり,その多くは右下腹部で認められる.
検査
成績
検査法としては大腸内視鏡検査が第一選択であり,典型的には回盲部に輪状潰瘍といわれる腸管の横軸方向の潰瘍(図8-5-23)がみられ,生検病理組織検査で乾酪性肉芽腫が認められる.そして,Ziehl-Neelsen染色で抗酸性の桿菌がみられれば確定診断となる.しかし,生検組織で典型的乾酪性肉芽腫が認められるのは50%以下であり,診断に苦慮することが多い.最近になり結核菌のDNA増幅法であるPCR法が普及し,このPCR法により生検組織から64〜86%の感度で検出されるようになってきた. もちろん,便培養により結核菌を検出する方法もあるが,最低でも1~2週間かかり,かつ陽性率は10%と低いので,生検組織のPCR法の方が有用である.また,糞便のPCR法もあるが,培養法よりさらに検出率は低いので勧められない.バリウム注腸検査でも潰瘍,狭窄,漏孔などの特徴的な所見が得られるが,被曝の問題もあるので,生検もできる大腸内視鏡検査が優先される.CTや腹部超音波検査では,肥厚した腸管壁が描出される.
そのほか,血液検査ではCRPや赤沈といった炎症反応の上昇や軽度の貧血,低栄養状態がみられる.最近では,採取した血液から結核感染の有無を診断する,全血インターフェロン-γ応答測定法(クオンティフェロン)といわれる補助診断法の有用性が認められてきている.
鑑別診断・診断
鑑別診断でまず第一にあげられるのは,最近日本で増加の著しいCrohn病である.Crohn病は腸管の長軸方向に縦走する縦走潰瘍が特徴的であり,腸結核の輪状潰瘍との鑑別点となる.また,病理組織で腸結核では乾酪性肉芽腫がほとんどであるのに対して,Crohn病では約半数が非乾酪性肉芽腫である.このほかに鑑別として,エルシニア腸炎,非結核性抗酸菌による腸炎,ヒストプラズマ症,サイトメガロウイルス腸炎,リンパ腫などがあげられる.
治療
抗結核薬による化学療法として,イソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP),ピラジナミド(PZA),エタンブトール(EB)かストレプトマイシン(SM)を4カ月,INHとRFPを2カ月,計6カ月投与するといった,4者併用療法が基本になる.この多剤併用により耐性菌を生じさせることなく結核菌を死滅させる. 長期投与の副作用として視覚,聴覚,末梢神経,肝障害などがあるので注意が必要である.また,結核菌培養には長時間を要し,結果が出てからの治療は手遅れとなり致命的ともなる場合もあるので,腸結核が強く疑われる場合は,診断的治療として確定診断前に抗結核薬の投与を行うことがある.さらに,狭窄,腸閉塞,穿孔,瘻孔形成,腹部腫瘤形成,大出血などの合併症のある場合は手術が必要になることがある.
経過・予後
多剤耐性の結核菌でなければAIDSなどの免疫不全状態の患者でも,抗結核薬の投与により,腹痛・発熱は2~3週間で消失し,潰瘍は4~8週間で瘢痕化し予後は良好である.ただし,診断が遅れ治療が行われなかった場合は致命的となる.また,治療は約半年と長期のため,中途で中断すると結核菌の薬剤耐性のもととなり難治性となるので,中断せず続けさせることも重要である. 結核と診断された場合,二類感染症なので感染症法により,「直ちに」届出が必要であり,結核の治療に関する医療費は公費負担となる.腸結核だけで排菌のない場合は隔離せずに外来治療となる.[大草敏史]
■文献
Fantry GT, Fantry LE, et al: Chronic infections of the small intestine, Tuberclosis. In: Textbook of Gastroenterology 5th ed (Yamada T ed), pp1234-1236, Wiley-Blackwell, Chichester, 2009.
小林清典,佐田美和,他:腸結核,臨床と研究,82: 1437-1442, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
ちょうけっかく【腸結核】
肺結核(はいけっかく)が多かった時代には、肺結核に合併する腸結核が多くみられました。これは肺結核病巣の結核菌がたんとともに嚥下(えんげ)され(飲み込まれ)、腸に達し、病変を形成すると考えられ、肺病変に続発(ぞくはつ)することにより、二次性腸結核(にじせいちょうけっかく)といわれます。
一方、最近は肺病変がはっきりしない腸結核の発生が増えていて、これは腸管に初感染巣(しょかんせんそう)として生じることから一次性腸結核(いちじせいちょうけっかく)(孤在性腸結核(こざいせいちょうけっかく))といわれます。
活動性の腸結核では、下痢(げり)、腹痛、発熱、食欲不振、体重減少などがおもな症状で、肺結核に消化管症状をともなう場合には診断は容易です。一次性腸結核では結核病変は自然治癒(ちゆ)をくり返すことが多く、症状も乏しく、偶然発見されることもあります。
診断には糞便(ふんべん)中の結核菌を同定することがもっとも重要ですが、腸結核では糞便中に結核菌が見つからないことも多く、この場合は、小腸(しょうちょう)、大腸(だいちょう)のバリウムによる造影X線検査、内視鏡検査が有用です。内視鏡により病変部組織を採取(生検(せいけん))して、病理組織学的に調べ、結核に特徴的な所見を得ることは診断の大きな助けとなります。
治療は、肺結核と同様(肺結核(「肺結核」))に行なわれます。
腸結核が疑われ、確定診断がむずかしいときは、抗結核療法が行なわれて、その結果をみるということもあります。
腸結核は栄養状態が悪いと発病しやすいので、日常の規則正しい生活が、その予防上たいせつです。
出典 小学館家庭医学館について 情報
腸結核
ちょうけっかく
結核菌の感染によっておこる腸管の炎症性疾患で、腸管に初感染巣をつくる一次性腸結核と、おもに肺結核病巣の結核菌が喀痰(かくたん)の嚥下(えんげ)によって腸に達し、直接腸粘膜に侵入して発病する二次性腸結核とに分類される。症状としては、発熱、全身の倦怠(けんたい)感、食欲不振、やせすぎ、腹痛、下痢のほか、腸管の瘢痕性狭窄(はんこんせいきょうさく)による狭窄症状(鼓腸(こちょう)や腹鳴など)があるが特異的なものはなく、無症状に経過するものも少なくない。一般に、腸結核のほとんどは肺結核に続発する二次性のものとされているが、胸部X線写真上では腸結核と確定診断されたものの約半数に異常が認められず、また活動性結核が認められたものは約4分の1にすぎないという報告もある。なお、ツベルクリン反応は腸結核の場合、通常は陽性であるが、一次性腸結核では陽性率が低くなっている。
腸結核の診断は臨床所見、消化管X線検査、内視鏡検査によって行われ、抗結核剤投与による治療経過が参考にされる。これはクローン病や非特異性多発性小腸潰瘍(かいよう)症などと鑑別するうえで役にたつ。肺結核と同様に治療する。狭窄症状の改善には外科手術が好成績をあげている。
[山口智道]
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腸結核 (ちょうけっかく)
tuberculosis of the intestine
腸の内面に結核菌で潰瘍ができる病気。従来は肺結核の活動性病巣からでた結核菌が,痰とともにのみこまれて発生する病気と考えられていたが,近年,肺結核を合併しないことがしばしばある。消化管に入りこんだ結核菌は胃酸の影響を受けずに小腸へ送られ,腸内容の停滞しやすい回腸や右側結腸の粘膜にあるリンパ濾胞に侵入する。抵抗力がないと結核菌は繁殖して粘膜を破り,小さな潰瘍を形成する。潰瘍は互いに融合して輪状,地図状となる。このため,腸粘膜は吸収能力が低下し,腸運動が亢進して下痢が著しくなり,微熱,脱力感,体重減少を生じる。X線検査や大腸ファイバースコープ検査で特徴的所見が認められる。診断は,潰瘍辺縁から採取した腸壁の一部に結核菌をみつけることにより確定する。潰瘍は自然治癒する傾向が高いが,適切な薬剤を選択して抗結核療法を行えば完全治癒する。ただし結核菌は感染性であるので,隔離して治療する必要がある。
→結核
執筆者:酒井 義浩
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腸結核【ちょうけっかく】
結核菌の感染による腸の炎症で,慢性下痢,腰痛,微熱などを呈する。多くは肺結核時に結核菌を含む痰(たん)を飲み込むことにより起こる。抗結核薬などの進歩とともに近年ではまれな疾患となった。
→関連項目結核
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腸結核
ちょうけっかく
intestinal tuberculosis
肺結核に続発することが多く,回腸下部,盲腸および上行結腸の起始部に好発する。多くは特有で頑固な下痢を起し,衰弱が激しい。過去においては結核患者の死因の大きな部分を占めていたが,最近では例外的な病気となった。
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