自分自身の視点を中心にして周囲の世界を見ること。ピアジェはこれを子どもの思考の特徴として指摘した。自分以外の視点に立てないため,たとえば,自分の左右がわかっても他人の左右がわからないように,ものの客観的関係を理解することができない。さらに自分自身を客観的に見ることができないため,自分の考えを意識したり,活動を反省したりすることもない。子どもの思考に論理性が乏しく,思いついたままのことを何の関連もつけずに次々と並べたてるだけですませてしまうのもそのためである。視点の未分化なこの自己中心性は,主観と客観とを混同させて考える思考(アニミズムや実在論や人工論)となってあらわれるし,言語面では〈自己中心的言語〉として示される。
児童期(6,7~12,13歳)の間に自己中心性は克服されていくが,その過程は知覚における〈脱中心化〉や,数量の〈保存〉の成立などの研究によって明らかにされている。自己への中心化から脱却して多くの視点の存在を認めたうえ,これらの視点を協応させるとき,論理的思考が発達していくこととなる。この意味で社会生活は,思考の発達にとって不可欠な経験である。
ピアジェが自己中心性を〈社会性〉の対立概念としてとらえ,幼児の会話の分析から〈自己中心的言語〉と〈社会的言語〉を区別し,それぞれの指数を算出し,〈自己中心性指数〉は6歳から7歳にかけて減少することを示した。自己中心的言語を代表する〈独語〉〈集団的独語〉の解釈について,ソビエトの心理学者L.S.ビゴツキーは,それは社会的性格(精神間機能)を有しつつ,思考の手段である内言(精神内的機能をもつ)に移行していく過渡期の言語であると論じている。
執筆者:滝沢 武久+清水 民子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
事象を客観的に第三者の立場、あるいは複数の視点から分析・認識できず、主観的に、自分の立場、あるいは固定した一つの視点だけから分析・認識する認知・思考の仕方をいう。心理学者のJ・ピアジェは、児童の思考はこのような性格をもつと考え、自己中心的思考と名づけた。さらに、前述のほか、自己の行為や操作についての内省・反省や、相対的関係判断が不可能であること、知覚的に際だった特徴にこだわり総合的判断に欠けること、矛盾意識がないことなどの特徴を指摘した。統合失調症(精神分裂病)、ヒステリーなどの病的状態の際も、このタイプの思考がしばしば生じる。道徳的な意味での利己主義とは異なる。
[天野 清]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その場合彼はエゴイズムの語をエゴティズムの意味で用いている。 要するに,自律性と秩序志向の両方をまったく欠いた自己中心性をエゴイズムの極限形態とみなすなら,この両者のうち自律性が増すにつれてエゴイズムはエゴティズムと呼ばれるにふさわしくなり,さらにそのうえに秩序志向が加わってくると個人主義と呼ばれるにふさわしくなる,ということができよう。利他主義【作田 啓一】。…
…子どもがけんかをよくするのは,子どもはそのときその場の自分のものの見方,感じ方,考え方,行動のしかたに強くこだわるからである。この自己中心性のために,子どもはそのとき,その場の自分を強く主張したり,他者や集団を自分本位的に理解して,争いを起こす。しかし,子どもはけんかを通じて他者や集団を知り,自分自身を知るなかで,自他の要求を対等に扱い,それらを正しく関係づけ,集団を自主的に統制することのできる自我をつくり出していく。…
※「自己中心性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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