生体は通常,自己の構成成分(自己抗原)に対しては免疫応答を示さず,免疫学的恒常性が保たれている。このような恒常性は自然免疫寛容と呼ばれている。この寛容状態が破れて,自己抗原と反応する抗体やリンパ球が生じてくることがある。このような現象を自己免疫と呼び,それが引金となって起こってくる病気を自己免疫疾患と呼んでいる。表に代表的な自己免疫疾患を挙げる。全身性の自己免疫疾患は,古くは結合組織の増生を特徴とする膠原病(こうげんびよう)という範疇(はんちゆう)に入れられていた。しかし近年,それらの成因が研究されてきて,少なくとも部分的には自己免疫が関与していると考えられるようになってきたが,なお不明な点も多い。一方,臓器特異的自己免疫疾患では,自己抗体の病因的役割がはっきりしている場合が多い。ただし表に挙げた中で多発性硬化症の場合は自己抗体が検出されていない。狂犬病の古典的予防ワクチン(狂犬病ウイルスに感染したウサギの脊髄の乾燥粉末)の接種から端を発したアレルギー性脳炎の研究から,臓器特異的自己免疫疾患は,抗原刺激を受けたTリンパ球によって引き起こされるものと推定されるに至っている。自己抗体の産生機序については,さまざまな考えが出されている。第1は特定の自己抗体の産生にあずかる遺伝子の関与説である。第2は,通常血中に微量にしか存在しない抗原がなんらかの原因で多量に放出されること,ないし抗原がなんらかの原因で修飾されることによるとするものである。第3は,抗体産生にあずかるリンパ球側に異常があり,寛容状態から逸脱してしまうことによるとするものである。おそらく,これらが重複して自己抗体が産生されてくると考えられる。
→免疫
執筆者:藤原 道夫
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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