日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
自然弁証法(エンゲルスの著書)
しぜんべんしょうほう
Dialektik der Natur
エンゲルス晩年の未完の著書(1873~86)。マルクスの唯物論的弁証法は、人間の社会・歴史の考察を通じて、ヘーゲルの観念論的弁証法を転倒することによって形成された。のちにエンゲルスは弁証法の対象領域を自然にまで拡大して、マルクス主義哲学を弁証法的唯物論として完成しようとした。この意図に添って計画されたのが本書である。ここには、当時の自然科学の全領域にわたる問題を扱うなかで、弁証法の一般法則を確立すると同時に、粗雑な経験主義を批判して自然を統一的、組織的に研究する見方を開こうとする苦心の跡がうかがえる。内容は、現代の発達した自然科学の観点からすれば古めかしさを免れず、また自然研究における弁証法的思考の有効性も最近では疑問視されているが、ここで展開された数多くの含蓄に富んだ思想は今日でも意義を失わない。本書は、その執筆過程から生まれた『反デューリング論』『フォイエルバハ論』とあわせ、マルクス主義哲学の古典的名著である。
[藤澤賢一郎]
『リャザノフ編『自然弁証法』(加藤正訳・岩波文庫/原光雄訳・1949・三一書房)』▽『マルクス=レーニン主義研究所編『自然の弁証法』(田辺振太郎訳・岩波文庫/菅原仰・村田陽一訳『マルクス=エンゲルス全集 第20巻』所収・1968・大月書店)』