舌下免疫療法(読み)ぜっかめんえきりょうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「舌下免疫療法」の意味・わかりやすい解説

舌下免疫療法
ぜっかめんえきりょうほう

スギ花粉ダニによるアレルギー性鼻炎に対する治療法。IgE(免疫グロブリンE)抗体が関与するⅠ型アレルギーに対してアレルゲンを定期的に投与して免疫寛容トレランス。アレルゲンに対して特異的な免疫応答が起こらない無反応性の状態)に導く特殊な治療法である。原因となるアレルゲンを含む薬剤舌下口腔(こうくう)内)に投与すると、口腔底粘膜下の樹状細胞がアレルゲンを取り込み、リンパ球がアレルゲンに対する免疫寛容を誘導する。作用機序(メカニズム)として、特異的な遮断抗体IgG4の増加、制御性T細胞による免疫調整などが関連する。

 皮下注射による免疫療法(かつては減感作(げんかんさ)療法といった)は日本で1964年(昭和39)から行われていたが、安全性の向上と注射による痛みの軽減のために舌下免疫療法が開発された。治療薬には液剤と錠剤があるが、速溶性の錠剤が主流となってきた。スギ花粉症は日本特有の疾患であり、スギ花粉の舌下免疫療法は日本で開発された。ダニの舌下免疫療法は世界で広く行われているが、ダニ舌下錠による治療は世界に先駆けて日本で開始された。日本ではスギ花粉症とダニによる通年性アレルギー性鼻炎がアレルギー性鼻炎の二大疾患であり、2014年(平成26)にスギ花粉治療薬が保険適用になり、翌2015年にダニ治療薬も保険適用となった。海外ではイネ科花粉症やブタクサ花粉症の治療薬も発売されている。また気管支喘息(ぜんそく)に対するダニの舌下免疫療法も海外で行われているが、日本では保険適用がない。アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法治療薬として、日本ではスギ花粉症用の「シダトレン」と「シダキュア」が、ダニによるアレルギー性鼻炎用の「アシテア」と「ミティキュア」が発売された(「シダトレン」は2021年3月発売終了)。小児にも治療可能な薬剤があるが、5歳未満の安全性の確立はされておらず、また、65歳以上の高齢者の効果は減弱するとされる。また妊娠中の治療開始は避けるべきとされる。

 方法は、アレルゲンを含有する薬剤を舌下に留置し、1分程度保持した後に飲み込む。これを毎日自宅で行う。効果出現には数か月以上必要で、有効な場合には数年以上継続することが望ましい。効果は抗ヒスタミン薬などの内服治療薬より高く、一部に完治も見込める。まれに強いアレルギー反応を起こすアナフィラキシーの副作用があり、細心の経過観察をしながら治療される。

[湯田厚司 2019年10月18日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵mini 「舌下免疫療法」の解説

舌下免疫療法

アレルギー疾患に対する新しい治療法で免疫療法の一つ。アレルギーの原因物質「アレルゲン」を計画的に体内に取り入れ過敏性を減少させる免疫療法は、注射による手法が主となっている。この場合、数年にわたり通院し注射を受け続けなければならない。舌下免疫療法では、アレルゲンを含むエキスを小さなパンなどに染み込ませ舌下に数分間置くだけで、アレルゲンを舌から体内に取り込ませることができる。この療法は自宅ででき、頻繁な通院・注射を必要としないため、患者の負担が軽い。1990年頃よりヨーロッパで盛んに研究されており、雑草の花粉やダニなどのアレルギーに用いられている。98年、WHO見解書で「喘息・アレルギー性鼻炎に対し、根治が望める治療手段」と報告された。日本では2003年頃よりスギ花粉症の治療に用いられている。2014年6月頃、この治療法が日本で保険適用対象となる予定。

(2014-2-25)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android