菌類ホルモン(読み)きんるいほるもん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「菌類ホルモン」の意味・わかりやすい解説

菌類ホルモン
きんるいほるもん

菌類が分泌するホルモンをいう。カワリミズカビ性ホルモンであるシレニンは、雌の配偶子嚢(のう)から分泌され、雄配偶子に化学走性をおこさせる。また、ワタカビの性ホルモン、アンテリジオールは、雌の菌糸体から分泌され、雄の菌糸体に造精器の原基形成を誘導する。ケカビ仲間では、プラス菌糸体から性ホルモン、トリスポリック酸が分泌され、マイナス菌糸体に接合のための菌糸の枝を誘導する。

 このように最近では、ホルモンによって細胞壁に生化学的変化がおこり、細胞分化や成長が調節されるという機構が明らかにされつつある。調節機構は生物進化の過程で発展してきたものであり、それを分子レベルまで掘り下げていけば、細胞の代謝の基本が菌類から明らかにされてきたように、ホルモン作用の基本型も菌類に求められるかもしれないわけである。次にいくつかの例をあげる。

 植物ホルモンは菌類も生産していて、ジベレリンはイネバカナエキンからみつけられたもので、昆虫発育も促進する。酵母菌からはオーキシンサイトカイニンがみいだされている。動物の性ホルモンはエンドウの成長とアカパンカビの接合を促進し、酵母菌の性ホルモンも同じような作用をもつ。酵母菌の性特異性は細胞表層の特異的タンパク質合成によるもので、このタンパク質は性を調節する遺伝子によって制御されている。この遺伝子が植物ホルモン、および動物と酵母菌の性ホルモンに対する酵母菌の反応性を調節し、酵母菌の性ホルモンの合成も支配している。

[寺川博典]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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