米国の65歳以上の高齢者では、その3割の人が狭心症を含めた虚血性心疾患(
75歳未満では男性に多くみられる病気ですが、75歳以上では男女間の差は少なくなり、85歳以上ではほぼ同じ頻度になります。また、虚血性心疾患による死亡者の85%は65歳以上であるといわれています。
●狭心症の場合
狭心症のひとつである
さらには、胸痛などを伴わない
●急性心筋梗塞の場合
同様に、高齢者の急性心筋梗塞では、典型的な胸痛を訴えるものはその3分の2にすぎず、神経学的症候を示したり、胃腸症状を訴えることが多くみられます。これらの結果、高齢者は発症から医療機関受診までに、若い層に比べてより長い時間を要してしまい、治療の遅れにつながってしまいます。
高齢者の急性心筋梗塞例では死亡率が高く、
●狭心症の場合
症状、心電図、運動負荷試験などで狭心症の診断(あるいは疑い)がついたら、次に
最近の狭心症の検査では心臓カテーテル検査による冠動脈造影のほかに、マルチスライスCTスキャンを用いた冠動脈CTアンギオグラフィ(CTA)も行われるようになってきました。腕の静脈に造影剤を注入することで冠動脈を映し出すことができるので、カテーテルを体内深くまで入れる必要がなく、外来で検査できます。冠動脈狭窄の判定能力は心臓カテーテル検査による冠動脈造影に及びませんが、スクリーニング検査として用いられるようになってきました。
狭心症の治療は、内科的薬物治療、外科的冠動脈バイパス手術、そしてカテーテルによる冠動脈インターベンション治療(風船による冠動脈拡張術、ステント留置術など)の3種類の治療法から、ひとつあるいは複数を組み合わせて行います。主治医とよく相談し、病状と患者さんの希望に合った治療法を選択します。なお、後二者の治療を行うためには、前述した冠動脈造影検査が必須になります。
日常生活では、冠動脈の動脈硬化の進行を防ぐために糖尿病、高血圧、脂質異常症をきちんと管理し、禁煙することが極めて重要になります。医師に指示されたカロリーや塩分の摂取量を守り、ダイエットにより肥満を解消することも大切です。
それまで安定していた狭心症の症状が急に出やすくなったり、症状が強くなった際には、急性心筋梗塞の前触れ(不安定狭心症)であることがあるので、すみやかに主治医に相談してください。
●急性心筋梗塞の場合
突然、強い胸部痛を訴えて発症する急性心筋梗塞は、発症直後の6時間あまりが治療上の“ゴールデンアワー”と呼ばれています。この間に、冠動脈の血流を再開させる
急性心筋梗塞では、年齢、合併症(腎機能の低下、認知症、出血性疾患など)、心筋梗塞の規模と循環動態、発症からの時間経過などを総合的に判断し、保存的治療、
保存的治療は、安静、鎮静、酸素吸入、
発症から6時間以内で禁忌がなければ、各施設の状況により冠動脈血栓溶解療法あるいは緊急冠動脈インターベンション治療を行います。
高齢者がCCUなどに入院すると、CCU症候群と呼ばれるせん妄(もう)状態を来すことがしばしばあります。せん妄とは、軽度あるいは中等度の意識障害とともに妄想や興奮、うわ言などが続く状態のことで、病気による苦痛、不安、孤独感などの精神的・肉体的ストレスを背景に現れます。
病棟内で日ごろ慣れ親しんだ家族の顔を見、会話をすることで予防できることもあり、症状が現れても落ち着かせることができます。こまめに面会することは、高齢の患者さんにとって重要な精神的支えなのです。
野村 周三
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
心筋への血流量が不足して心筋細胞への酸素供給が滞り、心室筋をはじめとする心筋に虚血を生ずるためにおこる心疾患の総称。心筋へは冠動脈を通じて必要な大量の酸素とエネルギーが供給されていることから、冠動脈心疾患ともよばれる。略称IHD。日本の発症率は欧米に比べて低いが、高齢化と食習慣の欧米化に伴い増加傾向にある。
多くは動脈硬化が原因で、冠動脈に狭窄(きょうさく)や閉塞を生ずると血流が滞って心筋は虚血に陥り、一過性の閉塞では狭心症となり、血栓などにより完全に閉塞し虚血が持続すれば心筋は壊死(えし)に陥り心筋梗塞(こうそく)となる。両者とも症状として胸痛を伴うが、狭心症が短時間で収まるのに対し、心筋梗塞では長く続くことがあり、痛みの程度も心筋梗塞のほうが激しい。とくに急性心筋梗塞は突然死に至ることもある重篤な危機的状態をもたらす疾患であり、治癒してもさまざまな合併症を伴う。動脈硬化をおこす危険因子には、高血圧、喫煙、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。遺伝的素因の研究も進みつつある。薬物療法のほか、カテーテル治療など低侵襲な治療法が開発されている。重症例では手術が適用となり、冠動脈バイパス術などの治療法がある。
[編集部]
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
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[心筋梗塞の疫学]
日本では心筋梗塞を含む心疾患による死亡は1950年以来,増加の傾向にあり,58年以来,悪性新生物や脳血管疾患に次いで3位を占めるようになり,さらに85年以降は脳血管疾患を抜いて第2位となっている。このなかで,狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の増加は著しく,50年に人口10万人に対して約10人であったものが,94年には約50人と5倍以上となり,心臓疾患による死亡全体の約3割になる。この増加は,1980年代までは生活の変化によって冠状動脈の硬化や血栓症が増加したことに帰因するが,近年はおもに高齢者における死亡数の増加による。…
※「虚血性心疾患」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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