蛭児(読み)ひるこ

改訂新版 世界大百科事典 「蛭児」の意味・わかりやすい解説

蛭児 (ひるこ)

古事記》《日本書紀》の伊弉諾(いざなき)尊・伊弉冉(いざなみ)尊神話にあらわれる不具の子。記では水蛭子(ひるこ)と記す。その名は蛭のような骨なしの体を示している。《古事記》の水蛭子は,イザナキ・イザナミの〈みとのまぐわい〉(聖婚)による最初の子で,同時に生まれた〈淡島(あわしま)〉がやはり不作の子であった。つまりはじめは失敗し,つぎに成功するという説話の型がふまれており,以後,2神は順調に日本の島々を生み出していく筋立てとなっている。《日本書紀》では,ヒルコは日の神=大日孁貴(おおひるめのむち)(天照大神),月の神=月読(つくよみ)尊と同時に生まれ,〈三年になるまで脚猶し立たず〉とある。ヒルコ-ヒルメの音の類似から,いっしょにされたらしい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蛭児」の意味・わかりやすい解説

蛭児
ひるこ

記紀神話で、伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)二神の間に最初に生まれた手足の萎(な)えた子。葦舟(あしぶね)または磐楠(いわくす)舟に乗せて流し捨てられるが、その名義の「ひる」は「霊(ひ)」の動詞化、あるいは「日(ひ)」に助詞「の」の古語「る」を付したもので、「ひるこ」は天照大神(あまてらすおおみかみ)(大日霊貴(おおひるめのむち))の名と一対となる。わが国には、空舟(むなぶね)に乗って水上を来臨し、尊貴な存在として出現する伝承が多く、蛭児の流し捨てもこの神話の発想を基とする。また後世には、恵比須(えびす)神と付会して信仰されることもあった。

吉井 巖]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「蛭児」の解説

蛭児 ひるこ

記・紀にみえる神。
伊奘諾尊(いざなぎのみこと)と伊奘冉尊(いざなみのみこと)との間に最初に生まれた手足のなえた子。船にのせられて流されたという。「日本書紀」では日の神,月の神と同時に生まれ,3年たっても足がたたなかったとある。蛭児は後世恵比寿信仰とむすびついた。「古事記」では水蛭子。

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世界大百科事典(旧版)内の蛭児の言及

【えびす(夷∥恵比須)】より

…西宮の夷社は夷三郎とも呼ばれ,天照大神をまつる広田社の摂社であった。広田社には,複数の摂社が置かれていたが,夷社は大国主命もしくは蛭児(ひるこ)をまつり,三郎社は事代主命をまつるとされた。三郎殿とされた事代主命は,出雲神話の大国主命の子であり,出雲の美保崎で魚を釣っていたという古伝承から,魚と釣竿を持った姿で描かれたのであろう。…

【国生み神話】より

…異伝は記紀2書,《古語拾遺》《旧事本紀》などに10種余を伝えるが,《古事記》が最も詳しく完成した姿を見せている。所伝では最初失敗して不具の蛭児(ひるこ)と淡島を生み,ヒルコは葦舟に乗せて流す。ついで成婚の法を改めて淡路島,四国,九州,隠岐,壱岐,対馬,佐渡および大日本豊秋津洲の大八島国を生み,帰路に吉備児(きびのこ)島,小豆島,大島,女島(ひめしま)(大分県),知訶島(ちかのしま)(五島列島),両児島(ふたごのしま)(男女群島)を生む。…

※「蛭児」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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