蝴蝶(読み)こちょう

改訂新版 世界大百科事典 「蝴蝶」の意味・わかりやすい解説

蝴蝶 (こちょう)

山田美妙の短編小説。1889年(明治22)1月《国民之友》掲載。平家の壇ノ浦没落時に取材した歴史物で,平家方の女房蝴蝶と若侍二郎とのあいだにくりひろげられる悲劇の物語である。二郎が源氏方の密偵であり安徳帝の所在を密告しようとしていることを知った蝴蝶の驚きと絶望,そして彼を殺害するにいたる彼女の苦悩と決断,さらにそれが帝の死によって無効となってしまう運命の悲劇が,当時としては新奇な口語文体で装飾的につづられている。素材,文体,テーマともに《武蔵野》(1887)の延長線上にあるが,渡辺省亭の描いた裸の蝴蝶像が話題となったこともあって,美妙を一躍流行作家に押し上げることとなった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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