翻訳|serum
ヒトや脊椎動物の血液中の主要液体部分を指す。なお,開放血管系をもつ無脊椎動物のこれに相当するものは血リンパ液といい,血清,血漿などの名称は使わない。
ヒトや動物の血液を試験管等に採り放置すると,やがて固まり(凝固),フィブリノーゲンが変化してできた網状構造をなすフィブリンに血液成分がとりこまれた血餅(けつぺい)ができる。やがて,これは血小板,組織由来のトロンボステニンの作用を受けて収縮し,上清には透明,こはく色の少し粘稠な液,血清が分離する。また,凝固した血液を試験管壁からはがして,適当な速さで遠心分離すると,より早く,収量よく血清が得られる。一方,抗凝固剤(クエン酸,シュウ酸塩,EDTA,ヘパリン等)を加えて採った血液は凝固しないが,これを放置したり遠心すると,血漿と血球成分に分かれる。したがって,血清は血漿からフィブリンとして析出したフィブリノーゲンを除いたものにほぼ相当する。そのため,ここで述べるヒトについての血清構成成分の種類,量等は血漿のそれらとほぼ同じと考えてよい。ただし,厳密にいえば,凝固の経過中変化する各種の血液凝固因子,繊維素溶解系(略して繊溶系ともいう),キニン系,血小板由来の因子等については,まったく同一とはいえない。
ところで,細胞内液は細胞膜を介して細胞間液に,そして細胞内液は血管リンパ管壁を介して血漿,リンパ液に接する。毛細管から漏出してできたリンパ液はリンパ管,胸管を通って再び血漿にもどるなど,各種の体液間には密接な交流がある。そのため,生理的・病理的状態にあるヒトや動物で,採取しやすい血漿,血清を調べることは,体内状態を推測する重要な手がかりとなる。しかも,血漿は検査の操作や保存法によってはフィブリンが析出する性質をもつため,血液の凝固能等の特殊な検査以外は血清を用いるほうが便利である。なお,各種の検査の実施までの変質防止には,血清に適当な保存剤の添加後,低温に置いたり超低温凍結や,凍結乾燥等目的に応じて適当な保存法が適用できる。
血清の約90%は水だが,各種の塩類や,7~8%を占めるタンパク質等,それに固有と思われる成分が溶存している。これらは血液の浸透圧,pH等を一定にして体内の内部環境の恒常化に働くとともに,体液の平衡,水分代謝,血圧維持等にも大きな役割を占め,生体の各種生理機能と密接な関係をもつ。さらに,タンパク質には,(1)液性免疫の主役となり,抗体活性をになう各種クラスの免疫グロブリン,(2)抗体と反応した異物等に働き,その溶解や食細胞による貪食処理を助けるほか,細菌等がもつ脂質多糖体等で活性化され,殺菌などの作用を通して感染抵抗性に関係し,しかも両方の活性の調節に関与する抑制因子を含む補体系,(3)特定の因子(ハーゲマン因子)の活性化から連鎖反応的に働く炎症成立に関係の深い酵素多数を含むキニン系,(4)血液凝固系の各因子やそれの変化したもの,(5)凝固した血液に働きフィブリンを溶かす繊維素溶解系の因子,(6)生体機能に必要な各種の酵素や生物学的活性をもつ物質,(7)特定の物質と結合してそれを運ぶ役目をするタンパク質,など生体の生命維持,生理機能の発現に必要な多種多様の成分が含まれている。
一方,血清には,特定の細胞,組織,臓器から遊離,放出されたり,腸管,呼吸器系から摂取され,必要な部位に運ばれたり,処理排出途中の物質(パッセンジャー物質)も多く含まれている。糖(グルコース等),アミノ酸,脂質,酵素,ビタミン,ホルモン(タンパク質性,ペプチド性,ステロイド性),老廃物,少量の溶存酸素,炭酸ガス等の大部分がこれに属する。そのなかには,人種,男女,年齢等のほか,生理的・病理的状態や採取時間,部位等で違いが比較的顕著なものもある。これらは遊離の状態にあるものが多いが,なかには特定の血清タンパク質に結合されて運ばれるものも少なくない(脂質,コレステロールはリポタンパク質に,ビタミンB12がコバラミン結合タンパク質に,銅イオンCu2⁺がセルロプラスミンに,甲状腺ホルモンがその結合タンパク質やアルブミンに結合して運搬される)。
これからも血清の組成はきわめて複雑であることが理解できるが,表に,血清中のタンパク質成分および無機塩類をはじめとする各種非タンパク質成分の正常値をまとめて示した。血清のこれらの成分の正常値はヒトと類縁関係や生活環境の異なる他動物種の間では大幅に異なることが多いが,同じヒトの値でも測定者,測定法や上述の各種要因によって多少違う値が報告されている。
→免疫学
執筆者:木村 一郎
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採血した血液は数分後に凝固し、全体が真っ赤な寒天状となる。これを数時間以上放置すると、凝固塊はしだいに強く収縮して小さな塊になり、その周囲に透明な黄色の液が出てくる。これが血清である。血清成分は、血漿(けっしょう)成分のうち、凝固に際して析出したフィブリノゲンを除いたものと、まったく同じである。したがって、その性状も血漿とほぼ同一である。今日では、血液の生理的な性状をほとんど変えないで、その凝固を防ぐ抗凝固剤(ヘパリンなど)が盛んに用いられるようになったため、時間をかけて血清を求めることは、免疫などに関係した研究にほぼ限られている。血清の外観は病態によって変化することがあり、診断に役だつ。黄疸(おうだん)指数は、血清の黄褐色の色調を調べたものである。
[本田良行]
『玉置嘉広・西向弘明著『血清型の知識』(1986・金原出版)』▽『鈴木鑑著『血清学免疫学入門』改訂第2版(1992・南山堂)』
新鮮な血液を放置すると血液凝固が起こり,ついで血餅(ぺい)退縮によって血球,フィブリンは塊状に収縮し,淡黄色透明な液を遊離する.これを血清という.化学成分は血漿中に存在するフィブリノーゲンの欠如,血液凝固因子の活性化,血小板から多量に放出されたセロトニンなどが存在すること以外に,血漿の組成とほとんど差がない.各種毒素に対する抗血清は血清療法として医学的に重要である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…血球は,それぞれ独立した機能を有し,生命現象に欠かせない働きをしている。血球
[血漿と血清]
血液から血球を除いた液体部分を血漿blood plasmaといい,全量は体重のほぼ5%(体重70kgのヒトで3500ml)を占めている。アルブミンやグロブリンなどのタンパク質,ブドウ糖,中性脂肪やコレステロールなどの脂質のほかに,ナトリウム,カリウムなどの電解質,ホルモン,ビタミンを含む特殊な体液である。…
…抗凝固剤なしに採血し放置すると凝血塊(血餅)から黄色の液体が分離してくる。この液体が血清とよばれるもので,フィブリノーゲンその他の凝固因子の大部分が失われている点が血漿と異なる。血漿は循環する細胞外液であり,間質液とほぼ同じ組成で塩化ナトリウムを主体とする各種電解質,ブドウ糖,脂質,アミノ酸,ホルモンその他多くの物質を含んでいる。…
※「血清」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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