血球(読み)けっきゅう(英語表記)haemocyte
blood corpuscle

精選版 日本国語大辞典 「血球」の意味・読み・例文・類語

けっ‐きゅう ‥キウ【血球】

〘名〙 (bloedbolletje の訳語) 生体の血液の有形成分。人では赤血球白血球、血小板などで、血漿(けっしょう)中に浮遊する。全血液重量の四五パーセントで、残りは血漿が占める。絶えず崩壊と補給が繰り返されているが数量はほぼ一定に保たれる。
※内科撰要(1792)一〇「其脈管の端末に至ては極めて微細にして其細血球流通すること無し」

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デジタル大辞泉 「血球」の意味・読み・例文・類語

けっ‐きゅう〔‐キウ〕【血球】

血液の成分の一。血漿けっしょう中に浮遊している有形成分。赤血球白血球(顆粒球・単球リンパ球)・血小板がある。血液細胞

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改訂新版 世界大百科事典 「血球」の意味・わかりやすい解説

血球 (けっきゅう)
haemocyte
blood corpuscle

血球の〈球cyte〉は細胞の意味で,血液中に生理的にみられる細胞成分をいう。血球の起源は,無脊椎動物の間葉組織にみられる運動性貪食細胞ではないかといわれている。体液循環機構のない動物や循環機構があっても閉鎖性循環路をもたない動物では,間葉組織にみられる運動性貪食細胞と血球とは同じものと考えられている。これら貪食細胞は,その胞体内に種々の色素をもち,体内で生じた不要物や外から入ってきた異物を取り込み,胞体内で消化したり,体外へ排除する働きをもつ。一般に無脊椎動物の血球は種類が多いわりに,おのおのの動物についての知見に乏しく,ほとんどその機能が理解されていない。体腔や閉鎖性循環路をもつ無脊椎動物には,呼吸色素をもつ細胞もみられる。これらの細胞は,機能的にそれぞれ脊椎動物の赤血球や栓球(哺乳類では血小板)に類似し,またその発生は体腔や血管内皮から遊離する形をとるものが多い。一般に無脊椎動物にみられる血球の種類は動物の系統進化との明白な関係がみとめられない。無脊椎動物の血球は一定の細胞回転をとらずランダムに産生されるが,一部の進化した動物群では脊椎動物の造血に類似した細胞回転のあることが知られている。鳥類までの脊椎動物の血球は,最も未分化な円口目メクラウナギ類を除き,赤血球,リンパ球と顆粒(かりゆう)球(この二つを合わせて白血球ともいう)および栓球の4種類が区別される。形態学的に,これらの動物では赤血球と栓球はともに有核細胞で,ともに血管内で産生される。これに対し哺乳類の赤血球は無核細胞で,栓球はなく,その機能は骨髄巨核球の胞体の一部からなる血小板によって行われる。哺乳類の赤血球および血小板はともに,血管外の造血基質にある母細胞から産生され,血管内に流入したものである。哺乳類と鳥類までの脊椎動物の間にみられる血球産生の場および血球形態の顕著な差が,どのような機序で起こったのか現在のところ明らかにされていない。
執筆者:

ヒトの血球は,赤血球,白血球,血小板の3種類に大別され,それぞれ独立した機能を営み,生命の維持に重要な役割を分担している。

皮下の小静脈から採血した血液(これを末梢血液という)を細いガラス管に吸引し,高速で遠心分離すると血液は比重のちがいにより三つの層に分かれる。比重の重い赤血球は下層に集まり暗赤色の層をつくり,血液全体の容積の約45%を占める。このような方法で調べた血液量に対する赤血球量の割合をヘマトクリットhematocrit値といい,貧血の診断の一つの指標として用いる。上層の約55%は淡黄色の血漿(けつしよう)であり,赤血球層に連続して血漿層との境界に黄白色の薄い細胞層がみられる。これを淡黄層と呼び,赤血球よりも比重の軽い白血球と血小板が集まっている。末梢血液の単位容積の中の血球の割合は,数の上では赤血球500に対して,血小板25,白血球1であるが,血小板は赤血球に比して小さい(容積は赤血球の約1/10)ので,容積の上では赤血球が細胞成分の主体をなし,血小板と白血球の占める割合は約1%にすぎない。

 次に,血液をスライドグラスに薄く塗抹し,塩基性のメチレンブルーと酸性のエオジンの混合液で染色して顕微鏡で観察すると,次のような赤血球,血小板各1種と白血球5種,計7種類の血球を識別することができる。

(1)赤血球 最も多いのは円い形の赤血球で,全体が赤色に染まり中央部は染色性が低下して淡明となる。ヒトの赤血球は核のない細胞で,両面なかくぼみ円板形と形容される。平均直径は7.5μm,1mm3の血液の中に,成人男子で420万~550万,女子では380万~540万の赤血球が含まれる。
赤血球
(2)白血球 白血球と総称されるものは,大きさ,核の特徴,細胞質の顆粒などから5種類に分類される。まず,顆粒をもった白血球が最も多く,顆粒の染色性から,淡紫紅色の顆粒(中性の色調)を有するものを好中球,粒状の橙色(酸性)顆粒を有するものを好酸球,濃い青紫色で粗大な顆粒をもった血球を好塩基球という。この3種の白血球は,共通して顆粒を有することから顆粒球と総称される。また,幼若な顆粒球の核は馬蹄形を呈するが,成熟に伴い分葉して2~5核になることから,多形核白血球とも呼ばれる。顆粒球の直径は9~15μmで,好中球が最も多く,ついで好酸球,好塩基球の順で,好塩基球はヒトの血液のなかでいちばん少ない。顆粒球の次に多いのがリンパ球で,白血球の約35%を占める。大きさはまちまちで,大(12~16μm),中(10~12μm),小(8~10μm)のリンパ球があるが,核は円形で,あらくて濃染(青色)した染色質をもち,これをとりまいて空色の細胞質を有するのが共通した特徴である。白血球のなかで最も大きいのは単球で,直径は14~20μmに及ぶ。核に特徴があり,全体として大きくうねった形で,核の染色質はレースカーテンのように透けて見える。豊富な灰青色の細胞質には微細な紫紅色の顆粒が散在し,しばしば空胞を有する。
白血球 →リンパ球
(3)血小板 中心部にあずき色の顆粒をもつ円板状の小体で,直径は1~3μm。無核の細胞で,出血に際して血管の破れた部位に栓をしてふさぐ主役を演ずることから,栓球ともいう。
血小板

成人では,血球は骨髄(骨の中心部にある海綿状の組織)でつくられる。リンパ球の一部は,リンパ節や脾臓でも産生されている。血球をつくることを造血というが,造血に関係する臓器や部位は年齢により変化する。胎生初期には卵黄囊(血島),中期には脾臓・肝臓で血球の産生が行われ,末期になって骨髄での造血が盛んになる。思春期以前では,大腿骨や脛骨のような長い骨でも造血が行われるが,成人になると,頭蓋骨,胸骨,椎骨,肋骨,骨盤骨などの短い骨の骨髄に限られてくる。骨髄全体の大きさと重量は肝臓に匹敵し,造血の旺盛な骨髄は赤色を呈することから,赤色骨髄または赤骨髄とも呼ばれる。一方,造血を行わず脂肪組織で置き換えられた部位は黄色に見え,黄色骨髄,黄骨髄または脂肪髄と呼ばれる。

 現在では,末梢血液の中に存在する赤血球,白血球,血小板の祖先をたどっていけば,一つの共通の母細胞に行き着くと考えられている。この母細胞を造血幹細胞といい,いちばん最初の造血幹細胞(方向が定まらず,どの種類の血球にでもなる能力がある)が分裂して,リンパ球および骨髄系(赤血球,顆粒球,単球,血小板を総括したもの)の母細胞,さらに分裂して各系統の血球になるように運命づけられた細胞へと分化していく。骨髄の中で各系統の母細胞は有糸分裂を重ねて数を増し,同時に成熟して固有の機能を備えてくる。成熟段階がほぼ完了した血球は骨髄から放出され,末梢血液の中でおのおの定められた期間生きながらえ,老化した血球から順に死滅していく。赤血球系細胞はおよそ6日間で3~5回の分裂を行い,核を失って末梢血液の中に出てくる。脱核直後の血球は超生体染色という特殊な染色法で染め出される網状物質をもっており,この段階の血球を網赤血球と呼ぶ。網赤血球は約1日で網状物質を失って成熟赤血球となり,約120日間血管内を循環したのち,脾臓,肝臓,骨髄などの網内系臓器で死滅し寿命を終わる。正常人では網赤血球の割合は1%であり,このことから,1日約1%の割合で赤血球の新旧交代が行われることがわかる。顆粒球は,赤血球系細胞の約2倍の日数を骨髄内で費やし,分裂,増殖の過程をへて末梢血中に出現してくる。血管内に約6時間とどまったのち,組織に移行する。顆粒球の機能は組織内で病原体の侵入を防ぐ役目をすることであり,血液は目的地に達するまでの通り道にすぎず,したがって血液内に滞在する数時間は寿命を意味するものではない。単球のライフサイクルも顆粒球とほぼ同じである。リンパ球の寿命は短いものでは数日,長いものでは数年~十数年にも及び,寿命の長いリンパ球は免疫の記憶に関係していると考えられている。血小板の母細胞である巨核球は,核は分裂しても細胞質は分裂せず,そのため細胞は肥大し,100μm以上の巨大細胞となる。約10日間の成熟期間ののち細胞質を小区分に細分化し,血小板として循環血中に放出する。血小板の寿命は約10日とされている。

赤血球,白血球,血小板はそれぞれ独立した働きをして,生命の維持に欠かせない役割をはたしている。

(1)赤血球 おもな機能は酸素の運搬で,これは赤血球の中に含まれているヘモグロビン血色素)の働きによる。1gのヘモグロビンは最高1.39mlの酸素を結合することができる。肺で大量の酸素を結合した動脈血毛細血管を流れるとき,その場の組織に酸素を供給して静脈血となる。ヘモグロビンは,酸素の圧力が低く二酸化炭素の圧力が高い組織で,容易に酸素を放す性質をもっている。赤血球は中央部がへこんだ形をしているため表面積が広くなっており,またこのような形は細い毛細血管を赤血球がくぐり抜けるときも形を変えやすい。赤血球は肺から組織に酸素を能率よく運ぶために,高度に機能化された血球である。

(2)白血球 顆粒球と単球の働きは,侵入した病原微生物に対して生体を防御することである。病原体の侵入によって,その局所や全身に生ずる反応を感染といい,感染の局所にみられる膿(うみ)は,細菌と戦って死滅した顆粒球,単球の死骸である。これらの血球は血管から遊出して必要な所へ集まる性質(遊走能),細胞を積極的に食べる能力(貪食能),さらに食べた細菌を細胞質内で溶解して殺す能力(殺菌能)をもっている。リンパ球は免疫と呼ばれる現象によって生体防御反応に関与している。免疫とは病気から免除されているという状態で,これには,生来病気にかからない状態(自然免疫)と,一度かかったら二度と同じ病気にならない状態(獲得免疫)がある。リンパ球には,その成熟過程で胸腺の助けをかりるTリンパ球と,胸腺の影響を受けないBリンパ球がある。Bリンパ球は免疫グロブリンという特殊なタンパク質を分泌するが,これがある特定の物質(たとえば細菌)と反応するとき,この免疫グロブリンを抗体という。抗体の結合した細菌は単球や顆粒球の好餌となって処理される。このようなBリンパ球が分泌する免疫グロブリンによって生ずる防御形式を体液性免疫という。これに対して,Tリンパ球の関係する反応を細胞性免疫といい,リンパ球が直接異物(抗原)と接触すると大型化し,細胞を殺す能力を発揮し,リンホカインという物質を放出して単球や顆粒球の働きを活発にさせる。ツベルクリン反応で皮膚が発赤するのはTリンパ球の作用である。

(3)血小板 血小板の役割は出血を停止させること,すなわち止血作用である。血小板の中には,カルシウム,アデノシン二リン酸(ADP),凝固因子など止血に際して重要な働きをする物質が含まれている。血管壁が破れると,血管壁の膠原(こうげん)繊維に多数の血小板が粘着し,つづいて血小板どうしが互いに凝集して止血栓をつくって血管の破れた部位をふさぐ。血小板が凝集するとき,もっていた物質を放出し,この物質が凝集をさらに強固にするとともに,血漿中の凝固因子の連鎖反応を呼び起こし,フィブリンによる繊維網が形成されて出血部に強力な止血のための血栓が形成される。この過程を血液凝固という。
血液
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「血球」の意味・わかりやすい解説

血球
けっきゅう

血液中に浮遊している細胞で、赤血球、白血球、血小板に大別されるが、白血球はさらに多くの型の血球の総称である。ヒトでは1立方ミリメートル中に、赤血球数は男500万、女450万、白血球は6000~8000、血小板は25万~35万である。

(1)哺乳(ほにゅう)類の赤血球は非運動性の非常に特殊化した細胞で、ヘモグロビンで満たされ、ラクダなど一部の動物を除いて核や小器官を失っている。ヒトの赤血球は両面がへこんだ直径約7マイクロメートルの円板形である。哺乳類以外の脊椎(せきつい)動物の赤血球は有核で、楕円(だえん)形のものが多く、大きさの面でもある種の有尾両生類ではヒトの赤血球の10倍ほどの長さをもつ。無脊椎動物では赤血球は比較的まれで、多毛類、シャミセンガイなどヘムエリトリンをもつ動物だけにみられる。

(2)白血球は運動性の細胞で、血流から結合組織中に出てアメーバ状に運動する。核の形、顆粒(かりゅう)成分などに特徴があって種類の識別ができる。白血球の機能のうちもっとも重要なものは抗体産生および食細胞運動によって外部からの侵入者に対して動物体を保護することである。白血球は顆粒球と無顆粒球とに分類され、顆粒球はさらにその染色性から、酸好性、塩基好性、中性好性の3種に分けられる。無顆粒球にはリンパ球と単球が含まれ、リンパ球は比較的小さく核が細胞質の薄い層によって包まれている。リンパ球には骨髄性のBリンパ球(B細胞)と胸腺(きょうせん)性のTリンパ球(T細胞)があり、見たところ区別できないが、免疫反応における役割の分担をしている。単球は大形の細胞で組織中に出てマクロファージ(大食細胞)となり、肝臓のクッパー細胞などでは特定の器官の内皮に定着する。哺乳類以外の脊椎動物にも白血球が存在するが、酸好性や塩基好性の顆粒球をもたない動物もある。無脊椎動物の白血球には呼吸色素を含んでいるものもある。

(3)血小板は巨核細胞からちぎれて生じた細胞片で、血液凝固に必要である。哺乳類以外の脊椎動物では有核で紡錘形のトロンボ細胞(栓球)が血小板にあたる。

 血球は発生の途中で血島として出現するが、成体では骨髄の造血組織でつくられ、血中に放出される。しかし有袋類やマウスでは脾臓(ひぞう)でも赤血球がつくられる。赤血球の生産は出血、低酸素圧などに反応して増加するが、これは腎臓(じんぞう)で生産されるエリスロポエチンというホルモンによって造血組織が刺激されることによる。赤血球の寿命はヒトでは普通120日ぐらいである。

[大岡 宏]

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百科事典マイペディア 「血球」の意味・わかりやすい解説

血球【けっきゅう】

動物の血液中に浮遊している細胞をいい,無脊椎動物の間葉組織に見られる遊離細胞に起源をもつと考えられる。ヒトでは,赤血球白血球血小板に区別される。
→関連項目血漿血清血餅

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栄養・生化学辞典 「血球」の解説

血球

 血液細胞ともいう.血液の中の赤血球,白血球,血小板の総称.

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世界大百科事典(旧版)内の血球の言及

【血液】より

…献血に際しては,比重が1.052以下の場合は不適格とされる。
[血球haemocyte(blood corpuscle)]
 血漿の中に浮遊している血液固有の細胞を血球といい,赤血球白血球血小板の3種類に大別される。耳たぶや皮下の静脈などの末梢血管から採った血液(これを末梢血という)について数の割合を調べてみると,白血球1に対して,血小板25,赤血球500である。…

【血液】より

…献血に際しては,比重が1.052以下の場合は不適格とされる。
[血球haemocyte(blood corpuscle)]
 血漿の中に浮遊している血液固有の細胞を血球といい,赤血球白血球血小板の3種類に大別される。耳たぶや皮下の静脈などの末梢血管から採った血液(これを末梢血という)について数の割合を調べてみると,白血球1に対して,血小板25,赤血球500である。…

【血液】より

…一般に血液は有形成分と無形成分に区別される。前者は細胞成分,すなわち血球であり,後者は細胞成分を除いた液体成分,すなわち血漿(けつしよう)成分である。下等無脊椎動物の血液は,組織液と同じく無色透明なものが一般であるが,呼吸色素をもつ細胞(赤血球)や血漿内にある呼吸色素の色により,青色あるいは赤色を呈する。…

※「血球」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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