無脊椎動物の中の一動物門。扁形・紐形・曲形動物門を除いた下等な左右相称動物を一括し,輪虫綱,線虫綱,腹毛綱,線形虫綱,動吻(どうふん)綱,プリアプルス綱,鉤頭虫(こうとうちゆう)綱の7綱を含んでいる。しかし,これらの各綱の類縁関係に不明な点が多く,また卵割の様式などそれぞれに相当重要な特徴に違いがあることなどから,これらの各綱を独立した1門として扱ったり,また鉤頭虫類のみを一つの動物門にして残りの6綱を一括して袋形動物とする場合もある。外形はそれぞれ異なっているが,次のような共通した特徴が見られる。全体はほぼ円筒形で左右相称,体節制のようなものが見られるが,真の体節制をもっていない。体表はクチクラや,じょうぶな外甲で保護され,剛毛,とげや毛などをもっている。体内の腔所は偽体腔であり,消化管は一般に簡単で肛門がある。循環器官と呼吸器官をもっていない。排出器官は大部分が原腎管である。一般に雌雄異体で生殖器官は比較的簡単である。
袋形動物門の中で,線虫綱がもっとも栄え,海水,淡水,陸上などで自由生活するほか,植物や動物の体内にも寄生していて,50万種は存在すると推定されている。
輪虫綱Rotatoriaは大部分が淡水に,少数が海水中にすむ顕微鏡的な大きさの動物で原生動物より小さいものも多い。最大のものでも2mmにならず,一般に雌のほうが大きい。体は頭,胴,足の3部に区別できる。頭部には繊毛冠があり,繊毛の運動で前進したり,プランクトンを集めてたべる。体の後方に足をもっているものでは,先端につめがあって,水草や石に付着することができる。ふつうに見かけるのは雌であって,雄がまだ発見されていない種類も多い。生活環境がよいと雌だけで単為生殖を行って雌の個体を増やすが,ある条件によって雄が生じて両性生殖をし,厚い殻をもった耐久卵をつくる。この耐久卵は休眠期間を経たあと雌に発達する。シオミズツボワムシは種苗生産のおりの餌として,大量に飼育して利用されている。
→ワムシ
腹毛綱Gastrotrichaは体型がイタチに似ているところからイタチムシと呼ばれ,池や沼の水底をはったり,ときに泳ぐこともある。体長0.07~1.5mmで体表面は多くの鱗板で覆われ,鱗板にとげがあるものでは背面全体からとげが生えているように見える。体の末端は二つに分かれ,長い突起になっているものもある。
線虫綱Nematodaは袋形動物中もっとも種類が多く,海水,淡水,陸上で自由生活するほか,動物寄生種は人体や各種動物の消化管,筋肉,血液などに寄生して寄生虫病を起こさせ,植物寄生種は,茎や根に寄生して植物組織に壊疽を起こさせ大きな被害を与える。体は細長い円筒形で,体長は0.5~4mmくらいのものが多いが,なかには1m以上になるものもある。植物寄生種は口腔の中に長さ0.01~0.1mmの中空の口針があって,これで細胞の内容物を吸いとる。ふつう雌雄異体であって,雌の生殖孔は腹面のほぼ中央に開くが,雄では体後方の消化管の末端近くにある。ウマカイチュウの染色体数は2n=2で動物中もっとも少ない。
→センチュウ
線形虫綱Nematomorphaはハリガネムシの仲間で,川の中で自由生活するが,幼虫はカマキリ,キリギリス,ゲンゴロウなどの体内でほぼ成体に成長し,これらの宿主から外にでる。体は細長くて針金のように堅く,体長は10~40cmであるが,なかには1m以上のものもある。口から消化管が続いているが,管の先のほうが閉じていて食物をとることができなくなっている。
動吻綱Kinorhynchaは海産の微小動物で,砂泥中や海藻の上にすみ,ときには浮遊することもある。体長0.5~1mmで体表はキチン質で覆われ,十数の体節に分かれている。頭部には棘冠(きよくかん)があり,胴部にもとげやかぎがある。ケイ藻をたべる。キョクヒチュウなどが知られている。
プリアプルス綱Priapulidaは海底の泥の中にすみ,日本からはエラヒキムシなど2種のみが知られている。大型で体表面が星口動物に似ていて,体後端よりブドウの房のようなものが1~2個あり,これは一種の感覚器と考えられている。
鉤頭虫綱Acanthocephalaは海産,淡水産,陸産の脊椎動物の消化器内に寄生し,吻の表面にあるかぎで腸壁に付着して,宿主の栄養を体表から吸収する。体は円筒形で吻,くび,胴の3部に分けられ,前方に突出する吻に多くのかぎが並んでいるためにコウトウチュウと呼ばれている。幼虫は水生または陸生の昆虫や甲殻類の体内で成長し,それらが終宿主にたべられ変態して成体になる。
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
動物分類学上、一門Aschelminthesを構成する動物群。「ふくろがたどうぶつ」ということもある。かつての分類の線形動物と輪形動物とを合一したものにほかの群(綱)を入れ、輪虫綱、線虫綱、腹毛綱、線形虫綱、動吻綱(どうふんこう)、プリアプルス綱、鉤頭虫綱(こうとうちゅうこう)の7綱を含んでいる。しかし、各綱の類縁関係に不明な点があることから、各綱をそれぞれ独立した一門としたり、また寄生生活に特殊化した鉤頭虫類を一つの動物門にして、残りの6綱を袋形動物とする場合もある。
外形は各綱によって異なっているが、次のような共通点がみられる。体は円筒状や糸状で、左右相称であるが、その前体は放射相称である。また体節のようなものがみられるが、真の体節制をもっていない。体表はクチクラやじょうぶな外甲で覆われ、その表面には剛毛、棘(とげ)や毛などがある。体壁と消化管の間に偽体腔(ぎたいこう)が発達している。消化系は口から肛門(こうもん)に終わっていて、よく発達した咽頭(いんとう)をもっている。ただし、寄生性の線形虫類では消化系の一部が退化し、また鉤頭虫類ではまったく退化している。排出器官は大部分が原腎管(げんじんかん)である。感覚器としては感覚毛、眼点などをもつことがある。循環系と呼吸系はない。一般に雌雄異体で、生殖器官は比較的簡単である。
これらの形態からみると、袋形動物は扁形動物(へんけいどうぶつ)よりも高い体制をもっているが、環形動物よりは体制が低く、進化の途中で側路に入ったものと考えられる。袋形動物のなかで線虫類は海・淡水、陸のあらゆる所で自由生活するほか動物や植物の体内に寄生し、大きな害を与えるものも数多い。温泉や酢をつくっている容器内にすむなど著しい適応放散を遂げ、約50万種も存在すると推定され、昆虫類に次ぐ大きな群といえる。輪虫類は小形で、主として淡水産生物として形態的、生態的に適応放散し、世界で約1500種が知られている。この類は環境に対して高い耐久性があることで著名な動物で、一部の種類は大量に飼育され、魚貝類の種苗生産の際の餌(えさ)として利用される。
[今島 実]
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