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空を背景にした目標の形を肉眼で確かめられる最大距離をいう気象学の用語。類似の用語に視界があるが,これは山や建物などにさえぎられずに見える範囲を意味する一般用語である。視程は水滴や細塵などの微粒子による大気の混濁状態によって変わるので,地表付近の大気の混濁の程度を距離で表したものと定義することもある。視程は目標がよく見渡せる場所,たとえば屋上などで観測する。この場合,目標の大きさはできるだけ鉛直方向・水平方向ともに視角にして0.5度以上,5度以下の黒ずんだ色のものを目標に選ぶことになっている。また,目標を肉眼で確かめるとき,その位置だけでなく目標の形まで識別できなければならない。夜間の視程は,昼間と同じ明るさにしたと仮定した場合に,目標を確かめることのできる最大距離である。したがって,大気の混濁状態が同一ならば昼間・夜間に関係なく視程は同じになる。
視程を表すには,通常km単位を用い,普通その10分の1くらいまでの値で示す。視程観測には視程目標図を用いる。この図は観測場所を中心にとり,同心円を描いて適当な距離の目盛を入れる。普通0.1,0.2,0.5,1,2,5,10,20,50,100km程度の目盛にする。この円形図の該当する位置に,目標物の概形,名称,夜間の目標の場合は灯火の光度がわかれば記入しておく。水平方向の視程が方位によって異なる場合,その最大値を最大視程,最小値を最小視程または最短視程という。地上気象観測法によると,最短視程を視程にしている。なお,視程の測定は通常肉眼によるが,可視光線に対する空気の透過率から視程を求めるなどの視程計を使うこともある。
視程は航空機の離着陸に特に重要であるため,航空気象情報のために定義した視程がある。飛行視程は飛行中の航空機の操縦席から前方を見たときの視程,卓越視程は全方向の平均的な視程のことである。
大気中の微粒子が雨で洗い落とされたあとや,大陸から強い寒気が吹きこみ,大気中の対流が活発になって微粒子が拡散するとき,視程はよくなる。50km以上の視程を異常視程という。気温が上空ほど高く,気温の逆転層ができると,大気は安定化し微粒子がたまってしまうので,視程は悪くなる。
執筆者:朝倉 正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大気の濁りの程度を表す尺度の一つ。気象視程ともいう。大気が清澄で遠方の山並みがよく見えるときは視程は50キロメートル以上であり、霧がかかっているときは1キロメートル以下である。大気の濁りの程度を直接表す別の尺度として、光学器械を用いて客観的に求めた「気象光学距離」と名づけられたものがある。視程はその目視観測に相当する。
視程の観測結果は、気団の種類の判定、煙霧や霧などの濃さの判定などに使われる。実用的には道路、鉄道、航空などにおける運行管理に利用され、また近年には大気汚染の濃度の指標としても使用されている。
視程は通常、目視観測で行われ、キロメートル単位、近距離では100メートルあるいは10メートル単位で表す。ただし目視観測では観測者の主観が入りやすいため、あまり細かい測定はできがたいので、階級で表すこともある。なお空港の滑走路付近では透過率計などの光学器械を用いて観測することもある。
目視観測で得られた世界各地の観測値を相互に比較できるように、視程観測の方法は国際的に次のように決められている。昼間は空を背景とした黒ずんだ目標物を選び、それが肉眼で識別できる最大の距離を観測する。目標物の大きさは、視角が0.5~5度程度とし、たとえば一軒家、あまり大きくないビル、煙突、木立群などが適している。遠方の目標としては空を背景にした山がよい。これらをあらかじめ図示(夜間の目標も含め)しておくと便利である。
夜間は目標物として外灯や、建物の窓から見える集光されない白色の電灯(光度25~100カンデラ程度)を選ぶ。さまざまな距離の電灯のうち、ほとんど識別できなくなった電灯の距離を求め、それとその電灯の光度(カンデラ)とから図表を用いて視程を求める。この方法を用いると、たとえ暗夜で100メートル先が見えない場合でも、大気の濁りぐあいに応じて視程は10キロメートルとか20キロメートルという値になる。
[大田正次]
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