強い葛藤に直面して圧倒されたり、それを認めることが困難な場合に、その体験に関する意識の統合が失われ、知覚や記憶、自分が誰であり、どこにいるのかという認識などが意識から切り離されてしまう障害です。
それぞれについて解説していきます。
●解離性健忘
外傷的な出来事の強い衝撃のために、それに関する記憶の想起が不可能になった状態であり、通常の物忘れよりもその範囲は広範です。
●解離性遁走
予期していない時に突然、家庭や職場などの日常的な場所を離れて放浪し、本人にその間の記憶がないものをいいます。飲酒や身体疾患による意識障害、認知症などでは説明できないものを指します。
放浪は、時に数百キロを越えることもあり、遁走の間は、自分が誰であるかわからず、遁走の以前はもとより、その最中に起こった出来事の記憶も失われていることがあります。
●解離性同一性障害
いわゆる
通常、主人格(もともとの人格)はそれ以外の人格による言動を直接には知りませんが、主人格の言動は他の人格に知られています。主人格の側から見れば、自分の言動に記憶の空白が生じることになるのです。
学者によっては多重人格の存在を認めず、医師によって誇張された人工的な現象だと考える人もいます。
自分の意識が自分自身から離れ、遠ざかっていると感じる状態が慢性的に続くものです。自分がまるで夢のなかにいるように思い、現実の出来事に現実感がなく、映画の画面を見ているように感じられます。自分が今、ここにいるという意識がなくなり、自分の体も自分のものではないかのように感じられます。
同じような状態は、入眠時、疲労時などには健常者にもみられることがあります。また、うつ病、
●身体症状への転換
このように、葛藤についての意識を自分自身から切り離したとしても、葛藤そのものがなくなるわけではなく、また意識から切り離しがうまくいかない時などには、その苦悩が体の痛みや機能障害に転換されることもあります。この場合に生じる身体症状は重いことが多く、明らかに医療が必要であると思われたり、周囲の人間の関心を呼びます。
本当に体の病気や外傷が合併していることもありますが、そうした傷病の一般的な訴えよりも、解離性障害の患者さんの訴えのほうがはるかに強かったり、通常とは違う訴えがみられます。
患者さんは意図的にうそをついているのではありませんが、時には、こうした症状によって葛藤から逃避したり、周囲の人間から援助を引き出すことによって利益を得ていると思われることもあります。
安全感、安心感を与え、心理的に保護することが必要です。また、本人の精神的な健康を回復させるために、抗うつ薬や精神安定薬が有効なこともあります。専門家の助言を得ながら対応を工夫してください。
金 吉晴
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
本来一つにまとまっている意識や記憶および知覚、あるいは自分は自分であるという自己同一性(アイデンティティ)などの感覚を統合する心的機能が、一時的に分離もしくは破綻(はたん)した状態。過去のある期間の出来事の記憶がまるごとすべて抜け落ちる(解離性健忘)、自己同一性が失われ失踪(しっそう)して知らない場所で生活する(解離性遁走(とんそう))、それは自分に起きていることではないと感じられるなど現実感を失う(離人症)、あるいは体の感覚を一部失ったり体が動かせなくなるなどの症状が深刻となり、日常生活や社会生活にさまざまな支障をきたすようになる。解離性健忘や離人症は、ストレスや心的外傷など、過去の耐えられないほどつらいと感じた体験の記憶を、自分から切り離し思い出さないように封じ込めようとする防衛機制の一つと考えられている。こうした解離現象は、健康人にも病的にではなく一時的に現れる場合がある。
解離性障害でもっとも重い症状が解離性同一性障害(多重人格障害)で、感情や記憶を絶つことによって、自分のなかに別の複数の人格が交互に現れるようになり、ある人格が現れていたときには、その他の人格が現れているときの記憶がないため、周囲の理解が得られず生活に支障をきたすようになる。DID(Dissociative Identity Disorder)と略称される。
世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)では解離性(転換性)障害として、過去の記憶、同一性と直接的感覚の意識、身体運動のコントロールの間の正常な統合が一部ないし完全に失われた状態と定義されているが、アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計の手引き 第5版(DSM-5)』では、意識、記憶、同一性、環境の知覚というふだんは統合されている機能の混乱というやや狭義の内容となっている。
[編集部 2017年3月21日]
(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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