解離性障害(読み)カイリセイショウガイ(その他表記)Dissociative disorders

デジタル大辞泉 「解離性障害」の意味・読み・例文・類語

かいりせい‐しょうがい〔‐シヤウガイ〕【解離性障害】

通常は統合されている意識・記憶・自己同一性などが混乱し、連続性がなくなったり、失われたりする障害。強いストレスや心的外傷が原因で発症すると考えられている。自分に関する重要な情報を広い範囲にわたって思い出せない解離性健忘、精神が体から離脱して自分を傍観者であるかのように感じる離人症性障害、複数の人格状態が存在する解離性同一症、突然、家庭や職場から離れて放浪し、過去を想起することができなくなる解離遁走とんそうなどがある。解離症。DD(dissociative disorder)。

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六訂版 家庭医学大全科 「解離性障害」の解説

解離性障害
かいりせいしょうがい
Dissociative disorders
(こころの病気)

どんな病気か

 強い葛藤に直面して圧倒されたり、それを認めることが困難な場合に、その体験に関する意識の統合が失われ、知覚や記憶、自分が誰であり、どこにいるのかという認識などが意識から切り離されてしまう障害です。解離性健忘(かいりせいけんぼう)、解離性遁走(とんそう)解離性同一性障害離人症性(りじんしょうせい)障害などの形をとり、また、身体症状に転換されて表現されることもあります。かつては女性に多いと思われていたので、子宮を意味するヒステリーと呼ばれたこともありましたが、今ではこの言葉は使われていません。

 それぞれについて解説していきます。

●解離性健忘

 外傷的な出来事の強い衝撃のために、それに関する記憶の想起が不可能になった状態であり、通常の物忘れよりもその範囲は広範です。

●解離性遁走

 予期していない時に突然、家庭や職場などの日常的な場所を離れて放浪し、本人にその間の記憶がないものをいいます。飲酒や身体疾患による意識障害、認知症などでは説明できないものを指します。

 放浪は、時に数百キロを越えることもあり、遁走の間は、自分が誰であるかわからず、遁走の以前はもとより、その最中に起こった出来事の記憶も失われていることがあります。

●解離性同一性障害

 いわゆる多重人格(たじゅうじんかく)と呼ばれる状態です。2つ以上のはっきりと区別される人格が一人のなかに存在し、それぞれの人格ごとに独立した行動をします。

 通常、主人格(もともとの人格)はそれ以外の人格による言動を直接には知りませんが、主人格の言動は他の人格に知られています。主人格の側から見れば、自分の言動に記憶の空白が生じることになるのです。

 学者によっては多重人格の存在を認めず、医師によって誇張された人工的な現象だと考える人もいます。

離人症性障害

 自分の意識が自分自身から離れ、遠ざかっていると感じる状態が慢性的に続くものです。自分がまるで夢のなかにいるように思い、現実の出来事に現実感がなく、映画の画面を見ているように感じられます。自分が今、ここにいるという意識がなくなり、自分の体も自分のものではないかのように感じられます。

 同じような状態は、入眠時、疲労時などには健常者にもみられることがあります。また、うつ病統合失調症(とうごうしっちょうしょう)などの多くの精神疾患の部分症状として現れるので、こうした疾患の診断がなされている場合は、あえて離人症性障害という診断はつけません。

●身体症状への転換

 このように、葛藤についての意識を自分自身から切り離したとしても、葛藤そのものがなくなるわけではなく、また意識から切り離しがうまくいかない時などには、その苦悩が体の痛みや機能障害に転換されることもあります。この場合に生じる身体症状は重いことが多く、明らかに医療が必要であると思われたり、周囲の人間の関心を呼びます。

 本当に体の病気や外傷が合併していることもありますが、そうした傷病の一般的な訴えよりも、解離性障害の患者さんの訴えのほうがはるかに強かったり、通常とは違う訴えがみられます。

 患者さんは意図的にうそをついているのではありませんが、時には、こうした症状によって葛藤から逃避したり、周囲の人間から援助を引き出すことによって利益を得ていると思われることもあります。

治療の方法

 安全感、安心感を与え、心理的に保護することが必要です。また、本人の精神的な健康を回復させるために、抗うつ薬精神安定薬が有効なこともあります。専門家の助言を得ながら対応を工夫してください。

金 吉晴

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「解離性障害」の意味・わかりやすい解説

解離性障害
かいりせいしょうがい

本来一つにまとまっている意識や記憶および知覚、あるいは自分は自分であるという自己同一性アイデンティティ)などの感覚を統合する心的機能が、一時的に分離もしくは破綻(はたん)した状態。過去のある期間の出来事の記憶がまるごとすべて抜け落ちる(解離性健忘)、自己同一性が失われ失踪(しっそう)して知らない場所で生活する(解離性遁走(とんそう))、それは自分に起きていることではないと感じられるなど現実感を失う(離人症)、あるいは体の感覚を一部失ったり体が動かせなくなるなどの症状が深刻となり、日常生活や社会生活にさまざまな支障をきたすようになる。解離性健忘や離人症は、ストレスや心的外傷など、過去の耐えられないほどつらいと感じた体験の記憶を、自分から切り離し思い出さないように封じ込めようとする防衛機制の一つと考えられている。こうした解離現象は、健康人にも病的にではなく一時的に現れる場合がある。

 解離性障害でもっとも重い症状が解離性同一性障害(多重人格障害)で、感情や記憶を絶つことによって、自分のなかに別の複数の人格が交互に現れるようになり、ある人格が現れていたときには、その他の人格が現れているときの記憶がないため、周囲の理解が得られず生活に支障をきたすようになる。DID(Dissociative Identity Disorder)と略称される。

 世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)では解離性(転換性)障害として、過去の記憶、同一性と直接的感覚の意識、身体運動のコントロールの間の正常な統合が一部ないし完全に失われた状態と定義されているが、アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計の手引き 第5版(DSM-5)』では、意識、記憶、同一性、環境の知覚というふだんは統合されている機能の混乱というやや狭義の内容となっている。

[編集部 2017年3月21日]

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家庭医学館 「解離性障害」の解説

かいりせいしょうがい【解離性障害 Dissociative Disorder】

[どんな病気か]
 以前は、ヒステリーの解離型(かいりがた)と呼ばれていました。ヒステリーには、いくつかの種類があります。からだの病気がないのに、からだに機能障害の出る転換型(てんかんがた)と、その個人の意識に亀裂(きれつ)が生じるのが特徴の解離型があります。解離型では、亀裂が生じることにより、その個人が本来もっている「これが自分だ」という感覚に不連続性が生じます。
[症状]
 たとえば、非常に大きな精神的ショックの後、ある期間失踪(しっそう)してしまい、その間、自分の名前やそれまでの生活について忘れて、新しい名前を使って生活していることがあります。このようなタイプの失踪をフーグ(解離性遁走(かいりせいとんそう))と呼びます。
 失踪はしないまでも、大きなショックの後、自分に対する記憶を失ってしまうことがあります。さまざまな程度のものがありますが、全く記憶を失っている場合を全生活史健忘(ぜんせいかつしけんぼう)といいます。
 フーグでは、解離の期間が比較的はっきりしており、日ごろの生活の場から遁走してしまうので、異常に気づきやすいのですが、慢性的に自己意識に解離症状をもちながら、持続的に同じ社会で生活している場合もあります。
 たとえば、多重人格(たじゅうじんかく)では、自己の中にいくつかの人格があります。おもな人格が一応正面に出て社会生活はしていますが、ストレスには弱く、不適応を生じやすい状態にあります。また、人格全体が解離してしまうところまでいかなくても、「これが自分」という感覚が薄くなり、自分を外から傍観(ぼうかん)しているような感じがしたりします。自分の周りの出来事も現実感がなく、まるで映画でも見ているように感じられる離人症状(りじんしょうじょう)がみられることもあります。離人症状は、健康な人が極度に疲労したり、マインドコントロールを受けたりしても生じます。また、うつ病や薬物依存など、さまざまな精神疾患と関連しても生じます。
 他の精神疾患との鑑別を行ない、治療を始めます。

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知恵蔵 「解離性障害」の解説

解離性障害

心的外傷体験の研究が進む中で、「解離」という心の防衛システムが注目されるようになってきた。辛すぎる体験を前にすると、体験している自分自身から感情を切り離す。その結果、外傷体験から心理的に逃避できても、自己の統一性を犠牲にする場合があり、意識や記憶の連続性に問題が生じる。解離は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を始め他の障害とも関係が深いが、解離を中心とした障害としては、(1)解離性健忘=ストレスの強い重要な個人的記憶が失われる、(2)解離性同一性障害=最も重症で慢性化する、(3)離人症性障害=自分の身体や自己自身に対する非現実感を反復的に持ち、外界の現実感が薄れたりする、(4)解離性遁走=住み慣れた家や仕事から離れて突然放浪に出て、自己の同一性に関する記憶喪失を伴う、など。心的外傷を負った少年たちが、感情が解離した時に万引きや器物破損、残忍な行動などの問題を起こすという指摘もある。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

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