光に集まる性質(走光性)をもつ昆虫を灯火で誘引する装置をいう。誘蛾灯の起源は、光源に松明(たいまつ)や篝火(かがりび)を用いて、ウンカやニカメイガを誘引して焼き殺したことにさかのぼる。時代が移り、光源は行灯(あんどん)、カンテラ灯、アセチレン灯へと進む。大正時代に入ると農村の電化が進み、光源は電球に変わる。第二次世界大戦前には、蛍光灯が一般家庭に普及する以前に誘蛾灯の光源として用いられ、戦後まもなくまで続くが、占領軍の指令や農薬の普及によって急激に減少し、誘殺を目的とした誘蛾灯は、特殊な害虫を対象とする以外は、ほとんど用いられなくなった。一方、誘蛾灯を害虫の発生状況を知ったり、発生予知に利用しようとする気運が明治時代に起こり、現在では、この目的のために広く用いられ、予察灯とよばれている。予察灯は、その年の発生状況の把握と発生予知のための長期間のデータ蓄積とを目的とし、都道府県の病害虫防除所によって、害虫の発生期間中、日別に調査されている。予察灯の光源は対象作物や害虫によって異なり、高圧水銀灯、青色・白色蛍光灯、ブラックライトなどが用いられているが、一般作物では60ワット白熱灯を用いることが規定されている。誘蛾灯には水盤に油を滴らして殺虫する湿式と、殺虫箱を用いる乾式とがあるが、現在の予察灯は乾式と規定され、光源、ロート、殺虫箱とで構成されている。
[岸野賢一]
昆虫の走光性を利用して害虫を誘引,殺滅する蛍光灯,ブラックライト,高圧水銀灯などの照明装置。昔は光源に石油ランプ,アセチレン,60W電球などを用いた。走光性で集まる害虫を,水面に油滴,中性洗剤(界面活性剤)を落とした水盤に落下溺死させたり,殺虫剤を入れた箱,袋に集めて死亡させる。主としてイネのメイガ類,ダイズのコガネムシ,果樹のシンクイガ,ハマキガの幼虫の捕殺に使用した。昭和の初期から第2次世界大戦直後にかけて,東大の鏑木外岐雄らは,一連の研究から,ニカメイガが330~440nmの紫外線によく誘引されることを明らかにし,同範囲の光を効率よく出す青色蛍光灯を開発した。その効果は,5ha当り1台ずつの設置で,イネの被害茎数を半減させるというもので,1952年には,全国のメイガ防除用青色蛍光灯は14万台にも及んだ。しかし,1951年にメイガ防除用の特効薬パラチオンが登場し,誘蛾灯の使用は急減した。近年はミカン園でアカエグリバの防除と他の害虫の発生予察に効果を発揮している。
執筆者:池庄司 敏明
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