出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…そしてその変貌の過程において登場してくるのが,文学理論と呼ばれるものなのである。
[テキスト論と読者論]
その文学理論を支える特徴的な発想の中心にあるのが,テキストについての新しい考え方である。端的に言えば,これまでの文芸批評がその対象としての作者と作品を失ったあとに,文学理論の基礎として発見されたのが〈テキスト〉であるということになるだろう。…
…実際,優劣の判断において論争となれば,評者の解釈と判断基準を詳しく説明する必要が生じ,分析が深められ解釈が綿密化するにつれて,作品は個としての輪郭をしだいに明瞭にし,ある一人の人間の知的・感性的活動の結実としてとらえられていくことになる。また,もし解釈,判断,評価,分類,説明という機能が批評から切り離せぬものだとすれば(今日の文学ジャンルとしての文芸批評はそういうものである),批評はかなり多数の読者=公衆にあてて書かれるものだということになる。そして批評の読者がかなり多数の公衆としての姿を示すとは,それがいわば社会内で制度化されることであり,この制度化は職業としての作家,批評家の制度化と見合う。…
…しかし,翻訳は了解ばかりでなく,翻訳言語による〈再表現化〉(ロシア文学の父,A.S.プーシキンがすでにこの概念を用いている)の作業をともなっている。すなわち,翻訳者は原語テキストの読者であると同時に,翻訳テキストの受容者たちにとって原作者の代理,あるいは新しい作者として登場することになるから,先に挙げたコミュニケーション図式は翻訳者を接点にして,原作者→原語テキスト読者/翻訳者→翻訳テキストの読者,というように二重化されるのである。ここではいかに原語に熟達した翻訳者といえども,しばしばなんらかの困難に出会わずにはいられない。…
※「読者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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