原語の la tour d'ivoire は、フランスの批評家サント=ブーブが詩人ビニーの態度を評した語だが、旧約聖書の雅歌七章四節にも見える。日本では、大正九年(一九二〇)刊厨川白村の評論集「象牙の塔を出て」によって一般に広まった。
もとはキリスト教の聖歌の歌詞に由来する言葉といわれるが,19世紀以降のヨーロッパでは,知識人たちが日常生活の実際的な関心とは没交渉の環境の中で難解な,あまり役にも立たない学問研究に没頭する様子や態度を示す言葉として使われてきた。日本には翻訳語として紹介される。産学協同という言葉が否定的な意味で使われていた第2次世界大戦後の大学論では,学問至上主義や芸術至上主義を標榜する知識人の行動を賞賛する意味で使われることもなかったわけではないが,一般には世間知らずで独りよがりの非社会的な態度をとる大学人に対して皮肉を込めて揶揄する言葉として使われる。「学者・研究者は,象牙の塔に籠もるのをやめて,積極的に社会的問題とかかわらねばならない」といった文脈で使用されることが多い。
著者: 斉藤泰雄
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
文芸批評家サント・ブーブが詩人ビニーの芸術姿勢を批評したことば。「象牙の塔にこもる」という表現で、芸術家、学者が現実逃避的態度で自己の理想にこもり、芸術または学問三昧(ざんまい)にふけることを意味する。もともとは「あなたの頸(くび)は象牙の塔のようである」(『雅歌』7章4節)と女性の美しさをたたえることばで、サント・ブーブによって転意して伝えられている。
[船戸英夫]
…そこでは,学問研究の自由が保障され,アカデミック・フリーダム(学問の自由)の観念もしだいに定着していく。他方で,世俗を離れての,真理のための真理探究の精神態度は,現実との接点を失って高踏化し,その権威に安住して学問至上主義的独善的態度も生まれ,〈象牙の塔ivory tower〉にこもっての抽象的空論や衒学(げんがく)的態度が目だつようになってくる。それはまた,学問研究を保守的にし,若い世代が新しい課題に創造的・意欲的に取り組むことをさまたげることにもなった。…
※「象牙の塔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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