財団と大学(読み)ざいだんとだいがく

大学事典 「財団と大学」の解説

財団と大学
ざいだんとだいがく

[日本の大学と財団

財団と大学との関係の一つの契機としては,1918年(大正7)大学令により,必要十分な資金および基本財産を持ち,維持費用を支出し得る基本財産を文部大臣へ供託できる財団法人によって,私立大学の設置が可能とされたことを挙げることができるであろう。この条件のもとで1920年2月に慶應義塾大学早稲田大学最初設立され,同年4月には明治大学,法政大学,中央大学,日本大学,國學院大學同志社大学が認可された。しかしながら,その後に認可される大学群も含め,潤沢な資金を有した財団法人の存在により,施設・設備の整備専任教員の確保などに問題を抱えることがなかったという大学は皆無であった。こうした意味において日本における財団と大学との関係は,先に教育機関があり,それらが大学への昇格のために財団(法人)をつくるといった形でスタートしたといえる。

アメリカの大学と財団]

これに対してアメリカ合衆国は,篤志家(フィランソロピスト)による寄付金に,大学の設立や発展が強い影響を受けてきた。その典型的な例として,アンドリュー・カーネギー,A.が設立したカーネギー教育振興財団によるカーネギーメロン大学(アメリカ)(前身はカーネギー技術学校)の設立と,ジョン・D. ロックフェラー,J.D.が設立したロックフェラー財団によるロックフェラー大学(アメリカ)の設立を挙げることができよう。前者は鉄鋼王として有名なアンドリュー・カーネギーが,その経済的成功を背景としてカーネギー教育振興財団を設立し,同財団が多様な社会貢献(フィランソロフィー)を展開するなかで設立されたものである。当該大学はタイムズ社の世界大学ランキング(2015年)で24位に位置づけられるなど,きわめて重要な役割をアメリカの高等教育界で果たしている。またロックフェラーは石油王として有名で,シカゴ大学(アメリカ)やロックフェラー大学はロックフェラー財団が設立したもので,前者は総合大学として国際的に高い評価(タイムズ誌世界大学ランキング2015で11位)を得ており,後者は生命科学分野において高い評価を得ている。こうした事例は,日本における大学と財団の関係性とは異なっている。

[理想と現実]

前述したカーネギー教育振興財団やロックフェラー財団は,これらの大学の設立のみを行ったのではない。これらの財団は多様な研究・教育センターの設立や,さまざまな形で大学で行われる研究・教育への財政を支援している。さらに,アメリカにおけるこうした財団の数,そして規模は日本をはるかに凌駕しており,合田哲雄「アメリカの大学支援組織」(2012年)によれば,2004-05年度で6万団体,助成額にして320~350億ドルとされており,その多くが高等教育に配分されている。こうした量・質ともに備わった多様な財団の存在がアメリカの大学に果たしている役割はきわめて大きい。実際にアメリカにおける財団の規模・多様性が大学の財源の多様性,ひいては大学の多様性を生み出し,その自立性・自律性を高めているということもできるであろう。財団による財政支援が期待しにくい日本社会において,その大学の構造と機能にはおのずから違いが出てきている。こうした観点から,アメリカの大学の事例を範とすることが多い日本の高等教育改革の現状において,財団にかかわる背景についての留意や各種改革の移植に伴う配慮が不可欠と考えられる。
著者: 島一則

参考文献: 天野郁夫『高等教育の時代〈上〉』中央公論新社,2013.

参考文献: 合田哲雄「アメリカの大学支援組織」『IDE―現代の高等教育』IDE大学協会,538号,2012.

参考文献: 文部省『学制百二十年史』ぎょうせい,1992.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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