( 1 )漢籍に見える語であり、日本でも平安後期から室町時代の文献に用例を確認できる。しかし、江戸時代には、「進退」から派生した「身代」や、「身の上(みのうえ)」を音読した「身上」が専ら用いられた。
( 2 )明治時代には、西洋の書物の翻訳、特に西洋の法律書の翻訳の中で再び「財産」が用いられるようになる。ヘボンの「和英語林集成」では改正増補版(明治一九年)から登載されるようになった。
財産は,一般に金銭その他の利益をもたらす有形・無形の対象を指していわれるが,学問上は,その内容は各領域によって異なり,その意義を共通に定めることはむずかしい。財産は,経済学上は簿記用語として用いられるし,法律上は,憲法に財産権の保障の規定(憲法29条)がみられるし,刑法では財産刑の対象となるが,最も多く用いられる法領域は民法,商法および各種の税法である。
簿記用語としては,財産とは一定会計単位組織の有する権利・義務のすべてを含むものとされ,それらは,積極財産(資産)と消極財産(負債)とに分類される。そして,積極財産はさらに有形資産と無形資産とに分けられ,前者は例えば現金,預金,商品,建物などであり,後者は売掛金,貸付金,特許権,営業権のようなものであるといわれている。簿記用語としての財産は,一定の企業体,事業体における資産,負債の状況を明らかにする概念であるが,企業,事業を営むことと無関係の個人においてもこのような資産,負債の状況は考えられうるであろう。
そこで,法律上の概念として,財産とは一定の権利主体に帰属している利益の客体の総体,または個々的利益客体を指すといってよい。そして,財産(利益客体)を構成する権利は金銭的価値のあるものでなければならない。そのような財産権の種類として,通常,物権,債権および無体財産権が挙げられてきた。しかし,財産を構成する権利はこれらのほかにも,のれん・信用などの営業的利益などを広く包含しているといえよう。
財産の中に債務その他の消極財産を含むか否かは,財産について規定している各法規の形式または各法規の解釈問題であって,狭く積極財産のみを指す場合もあるし,広く消極財産も含む場合もあるので,一概にいうことはできない。またいずれが正確であるともいえない。例えば,相続財産,不在者の財産という場合には消極財産も含まれているが,先取(さきどり)特権の客体たる財産,清算中の法人の財産,憲法29条の〈財産権の不可侵〉というような場合は債務を含まない積極財産のみを指すと解される。
財産は,財産の結合の要素である目的から,以下のように分類されることもある。(1)一般財産 これは人の全財産を指す。(2)結合財産 例えば相続の限定承認における固有財産と相続財産の結合した財産。(3)部分財産 例えば営業財産。(4)独立財産 例えば破産財団の財産。(5)集合財産 例えば財団抵当の目的となっている財産である。
執筆者:水本 浩
財産を人類の文化現象としてみるとき,その概念はより広く複雑である。未開社会では財産の種類こそ現代社会よりも少ないかもしれないが,無形のもの,例えば司祭や首長,長老などの地位,呪術やまじないを行う資格,特定の歌,踊り,名称の権利,あるいは神話・伝説なども,その所有主体である個人や集団にとっては現代よりもはるかに大きな価値がある財産である。主体は,例えば衣服や一部の道具などについては個人であることがあるが,多くの重要な財産は,かりに個人が管理しているように見えるときでも,家族,リネージ,氏族,部族などが重畳して権利を持つことが多い。したがって主体の財産に対する関係も,法律的な一物一権の原則ではなく,個人的利用が認められているときでも同時に上位諸集団の必要により共同利用される,あるいは権利を分かちあうという形式が多い。つまり財産は特定人の独占物ではなく,すべてが社会全体の用に供されるという形である。この意味で財産を定義すれば,一つの個人・集団が他に優先して関係することを認められている,一定の有形・無形のものを利用する社会関係(E.A. ホーベル)といえよう。
ゆえに財産は経済的価値とか法律的関係とかいうよりも,全体として一つの社会制度であるというべきである。このことは経済的価値の意味だけで理解されることの多い現代社会においても,またさらに人類社会全部にわたっても妥当する。財産の種類はたしかに時代によって変わったが,採集狩猟民社会あるいは遊牧民社会では妨害されることなく生活行動のできる一定範囲の地域(テリトリー)が,また定住農耕が始まってからは農地がそれぞれ最重要の財産であった。その後土地が人間の技術が利用できる諸資源の貯蔵庫となり,政治・軍事の必須の条件となると,そして貨幣が最も有用な財産とされるようになると,それら各社会の最重要財産を管理支配する者が同時に社会を支配し,政治的にも優位を占めた。財産を制する者は社会を制したのである。現代社会にはさまざまのステータス・シンボルがあるが,その中でも財産はその最有力なものとなっている。そのような財産の社会的意義にとって決定的なものは,それをめぐる多数人相互の社会関係をどの範囲まで,またどのような形態のものとして認めるかという,社会的承認のしかたにかかっている。財産には社会的承認という要素もあるのである。なお,日本における近代以前の財産概念については〈相続〉の項を参照されたい。
→私有財産制
執筆者:千葉 正士
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人間の社会的・経済的な欲望を満たす手段。私法上はさまざまな意味に用いられる。
(1)いわゆる財産権の対象となる有形・無形の個々の財貨。有体物(不動産・動産)、債権、無体財産権(著作権・特許権など)などがある。
(2)ある人(法人を含む)に属する(1)の意味の財産の総体。ある人のもつプラスの資産を言い表すのに用いられる。限定承認の場合に、相続人が「相続によって得た財産の限度においてのみ」被相続人の債務と遺贈を弁済すればよいとしている(民法922条)のはこの意味である。
(3)ある人に属する積極(プラス)の財産と消極(マイナス)の財産の総体。「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(同法896条)という場合の「財産」はこの意味である。営業財産という場合も同じ。
[高橋康之]
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…特定の物を排他的に支配し,使用・収益および処分の機能を有する権利。〈排他的に〉ということは,その権利を何ぴとに対しても主張しうるし,その権利を侵害された場合,排除しうることを意味する。〈支配する〉は〈請求する〉に対立し,権利行使の態様に関する表現である。債権が,特定人が他の特定人に対し一定の行為を請求する権利であるのに対し,物権に属する所有権は特定の物を排他的・全面的に支配する権利である。物とは有体物,たとえば動産・不動産をいう(民法85条)。…
…特定の物を排他的に支配し,使用・収益および処分の機能を有する権利。〈排他的に〉ということは,その権利を何ぴとに対しても主張しうるし,その権利を侵害された場合,排除しうることを意味する。〈支配する〉は〈請求する〉に対立し,権利行使の態様に関する表現である。債権が,特定人が他の特定人に対し一定の行為を請求する権利であるのに対し,物権に属する所有権は特定の物を排他的・全面的に支配する権利である。物とは有体物,たとえば動産・不動産をいう(民法85条)。…
…史料上の用語に照らしてみると,家財という語を,住居としての家に蓄えられた財産の意味に理解する場合と,日本の家族制度である“家”に伝えられる家産の意味に理解する場合とに区別しておく必要がある。前者の意味で理解する場合には,すでに平安時代のころから,史料上にその存在を発見することが困難ではない。…
…たとえばナンディ族(ケニア)で,息子をもたない未亡人は,嗣子を得るため,普通の結婚と同じ形式にしたがって〈妻〉を迎える。父系制をとるナンディ族では,家畜や土地などの財産を父から息子へ均分相続で伝えるが,息子をもたず死亡した男の財産はいったん妻が保有する。この財産を亡夫の弟など傍系の父系親族に渡さず,みずから亡夫の身代りとなって〈妻〉をめとり,後継者を確保するのである。…
…物とは有体物,たとえば動産・不動産をいう(民法85条)。この点で,所有権は無体物の支配権である無体財産権(特許権,意匠権,実用新案権,商標権,著作権など)と異なる。使用,収益,処分は所有権の効力の代表的な現象を指すのであって,所有権者は,このほか,たとえば改良,担保権設定その他,いわば自分の物であるからどんなことにでもそれを使うことができる。…
※「財産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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