質量分析器(読み)シツリョウブンセキキ

デジタル大辞泉 「質量分析器」の意味・読み・例文・類語

しつりょうぶんせき‐き〔シツリヤウブンセキ‐〕【質量分析器】

原子分子質量分析に用いる装置イオンを直接写真乾板上に受けて記録する方式のもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「質量分析器」の意味・わかりやすい解説

質量分析器
しつりょうぶんせきき

質量スペクトログラフともいう。荷電粒子質量スペクトル測定装置のうち、一定の質量の荷電粒子の量を測定する質量分析計(質量スペクトロメーター)に対して、広い質量範囲の質量スペクトルを一挙に記録する方式のものをいう。広い運動量またはエネルギー範囲の粒子を観測する荷電粒子分析器の一種である。原子質量精密測定、微量化学分析あるいは化合物イオンの原子組成の決定などに使用される。

 質量分析器の原理を以下に簡単に述べる。のように試料はイオン源Iの中でイオン化される。イオンは加速電極Aで加速され、2枚の平板を同心円状に曲げた電極間の静電場Eを通過後、一様な磁場Bに入射して、焦点線Dに沿って置かれた乾板上に像を結ぶ。この構成が質量分解能数万から数十万の高分解能質量分析器の基本型であって、以下に述べる原理に基づいている。電場Eにより曲げられるイオンの軌道半径はその運動エネルギーに比例するから、電場Eはエネルギーを異にしたイオンを分散するプリズムの性質をもつ。ところが運動エネルギーはイオンの質量と速度の2乗の積の半分であるから、電場Eは質量と速度を分散するプリズムとなっている。

 磁場Bはローレンツの力(磁場と、イオンの運動方向の両方に垂直に働く力)によってイオンの軌道を曲げ、軌道半径は運動量に比例している。運動量はイオンの質量と速度の積であるから、磁場Bも質量と速度の両者を分散するプリズムであるが、分散性は電場のものとは異なる。そこで電場Eと磁場Bの分散が逆符号となるよう電場と磁場をのように配置し、それらの速度分散を相殺させる条件で偏向角と軌道半径を選べば、質量分散だけ残すことができる。つまり、イオン源内部でのイオン生成と加速の際に生じたイオン速度の大きさと方向の不ぞろいにまったく無関係に、イオンを各質量ごとに分離して結像させることができる。しかし焦点線上の像には光学機器と同様に収差が生ずる場合が多く、質量分解能の向上を妨げる。1960年代からはの基本型に多重極の電場、磁場の一つ、あるいは両者を追加し、それらの強さをオンライン制御して収差を減らすことによって、高分解能と高収集率でイオンを測る分析器が開発されている。1970年代に日本における複合多重極磁場制御の発明で無収差の荷電粒子分析器が実現し、国際的にも最高性能で稼動している。質量分析器に導入した場合は2桁(けた)程度、分解能が向上する可能性がある。以上は正統的な型についての説明であって、通常、高分解能質量分析器といえばこれをさす。

 ほかに、高エネルギー核反応で反跳を受けて放出される標的原子やその破砕片などの観測のための反跳核質量分析器がある。これは、イオン源が不要であるかわりに、イオン収集立体角が通常のものより2、3桁大きく、収差に対する配慮がとくに重要である。また静電場Eを省略するかわりに、イオンの速度スペクトルを飛行時間法により分析し、磁場Bで得られる運動量スペクトルと組み合わせて多重データ処理して広質量範囲のスペクトルを得る方式もあるが、分解能に関する限りいずれも基本型よりはるかに劣る。

[池上栄胤]


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百科事典マイペディア 「質量分析器」の意味・わかりやすい解説

質量分析器【しつりょうぶんせきき】

イオンの質量を測定する装置。イオン流に直角に磁場を作用させると,イオンは電荷に比例する力を進行方向に直角に受け円軌道を描くが,質量が大きいほど円軌道の半径が大きくなる。これを利用して電荷e対質量mの比の異なるイオンを分離する。しかしイオンが磁場から受ける力はイオンの速度にも比例するので,e/mは同じでも速度が異なれば同一円軌道を描かない。このため,1912年J.J.トムソンが考案した最初の装置では,イオン流に電場と磁場を一緒に作用させてe/mが同じイオンが一つの放物線上にのるようにして,写真に撮影した。以後種々改良が加えられ,特に1930年代からe/mが同じで速度の異なるイオンを写真乾板上の1点に収束させる二重収束型が開発されて,0.001%程度の質量差も検出できるようになった。同位元素の質量の精密決定,原子核の質量欠損の測定等に用いられる。→質量分析計
→関連項目応用物理学質量スペクトル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「質量分析器」の意味・わかりやすい解説

質量分析器
しつりょうぶんせきき

質量分析計」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の質量分析器の言及

【化学】より

…質量分析装置は1919年F.W.アストンによって考案され,同位体の確認やその存在比と質量欠損の測定に利用された。1940年代には質量分析器は有機化合物とくに石油系炭化水素混合物の分析に利用されるようになった。イオン化法や検出手段の改善にともない,質量分析法が有機化学とくに天然物有機化学に占める比重が高まってきた。…

【質量分析法】より

…質量分析器を用いて,質量スペクトルを測定することにより,化合物の確認・同定,構造決定,検出等を行う分析法。質量分析法は,物理学,化学,生物学,地学等の基礎科学から,工学,農学,医学,薬学に及ぶきわめて広い分野で利用されている。…

※「質量分析器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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