後世に資産が残る公共事業などに使い道を限った建設国債とは違い、歳入不足を補うために発行する国債。財政法では本来認められていないが、税収だけでは財源が足りないため公債発行特例法によって発行している。税収が好調だったバブル期に一時、発行が見送られたが1998年度以降は大量発行が続く。新型コロナウイルス対策で膨らんだ2020年度の発行額は70兆円を超えている。
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国の一般会計のうち、歳入不足を補うために特例的に発行する国債。発行で調達した財源は社会保障費、人件費、事務費など毎年継続的に支出される経常・義務的経費にあてられる。インフラ整備(公共事業や、これに関連した出資・貸付金)の財源にあてる建設国債(建設公債)が後の世代に道路、橋、港湾、空港などの資産を残すのとは対照的に、赤字国債は後の世代に借金のみを残すため、両者は厳密に区別されている。第二次世界大戦時の野放図(のほうず)な国債発行が軍備拡張と戦後の激しいインフレーション(インフレ)を招いたとの反省から、戦後、政府が安易に国債を増発しないよう、財政法第4条第1項では国債発行を原則禁止し、第4条但書で建設国債の発行のみを認めている。つまり赤字国債は、財政法上、発行を認められておらず、発行には特例法制定を必要とする。このため赤字国債は特例国債ともよばれる。
第二次世界大戦後、日本では、石油ショックによる景気低迷で税収が大幅に落ち込んだ1975年(昭和50)に本格的に赤字国債(発行額2兆0905億円)を発行。以後、バブル経済で税収が増えた1991~1993年度(平成3年4月~6年3月)を除き、毎年発行を続けている。不況時や大災害時に発行額が膨らみ、リーマン・ショック後の2009年度(平成21)に36兆9440億円、東日本大震災後の2012年度に36兆円0360億円、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)拡大時の2020年度(令和2)に89兆9579億円を発行した。政府は毎年、1年限りの特例法を制定することで赤字国債発行に歯止めをかけてきたが、2012年に複数年度にまたがって発行可能な特例法(当初2013~2015年度の3年間)を制定し、その後5年間にまたがる特例法(2016~2020年度)や、その特例法の5年間延長(2021~2025年度)が決まり、財政規律が緩むとの批判がでている。赤字国債の発行は財政悪化の主因であり、政府は、国債抜きで歳出をまかなうプライマリーバランス(基礎的財政収支)均衡による財政健全化を掲げているが、その目標年次は繰り返し先送りされている。
[矢野 武 2021年8月20日]
(新藤宗幸 千葉大学法経学部教授 / 2007年)
(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)
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…〈赤字〉とは経常収入が歳出をまかなうのに不足する状況であるから,公債(国債)はすべて赤字公債(赤字国債)といってよい。しかし,日本では,公債を赤字公債と建設公債とに分け,赤字公債に独特の意味をもたせている。…
…さらに42年の改正日本銀行法によって銀行券の名称は日本銀行券(日銀券)に改められ,また最高発行額屈伸制限制度が恒久的制度と定められた。 1932年以降,赤字国債が毎年発行され,日本銀行がこれを直接引き受けたため,戦時中は日本銀行券は実質的には不換紙幣となったともいえる。戦後の49年度以降,均衡財政が堅持されたが,65年度以降,国債が発行された。…
…戦時中の起債計画は廃止され,国債発行はGHQの許可制となった。1947年制定の財政法は赤字国債の発行,日銀の国債引受けを禁止した。もっとも敗戦後,大蔵省証券,食糧証券など政府短期証券(準国債)は日銀引受けで発行されているが,47年以降64年まで長期国債は姿を消すのである。…
…国家が総力をあげて戦争を遂行する際には,インフレーションが発生するための好条件がそろうことになる。第1に,戦費は経常的な税収に比して巨額であり,大部分は赤字国債(赤字公債)の増発により調達される。この結果,一方では総需要が無制限に拡大してインフレ・ギャップを生む可能性が強い。…
※「赤字国債」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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