日本大百科全書(ニッポニカ) 「転位(有機化学反応)」の意味・わかりやすい解説
転位(有機化学反応)
てんい
rearrangement
有機化学反応の過程を構造変化の特徴で分類するときの一形式で、原子または基の結合位置の移動を伴うものをいう。
有機反応の多くは、置換、付加、脱離など反応中心で予期した構造変化をおこすが、転位反応では、反応中心から離れた位置に結合していた原子または基が反応中心に移動するのが特徴である。
この場合、機構的には、反応中間体の三価の炭素原子が陽イオンであれば、Rは結合電子対とともに転位し求核転位といい、ラジカルであればRは不対電子とともに転位しラジカル転位、陰イオンであればRは結合電子対を転位原点に残して転位し親(しん)電子転位という。このように分子内で転位がおこるのが分子内転位反応で、狭義にはこれを転位という。しかし、分子内か分子間かは機構を明らかにしないとわからないから、広義には分子間も含まれる。脱離と付加を繰り返せば結果として分子間転位したことになり、これを偽(ぎ)転位という。ピナコール転位は分子内求核転位の典型的な例である。ピナコール転位のほか、化合物名のつけられたベンジジン転位や、発見者にちなんだベックマン転位、クライゼン転位など数多くの転位が知られている。転位の出発物と生成物とが異性体の関係にあれば異性化反応という。なお、ワルデン反転のようなものも転位の一つの場合である。
[湯川泰秀]