転換社債(読み)テンカンシャサイ(英語表記)convertible bond

翻訳|convertible bond

デジタル大辞泉 「転換社債」の意味・読み・例文・類語

てんかん‐しゃさい〔テンクワン‐〕【転換社債】

社債所有者の意思により、一定条件のもとで社債発行会社の株式に換えることができる社債。平成14年(2002)商法改正で転換社債型新株予約権付社債に名称変更。→シー‐ビー(CB)新株予約権付社債

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精選版 日本国語大辞典 「転換社債」の意味・読み・例文・類語

てんかん‐しゃさい テンクヮン‥【転換社債】

〘名〙 所有者の請求に基づき、ある一定の条件のもとにその会社の株式へ転換する権利を与えられている社債。
※商法(1899)三四一条の二「会社は転換社債を発行することを得」

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改訂新版 世界大百科事典 「転換社債」の意味・わかりやすい解説

転換社債 (てんかんしゃさい)
convertible bond

社債権者の請求により,一定期間内に一定の条件(転換条件)でその会社の発行する株式に転換する権利を与えられている社債のことで,CBともいう。投資家にとっては,株式への転換権を行使するまでは社債としての確定利息を得,転換後は株主としての利益を享受することができる。一方,発行者にとっても,社債よりクーポン・レート(表面利率)が低く,増資に比べ配当負担の発生を分割できるなど低コストで長期安定資金を調達できるメリットがある。転換社債と似た社債に,1981年10月の商法改正で規定が設けられた新株引受権付社債(ワラント付社債とも呼ばれる。〈株式買取権付社債〉の項参照)がある。これと転換社債とのおもな相違は,後者が転換によって社債が消滅するのに対して,前者は社債の存続と並行して株式の引受けを認めている点にある。転換社債が最初に発行されたのはアメリカで,1843年に鉄道会社が発行している。日本においては,1938年の商法改正で資金調達手段として制度化された。実際には,48年に大和証券縁故募集で,49年に高島屋と土佐電気鉄道が公募形式で発行した。これらはいずれも額面転換社債であった。現在一般に発行されている時価転換社債(時価転と略す)は,62年9月に日立製作所がアメリカ市場でドル建てで発行したのが最初であり,国内では66年9月に日本通運が初めて発行した。

転換社債発行に当たっては,発行会社と引受幹事証券が相談し,受託会社の賛同も得て個別の協議で発行額や発行条件を決定する。現在,転換社債の発行・消化が円滑にいき,転換社債市場が着実に発展するために,上場会社の転換社債発行に当たっては一定のルールを設けている。日本では長らく担保付転換社債しか発行されていなかったが,73年1月から無担保転換社債が発行されるようになった。ただ,この場合には受託会社との特約条項として特定資産に関する担保留保がついていた。完全無担保転換社債は79年2月に発行ルールが作られ,同年4月に松下電器産業が初めて発行した。

転換請求は,転換社債権者が請求書に転換社債券を添えて発行会社に提出することを要する(商法341条ノ5)。転換を請求しうる期間は発行時に取締役会で決定され,その期間内であれば,名義書換停止中でも転換できる(ただし,議決権は有しない)。現在では通常発行後2~3ヵ月間の据置期間を設け,その後償還期限の数日前までとなっている。株式へは転換価額で転換される。転換価額とは,株式1株の転換に必要な転換社債の額面金額のことである。転換価額の決め方には,額面転換方式と時価転換方式とがある。現在,公募発行されている転換社債は時価転換方式であり,基準株価(通常,価額決定日に先立つ6取引日の終値の平均値)より若干上回る水準で決定されている。転換価額と株価との関係から転換社債の相場が理論的に算定される。転換社債の理論価格(パリティ価格)と呼ばれるのがそれで,(株価)÷(転換価額)×100で求められる。パリティ価格が100円より上,つまり株価が転換価額を上回っている場合には,流通市場で鞘取り商い(市場価格がパリティ価格を下回っている場合には,転換社債を取得し,株式転換後売却する)が活発となるため,市場価格はパリティ価格にほぼ連動して動くことになる。
執筆者:

転換社債の発行,利払い,償還などの会計処理は普通社債と変りない。しかし,転換期間中に転換が請求され株式が交付されると,転換社債の減少および資本の部の増加という特有の会計処理が行われる。ただし,額面転換社債の場合には資本の部の増加の全額が資本金に計上されるのに対して,時価転換社債の場合には資本金と資本準備金とに分割して計上される。なお,資本準備金への組入額は転換社債発行時に決められていなければならない(商法341条ノ2)。新株に対する権利を有するという意味で転換社債と類似の社債に新株引受権付社債があるが,会計処理のうえで次の相違がある。つまり,権利の行使により,前者では社債残高が減少しそれと同額の新株発行が計上されるのに対して,後者では社債残高には変化がなく新株の発行のみが計上される。
執筆者:

転換社債の発行は実質的には株式の条件付発行であるから,通常の新株発行に準ずる発行手続がとられる。すなわち,原則として取締役会の決議で,転換社債の総額,転換の条件,転換によって発行すべき株式の内容,転換期間などを定めて発行する(商法341条ノ2-2項1~6号)。転換の条件とは,転換される社債とこれに対して与えられる株式の割合をいい,転換価額で定められるのが通常である。転換社債発行時の株式時価を基準とする公正な転換価額であるとき(時価転換社債の公募),および転換価額がとくに有利であっても株主に転換社債の引受権を与えて発行するとき(株主割当)は,取締役会の決議で足りるが,とくに有利な転換価額を定めて株主以外の第三者に発行するとき(第三者に対する有利発行)は,株主の利益を保護するため,別に株主総会特別決議を必要とする(341条ノ2-2項6,7号,3項)。

 株式への転換は転換社債権者の請求によってなされ,請求は転換期間内はいつでもできる。請求のあったときに転換の効力を生じ,社債権者は株主となるが,利益・利息の配当については,定款により,請求のあったときの営業年度または前営業年度の終りに転換があったものとみなすことができ,また株主名簿閉鎖期間中に請求がなされたときは,その期間中は新株主は議決権を有しないものとして(341条ノ7,222条ノ6,341条ノ6),会社の事務処理上の便宜が図られている。転換権が行使されると新株が発行されるので,転換期間内は転換によって発行すべき株式の数を未発行授権株式として留保することを要し,また転換の効力発生により,会社の社債はそれだけ減少し,発行済株式総数と資本が増加するから,変更登記を必要とする(341条ノ7,222条ノ2-2項,222条ノ7)。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「転換社債」の意味・わかりやすい解説

転換社債
てんかんしゃさい

2005年(平成17)会社法制定がなされる前に用いられていた名称で、発行会社の株式に転換することができる権利(転換権)が与えられている社債。転換権を行使すると、転換社債はその保有する社債が消滅し、株式のみが残る。よって転換社債権者は転換権行使により株主となる。投資家は、転換権を行使するまでは社債権者として安定したキャッシュ・フローを確保することができ、仮に会社の業績があがれば転換権を行使して株主となり、向上した業績に与(あずか)ることができ、社債と株式のうまみを両方使って投資家を募ることを容易にする。2005年の会社法制定後は、株式性を有する社債権を新株予約権付社債と総称し(会社法2条22号)、とくに、新株予約権を行使する際に、社債を償還して新株予約権の払込みにあててその結果権利者の手元には社債が残らないものがこの転換社債にあたるものとした。なお、証券市場や新聞の証券欄では転換社債型新株予約権付社債とよばれている。

[戸田修三・福原紀彦]

『証券取引法研究会編『別冊商事法務266 転換社債型新株予約権付社債の理論と実務』(2003・商事法務)』

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百科事典マイペディア 「転換社債」の意味・わかりやすい解説

転換社債【てんかんしゃさい】

一定の期間内に決められた値段(転換価格)を払えば,いつでも株式に転換することができる社債で,会社法上は新株予約権付社債という。略称CB。株式の額面価格で転換できる額面転換社債もあるが,株式の時価より若干高い転換価格で転換する時価転換社債がほとんどである。株価が転換価格を上回る時に株式に換えれば利益が得られる。また発行会社は,株価が上がれば株式に転換されるに従って資本充実が図れるというメリットがある。また株式に転換しない場合は社債として償還される。社債の安全性と株式の投機性を兼備している。なお,ワラント社債と異なり,転換社債は株式に転換すると社債は消滅する。
→関連項目エクイティ・ファイナンス中小企業投資育成会社パリティ価格劣後ローン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「転換社債」の意味・わかりやすい解説

転換社債
てんかんしゃさい
convertible bond

社債発行会社の株式に転換しうる権利(転換権)を付与された社債。英語の頭文字をとり「CB」ともいう。社債に投資の安定性と投機性を与えて募集を容易にする目的で認められた制度。潜在的な株式ともいえる。2001年の商法改正により,分離型の新株引受権付社債とともに新株予約権付社債に統一された。改正以前に発行された転換社債は「転換社債型新株予約権付社債」と呼ばれる。会社が転換社債を発行するには,定款,または株主総会の特別決議をもって,転換の条件,転換によって発行すべき新株の内容および転換を請求しうべき期間を定めることを要し,また,定款に定めのある数種の株式のうち,転換によって発行すべき株式の数は,上記期間内これを留保する必要があった。

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株式公開用語辞典 「転換社債」の解説

転換社債

別名、転換社債型新株予約権付社債やCB(Convertible Bond)とも言う。CBは、所有者が一定期間内に発行企業に対し、請求すれば、あらかじめ定められた条件で、その発行企業の株式に転換することができる社債である。これに対して、一般の社債のことを普通社債という。所有者は、株式に転換すれば、株価の上昇による利益を得ることが期待できる。また、社債のまま保有し続けると、利付債券として、定期的に利子を受取ることができるほか、償還日には額面金額が払い戻される。CBは、いままで「転換社債」と呼ばれていたが、商法が改正され、平成14年4月1日以降、新たに発行されるCBのことを「転換社債型新株予約権付社債」と呼ぶようになった。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「転換社債」の解説

転換社債

有価証券の一種。社債として発行されるが、一定の期間を過ぎると所有者の請求、転換価格の支払いで株式に変更が可能。投資家にとっては株価の上昇を予測していつでも株式に変更できる点で利便性が高い。一方、企業にとっては株価の上下によって、株式変更後の負債額が変動するのでハイリスク・ハイリターンである。そのため普通社債に比べて利息は低めに設定されている。2002年4月の商法改正で、転換社債は新株引受権付社債と共に新株予約権付社債へと一本化された。だが両者の内容は異なるので、従来の転換社債は転換社債型新株予約権付社債、従来の新株引受権付社債は新株予約権付社債と呼ばれ、区別される場合が多い。

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会計用語キーワード辞典 「転換社債」の解説

転換社債

社債に新株予約権が付された形で発行される債券で、言い換えれば発行会社の株式に転換する権利が認められた社債のことです。正式名称は「転換社債型新株予約権付社債」。

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世界大百科事典(旧版)内の転換社債の言及

【時価発行】より

…時価発行増資の件数はしだいに増え,72年,73年には時価発行ブームが現出,74年,75年には若干の減少をみたが,76年以降再び盛んとなり,制度として時価発行増資が完全に定着している。時価発行の一形態としての時価転換社債(転換社債)を含めて,81年度には企業の資本市場を通ずる資金調達のうち62.6%が時価発行によるものであった。82年10月からは無額面思想をいっそう強く打ち出した改正商法が施行され,時価発行増資制度の発達をいっそう促進している。…

【新株発行】より

…合併には,株主総会の特別決議を要する(408条)。(3)転換株式の転換,転換社債の転換,新株引受権付社債(〈株式買取権付社債〉の項参照)の新株引受権の行使,新株引受権を付与された取締役・使用人(1997年改正商法280条ノ19の定めるストック・オプション制度に基づく)の新株引受権の行使 それぞれ,転換株主,転換社債権者,新株引受権付社債権者,取締役・使用人に新株が発行される(222条ノ6,341条ノ7‐2項,341条ノ17,280条ノ22‐3項)。ただし,新株引受権行使には払込みが必要である。…

※「転換社債」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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