迂回生産(読み)ウカイセイサン(その他表記)roundabout production

デジタル大辞泉 「迂回生産」の意味・読み・例文・類語

うかい‐せいさん〔ウクワイ‐〕【×迂回生産】

まず道具機械などの生産手段を生産してから、それを使用して消費財を生産する方法

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精選版 日本国語大辞典 「迂回生産」の意味・読み・例文・類語

うかい‐せいさんウクヮイ‥【迂回生産】

  1. 〘 名詞 〙 経済学用語。素手で魚をとるように、労働という本源的生産要素のみで行なう直接的生産と対照的に、機械・工場設備などの生産された生産手段を用いて行なう生産の形態。

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改訂新版 世界大百科事典 「迂回生産」の意味・わかりやすい解説

迂回生産 (うかいせいさん)
roundabout production

多くの産業において生産を行う場合,最終消費財をすぐさま直接得るのではなく,多量の資本投下して,かなりの生産時間をかけて回り道をしながら生産をしていくのが一般的である。この方法を迂回生産と呼び,経済学における資本理論にとって一つの重要な鍵概念となる。W.ロッシャーは有名な漁師の例を用いて,この迂回生産の本質を説明している。漁師が素手では毎日3匹しか魚をつかまえられなかったが(資本なしの生産),舟や網などの資本財を用いると毎日30匹も捕獲できるようになった。網を作り,舟を準備するには,時間とその生産期間中の食糧供給が必要であるが,生産(獲物)の量は10倍になる。ベーム・バウェルクは,この迂回生産の考えを賃金基金に結びつけて,資本理論を組み立てようとした。すなわち,この漁労経済の例でいうと,漁師が網を編み終えるまで食べていけるように経済全体が蓄積している財貨が,網の製作者のための食糧であり賃金基金をなすとみるのである。市場経済も,複雑ではあるが原理的には似たような生産構造が支配している。消費財と生産財が種々異なった完成段階で存在し,おのおのの段階の中間生産物が最終生産物に向けて生産過程を通り過ぎていく。いま,全生産過程は5年の歳月を要し,1年ごとに各段階を移動すると仮定する。そして,生産開始の時期が1期(1年)ずつずれているとする。この場合,ベーム・バウェルクによると,衣食住の供給ストックとしてはこの迂回生産がスタートする時点での全賃金基金を必要とするわけではない。あと5年働く労働者には5年分,4年働く労働者には4年分というように計算すると,この迂回生産過程全体では5年分の労働者の食糧ではなく,3年分で足りることになる((5+4+3+2+1)/5)。このような迂回生産の期間と賃金基金との関係は決して固定的なものではなく,他の経済条件(食糧のストック,生産者数,種々の迂回生産の方法の生産性,消費貸借の量,人々の経済的気質など)に依存する。このような,迂回生産を中心に展開される資本理論の妥当性については,いまだ決着がついたとはいいがたく,オーストリア学派内部でも見解相違がある。
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百科事典マイペディア 「迂回生産」の意味・わかりやすい解説

迂回生産【うかいせいさん】

本源的生産要素(労働力,土地)をすべて生活資料の生産に用いず,一部を中間的な生産手段の生産に使用し,次にこの生産財を用いて最終的な消費財の生産の増加を図る方法。ロッシャーの比喩として,〈毎日3匹の魚しか獲れない手づかみのやり方(資本なしの生産)に対し,舟と網のような資本財を漁師が用意すれば毎日30匹の漁獲が得られる。網や舟を用意するには,そのための時間と食糧の投下が必要であるが生産(漁獲)の量は10倍となる〉というものがある。発展した資本主義経済では,すべての生産が長期的な迂回生産の形をとっている。生産迂回の程度を表示するためにベーム・バウェルクは平均生産期間という概念を用い,ハイエクは最終消費財と中間生産物の比を用いている。
→関連項目工業資本

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「迂回生産」の意味・わかりやすい解説

迂回生産
うかいせいさん
round-about production

手で魚をとるよりも、網や漁船をまずつくってから魚をとるほうがはるかに収穫があがる。このように、初めから消費財を生産せず、それをつくるための道具、機械、工場設備などの生産手段をつくる迂回をしてから消費財を生産したほうが、一見よけいな手間と時間を費やすようにみえても、結局生産物が多く得られる。このような生産方法を迂回生産という。

 迂回生産による生産物の増分すなわち迂回生産の利益は、利子の存在理由の一つを説明する。いま生産手段(資本)がなくて労働だけで100の生産物を得ていたとする。そこから20を貯蓄(蓄積)して資本を得ると、10の生産物増加になるとすれば、10が迂回生産の利益であり、利子の源泉がそこにみいだせる。かくて、資本の利潤率と利子率とが等しいとき、迂回生産の度合いが決まる。これがベーム・バベルクやハイエクのオーストリア学派による生産構造論であったが、最近、ケインズの貨幣的利子論に対するマネタリズムの批判のなかで、見直されつつある。

[一杉哲也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「迂回生産」の意味・わかりやすい解説

迂回生産
うかいせいさん
roundabout method of production

土地や労働などの本源的生産要素のすべてを最終的な目的である消費財の生産に直接使わず,その一部を生産財の生産にいわば迂回的に使用し,次にこの生産財を用いて消費財を結果的にはより能率的に増産させる生産方法。ドイツの経済学者 W.ロッシャーは,素手で1日3尾の魚をとる漁師がそのうち2尾を1日の食糧とすると,100日経過すれば 100尾のストックができ,それによって 50日間自己の全労働を網と小舟造りに費やすことができ,これらの道具を使用することによって1日 30尾の魚がとれるようになるという寓話でその原理を説明した。オーストリアの経済学者 E.ベーム=バウェルクは,迂回生産によって可能となる収穫の増加分または改善を「迂回生産の剰余収益性」と呼び,資本の物的生産性の本質と考えた。 (→時差説 )

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世界大百科事典(旧版)内の迂回生産の言及

【生産】より


[生産の技術過程]
 生命を維持し再生産していくために,また社会生活を営んでいくために人間は生産活動を行わなければならないが,当然のこととしてこの生産は自然に働きかけて資源を採取しそれを変形する技術過程としての側面をもっている。生産力の発展は技術過程の改良に負うところが大きく,なかでも科学・技術の生産への応用といわゆる迂回生産の進展は物的生産力を飛躍的に高めた。科学・技術の発展が生産力の向上に寄与することは自明であるが,歴史上とりわけ重要なのは18世紀の蒸気機関の発明とそれに続く一連の動力革命である。…

※「迂回生産」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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