物体が、それに触れている媒質(または場)から受ける力。力の大きさと向きは(ある時刻・場所における)物体の媒質(または場)の状態のみにより決まり、離れた点の状況には無関係である。もちろん、時間がたてば離れた点の状況も物体の位置にまで伝播(でんぱ)して物体に影響を与えることがある。思弁的には、近接作用論はデカルトの『宇宙論』(1644)に始まる。デカルトは、宇宙は至る所微細な粒子の渦(うず)運動で満たされているとし、それによって天体は押し動かされるのであると想像した。ニュートンは彼自身の力学に基づいてこれに反対した。R・フックが光を媒質の振動と考え、その媒質をエーテルとよんだとき(1670前後)、ニュートンは全面的にはそれに反対していない。
実験からの示唆で近接作用を考えた最初の人はファラデーであろう。彼は、1831年に電磁誘導を発見し、そのとき針金の構成粒子は「電気的緊張状態」にあると考えた。翌年には電気分解を溶液内部における分極の伝播として描像し、1837年には、それになぞらえて静電誘導を考えた。その証拠として、帯電した絶縁体による近くの小球への静電誘導作用が、両者の間に置いた金属板などに影響されて、曲がって伝わる実験を示した。彼は、空間には(たとえ物質がなくても)微細な粒子が満ちていて、それが次々に分極して静電誘導の力を伝えていくものと考え、その分極を連ねた線を電気力線(りきせん)とよんだ。この考えを磁気現象にまで広げて、磁力線に思い至るのは1845年である。力線の考えはJ・C・マクスウェルが1856年から数年かけて数式化し、電磁場の理論をたてた。彼がエーテルと名づけた電磁場の媒質論は、相対性理論(1905)の成立とともにすたれるが、場を介する近接作用の考え方はむしろ必須(ひっす)のものとなった。今日の物理学は基本的にはすべて、真空が場を担い、作用を伝えるという立場で構成されている。
[江沢 洋]
『江沢洋著『現代物理学』(1996・朝倉書店)』
物体間に働く力が中間にある媒質の物理的変化を通じて(有限の速さで)伝達されると考えたとき,これを近接作用という。力がいつも近接した部分から働くとしているからである。弾性体内の応力は各点でのひずみを通じて順次隣り合った部分に伝わっていくからまさに近接作用である。M.ファラデーは二つの帯電した物体の間のクーロン力も,帯電体の間の空間に充満した電気力管が引っ張られた(または押し合った)ゴムのような状態にあるため生ずると考えた。彼はこのような立場から電場,磁場,力線などの概念,すなわち場の考え方を導入し,それまで遠隔作用と考えられていた電磁気力を場を通じた近接作用によるものとして説明した。これによればコイルによる磁場と棒磁石による磁場とが同一なら磁極に対しまったく同じ作用をもつことも当然と考えられるし,電磁誘導も磁力線がコイルを切ることによって生ずるのだとして受け入れることができる。このような考え方がJ.C.マクスウェルによって数学的形式を与えられ,電磁波の存在の予言および検証に導いた。現在では電場,磁場という場は単に便宜上のものでなく実際その場所の状態(そこが真空であろうとそこに物質があろうと)を表す物理的実在と考えられている。なお,A.アインシュタインによって否定されるまでは電磁場の担い手,つまり媒質としてエーテルの存在が仮定されてきたが,これも現在の考えでは真空そのものの役割に帰せられ(いいかえると電磁場を担うことがもともと真空の性質だと考えられ)ている。なお,20世紀に入るまで遠隔作用と考えられていた万有引力ですら,今日では一般相対性理論によって近接作用として扱われるようになった。
→遠隔作用
執筆者:田辺 行人
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…クーロン力は見方をかえて,一方の電荷,例えばq′がそのまわりに電場をつくり,他方の電荷qはその位置における電場EからqEの力を受けるのだと考えることもできる。荷電粒子に働く力はこのように場を通じて働く近接作用であると考えるのが自然である。電荷qが磁場(磁束密度B)中を速度vで運動しているときは磁場からも力を受ける。…
…以下,まず静電場の説明から始めよう。
[遠隔作用と近接作用]
原点Oにある点状の電荷Qが,距離rだけ離れた点P(x,y,z)に作る電場E(P)は,大きさがkQ/r2(kは比例定数)で,Q>0ならばOからPを向き,Q<0ならばPからOを向くベクトルである。点Pに,もう一つの電荷Q′をおくと,F=Q′Eという力を受ける。…
※「近接作用」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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