改訂新版 世界大百科事典 「連邦制」の意味・わかりやすい解説
連邦制 (れんぽうせい)
federal system
federal state
国家の結合様式を示す概念であり,統一的な主権の下に中央(連邦)政府と州(支邦)政府が明確に権限を分かち,国民国家を形成している場合をいう。したがって,連邦制国家は単一国家とも,イギリス連邦さらにはヨーロッパ連合(EU)にみる国家連合confederationとも異なる。単一国家の地方政府権限は,中央政府が授権ないし委任した事項に限られ,国家連合では構成国家の主権はあくまで最高のものとして個々の国家に留保されつつ,共通利害にかかる意思決定機関が設置される。連邦制国家では,中央政府たる連邦政府の権能は,連邦憲法の制定を通じて州が授権したものに限定される。この範囲内において連邦政府は直接に人民を拘束し義務を課すことができるが,それ以外は州政府固有の権能に属する。したがって,連邦政府がその権能の遂行のために立法,司法,行政権をもつのはいうまでもないが,州政府も独自の憲法の下に立法,司法,行政権をもち,州ごとに人民の権利義務関係,司法制度,税財政制度,地方制度が異なることも珍しくない。
こうした法的構造をもつ連邦国家は,スイス,カナダ,オーストリアなど,今日数多く存在するが,近代連邦制国家の原型はアメリカ合衆国に見いだされている。アメリカでは,1776年の大陸会議により独立宣言が起草・公布され,このときに13のイギリスの植民地がそれぞれ主権国家として独立を宣言した。77年,これら13の国家は連合規約articles of confederationを締結し,アメリカ合衆国The United States of Americaと称した。その後,87年に連邦憲法を制定し連邦制国家へと発展した。この過程は,民族,言語,宗教などの共通性を前提として,外敵に対する共同利害から結成された国家連合が,その利害を追求する中でよりいっそうの政治的統合を果たしたものとみることができる。19世紀ドイツでも,領主国家の伝統と民族的共通性を前提に,国民経済の発展を機に連邦制を採用するに至った。旧ソ連,旧ユーゴスラビアなどの社会主義諸国にも連邦制を採る国が多かった。これらは,社会主義建設の共同利害と民族自決のイデオロギーを調和させることを目的としていた。
いずれにせよ,連邦制なる国家の結合様式は,三権分立なる政治権力の抑制均衡に加え,地域的に高度の政治権力を保障することにより,権力対自由の緊張関係を,国家全体にわたって維持していこうとするものとみることができる。アメリカ連邦憲法は,この政治思想をもっともよく反映する。連邦憲法構造は,厳格な三権分立と連邦主義federalism(州権の保障)を原理とする。だが,こうした政治思想と憲法原理は,ときどきの政治状況によって州権の絶対性の主張に結びつき,他方で,政治的統合の強化と憲法原理の弾力的解釈の要請を台頭させる。
中央集権の進行
主権国家が連合しやがて政治的統合をみた連邦制では,連邦政府職能は,元来,外交,軍事,通商,通信,通貨,交通など国家全体での統一性を必要とするものに限定され,治安,教育,福祉などは州の権限とされた。これは,1789年にアメリカ連邦政府行政が,国務,財務,軍事の3省から構成されたことに端的に物語られている。
だが,その後の社会経済発展は,好むと好まざるとに関係なく,連邦政府職能を拡大する。この過程では,まず上記の直接的連邦職能が複雑化し高度化する。たとえば,当初,統一的な貨幣管理から発した通貨行政は,市場の発展と経済恐慌を前にして,金融財政政策による経済の統御と計画化へと変容する。軍事機能は,国家間の緊張が増すにつれて大規模かつ高度の兵器開発と装備を課題とし,物資や精神の動員に向かう。さらに,従来,州の固有の権限とされた教育,福祉にも,全国的かつ統一的なサービス供給が求められ,しだいに連邦政府職能に加えられていった。こうした傾向は,1930年代の大恐慌期を契機に第2次大戦後に一段と顕著である。今日,アメリカでは,国民所得計算に基づく州政府固有収入と連邦補助金の割合は100:40にも及んでいる。こうした連邦政府職能の拡大は,憲法構造をも揺るがすことになる。しかし,アメリカでは憲法の修正よりは,裁判所の弾力的法解釈や判例の積重ねが連邦政府職能の拡大に正統性を付与してきた。これは,憲法を〈進歩的〉とする政治思想の影響である。
第2次大戦後に出発した西ドイツのボン基本法(連邦憲法)は,この点で暗示的である。それは連邦政府権限を外交,国防,通信,統計など11項目に明文上限定したが,同時に連邦憲法や連邦法は,同一の対象事項を規定する限りにおいて,州憲法と州法に優越するとしている(ボン基本法13条)。この規定は,中央政府としての連邦政府の職能が,高度工業社会において拡大せざるをえないことを,法的に保障したものといえよう。
現代連邦制と分権化
ところで,連邦政府への権力集中は,連邦行政機構を肥大化させる。連邦行政省庁の決定法制のあり方にもよるが,この過程は一般に行政機構の断片化と分散化をともなう。しかも,連邦省庁は巨大圧力集団と結びつくことにより,人民の代表機構たる大統領から遠心的傾向を強める。これは,とりもなおさず連邦官僚制への権力集中を招来し,かつ州ないし地方政府官僚制との結びつきが深まっている。権力対自由の緊張関係は,全国的な官僚制支配によって新たな挑戦を受けることになる。現代連邦制では,人民の代表機構たる政権は,たえず連邦行政機構に対するリーダーシップの確立に腐心する。アメリカのウォーターゲート事件は,連邦官僚制の権力に対抗し大統領府が密室政治を深めた所産であったろう。だが,いずれにせよ連邦政府への権限の集中は,権力の統御を人民から遠いものとする。1970年代以降,人民の参加デモクラシーの要請を受けて,連邦制国家は,いずれも分権化を一大政治課題としている。
執筆者:新藤 宗幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報