気体の圧力、溶液での濃度などが、その温度に相当した飽和値以上になっても、過剰量が別の相として分離していない状態をさす。このような準安定状態になんらかの刺激が加わると、突如として安定状態に移行するので、過剰の液体、または固体の析出がおこり、かなりの熱エネルギーの放出がおこる。実験室などでよくつくられるのはチオ硫酸ナトリウムの過飽和水溶液である。市販のハイポ(チオ硫酸ナトリウムの五水和物)を加熱すると、やがて結晶水の中に溶解してしまい、きわめて濃厚な溶液ができる。これを静かに室温に冷却しても、結晶の析出はない。つまり典型的な過飽和溶液がつくられるのである。これに結晶のかけらを投入すると、これが核となってただちに結晶が生成し、著しい量の熱を発生することがわかる。冷却した空気の中の水蒸気も過飽和になりやすく、高山の樹氷(霧氷)の生成もこれが原因で、樹枝の先端部が氷晶の核となって風上方向に成長がおこる。
溶液から結晶を生成させるときに、器壁をこすったり振動を与えたりするのは、過飽和となることをできるだけ回避するためである。準安定状態から安定状態へ移行させるための刺激を与えることに相当している。
[山崎 昶]
空気中の水蒸気圧が飽和水蒸気圧より大きくなっても凝結をおこさない状態をいう。大気中での凝結と飽和状態との関係は複雑で、未飽和で凝結がおこることもあれば、過飽和でなければ凝結がおこらないこともある。大気中には凝結核となる塵埃(じんあい)や塩類などの微粒子が多く含まれているので、イオンや水分子のみを凝結核とする場合のような著しい過飽和になることはないと考えてよい。
[股野宏志]
一般に,ある量が飽和状態よりも多く存在する状態をいう。過飽和の状態は不安定(準安定)であり,安定な平衡状態ではない。ある温度やある圧力のもとで,ある液体(溶媒)に,ある物質がどれだけ溶けるかに注目したり,また,ある温度のもとで,ある液体の蒸気圧がどれだけかを論ずるとき,それらの物質の飽和の濃度(溶解度)や飽和の圧力(飽和蒸気圧)などといった,ある量(数値)の限度を示す必要が生じてくる。しかし,この限度を示す量が必ずしも最大の値であるとは限らず,一時的に,この限度以上に物質が存在する場合もありうる。たとえばチオ硫酸ナトリウム5水和物Na2S2O3・5H2O(融点48.2℃)を容器に入れ80℃くらいまで加熱して完全に溶かしたのち,ほこりなどが入らないように注意して室温まで放冷すると,溶液の温度が融点以下になっても結晶は析出してこない(このような状態を過冷却と呼ぶ)。Na2S2O3の水に対する溶解度は温度が高いほど大きいので,上記の過冷却の状態にある溶液中のNa2S2O3は水に対して過飽和となっている。この過飽和溶液にNa2S2O3・5H2Oの小さな結晶を核として入れると,その核のまわりに結晶が急激に成長してくる。そして溶液の温度は48.2℃まで上昇し,過飽和の状態は解消し平衡に達する。
執筆者:橋谷 卓成
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
蒸気の圧力,溶液の濃度などが,その温度に相当する飽和値以上になってもなお過剰量の分離を起こさずにいる状態.これは準安定状態であって,なんらかの刺激によってこの状態は破られ,蒸気の場合は液体を,溶液の場合は溶質を分離析出して安定状態に移行する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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