日本大百科全書(ニッポニカ) 「遠隔作用(物理)」の意味・わかりやすい解説
遠隔作用(物理)
えんかくさよう
互いに空間的に離れた二つの物体が及ぼし合う力で、それらの物体の同時刻における位置関係や速度で決まるもの。これに対して近接作用では、力は中間の媒質によって伝えられるので、同時刻には届かず、時間の遅れを伴う。物理学の歴史のうえで、遠隔作用がそれと意識して導入された最初はニュートンの万有引力である。万有引力は、太陽と地球のようにはるか離れた二つの物体の間にも働き、しかもそれら二つの物体の同時刻の位置関係で決まる。すなわち、任意の一時刻に地球に働く力は、その同じ時刻における太陽の位置までの距離で決まる大きさをもち(逆二乗法則)、その位置に向かう方向に働く。ニュートンのこの考えは、早くから近接作用を主張していたデカルトの考えを受け継ぐ人々から強い反対を受けた。太陽が、遠く離れている地球を、しかも、その刻々の位置を測ってそれに応じた力で引くなどということがどうして可能なのか。このことをニュートン自身も気にして「重力の諸性質の原因を発見することは私にはできなかった」と著書『プリンキピア』(1687)に述べている。1759年にエピヌスFranz Urich Theodsius Aepinus(1724―1802)は電気流体も距離を隔てて直接に力を及ぼし合うと主張し、遠隔作用の概念を重力から電気力に広げた。両者の同一性をいっそう強めたのが、電気力に関するC・A・クーロンの逆二乗法則の発見(1785)である。今日では、遠隔作用は相対性理論と両立しにくいと考えられ、場を介する近接作用で置き換えられる。
[江沢 洋]
『山本義隆著『重力と力学的世界』(1981・現代数学社)』▽『山本義隆著『磁力と重力の発見1~3』(2003・みすず書房)』▽『江沢洋著『現代物理学』(1996・朝倉書店)』