都江堰(読み)とこうえん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「都江堰」の意味・わかりやすい解説

都江堰
とこうえん / トゥーチヤンイエン

中国、四川(しせん)省中部の県級市。省都成都(せいと)の北西約50キロメートル、揚子江(ようすこう)支流岷江(びんこう)が邛崍(きょうらい)山脈から成都平原への出口に形成した扇状地の頂部にある。成都地級市に属する。人口67万1200(2014)。1988年旧灌(かん)県が市制を施行して都江堰市となった。紀元前3世紀中ごろ、李冰(りひょう)、李二郎(りじろう)親子が、岷江の水を利用した灌漑(かんがい)用水路網「都江堰」を開き、以後この地は四川地方の穀倉地帯となった。中華人民共和国成立後、用水路の補修、拡張により、岷江上流の洪水防止とともに灌漑面積を大きく増加させ、米、小麦、ナタネアブラナ)などを豊富に産出している。

 名勝として、道教聖地といわれる青城山(せいじょうさん)が有名。2000年、水路網の都江堰とともに「青城山と都江堰水利(灌漑)施設」として世界遺産の文化遺産に登録された(世界文化遺産)。青城山麓にはパンダ保護研究センターがあり、一帯の風景名勝区は世界自然遺産「四川ジャイアントパンダ保護区群」の構成資産の一つでもある。

[小野菊雄・編集部 2017年8月21日]

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改訂新版 世界大百科事典 「都江堰」の意味・わかりやすい解説

都江堰 (とこうえん)
Dū jiāng yàn

中国,四川省中部,都江堰市にある古代の水利施設。紀元前250年ころ秦国の蜀郡太守李冰(りひよう父子大衆を率いて建設したとの記録がある。岷江(みんこう)中流に〈魚の口〉とよぶ水流調節堤を設け,内江と外江に分流,内江は〈宝瓶口(ほうへいこう)〉を通り,多数の用水路に分けられ成都平原の耕地を灌漑,外江は岷江本流として洪水調節の役割を果たす。ためにこの地域は天府の沃野と称せられた。〈飛沙堰〉などの施設もあり,現在も利用されている。
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世界の観光地名がわかる事典 「都江堰」の解説

とこうえん【都江堰】

中国の四川省成都市にあり、成都平原一帯の灌漑(かんがい)用水を取り入れる施設。約2300年ほど前に、秦国蜀郡の太守であった李氏親子2人が民衆を集め、水利工事を行った。成都市北方の山岳地帯の入り口にあり、世界遺産にもなった景勝地で道教の聖地でもある青城山がある。国家歴史文化名城にも指定されている古い町だが、2008年の汶川大地震(四川大地震)では震源に近いため、大きな被害を受けた。

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世界大百科事典(旧版)内の都江堰の言及

【沱江】より

…全長655km。金堂県までの上流部では,秦代に開かれた岷江(みんこう)水系の都江堰(とこうえん)工事のあと,青白江などを集め,水利灌漑網が拡大,発展している。中・下流部では比高数十mの丘陵が起伏し,川は蛇行,水量も少ないが,古来,サトウキビやイネ栽培がすすんでいる。…

【治水】より

… 《史記》河渠書には,戦国時代の水利技術者として,蜀の李冰(りひよう),魏の西門豹(せいもんひよう),韓の鄭国(ていこく),前漢の汲黯(きゆうあん),鄭当時らの名が見える。前256年蜀の太守に任ぜられた李冰によって建設された都江堰(とこうえん)は,これらの古代水利工事のうちでもとくに著名である。四川省成都灌県の岷江(みんこう)に築かれ,人工的に山を切り開いた宝瓶口から岷江の河水を成都平原の灌県に導き入れるもので,川の中央に魚嘴(ぎよし)を築いて東側の支渠と西側の岷江本流とに二分するが,飛沙堰を設けて支渠に流入する水量を調節する措置が施され,灌漑と防洪の両面を具備した点に特色がある。…

【長江】より

…楚は国都郢(えい)付近で,長江と漢水とを結ぶ運河を開削した。また,秦は巴蜀を征服したが,蜀の郡守,李冰が成都の北西灌県で〈都江堰(とこうえん)〉を建設した。これは岷江を内江,外江に二分,内江をいくつかの用水路に分け,成都平原一帯の耕地を灌漑,外江は岷江本流として洪水調節の役割をもたせた画期的なものである。…

【李冰】より

…昭王(在位,前306‐前251)のとき蜀(四川省)の太守となり,岷江(みんこう)の治水事業にたずさわった。すなわち,成都の民を発して,灌県の北西の江中に都江堰(とこうえん)と呼ばれる堰堤を築いて流れを二分し,さらに水門を設けて水量の調節をはかった。この水利施設により付近一帯は洪水の害をまぬがれたばかりでなく,灌漑や航運に便利となり,蜀の地に計り知れぬ利益をもたらしたと伝えられる。…

※「都江堰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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