化学辞典 第2版 「配向」の解説
配向
ハイコウ
orientation
【Ⅰ】永久双極子をもった分子が電場内に置かれたとき,その向きの分布が無秩序から電場の方向に偏ること.このとき,物質中に誘起される分極を配向分極(orientation polarization)という.【Ⅱ】ベンゼン誘導体の反応性が置換基の種類によって決まる特異性をいう.たとえば,-OH,-CH3,-Cl,-NH2などの置換基が存在する場合,カチオノイド試薬はオルトおよびパラ位置に反応しやすいのでオルト-パラ配向という.-COOH,-CHO,-CN,-NO2,-SO3Hなどが存在するときは,メタ配向になる.配向の原因は,置換基による誘起効果,共鳴効果によるもので,ベンゼン環の炭素原子の電子密度が反応性を左右する.【Ⅲ】高分子固体を構成する単位組織(微結晶)が一定方向に配列することをいう.結晶性高分子を融液や溶液から流動下(かくはん下)で結晶化させると,分子鎖が流動方向に配向した結晶が生成する.さらに,固体高分子を圧延,または延伸することにより伸長方向に分子鎖が配向する.結晶化の際の温度勾配も配向を生む.配向には,ポリエチレンフィルムにみられる面配向(たとえば,c軸がフィルム面内にあって,それ以外には配向性がない),一軸延伸などによる一軸配向(c軸が繊維方向に配向し,ラメラはそれと直角方向に配向する),木綿,麻にみられるらせん配向(c軸が繊維方向と一定の傾きをもっている),さらに二重配向(ある結晶面が繊維軸を含むある一定の面に平行)などがある.配向によって,繊維をはじめとする種々の製品の特性が得られ,工業的にきわめて重要である.配向度の決定には,X線,光の複屈折,および赤外二色性による方法がある.分子鎖の配向は結晶化や融解に影響を与える.伸長による配向は結晶化を促進させ,結晶化により材料は伸長するため応力は減少する.また,逆に配向下で材料を融解させると,配向緩和(配向が低下)するため,材料は収縮する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報