伊藤左千夫(さちお)の中編小説。1906年(明治39)1月『ホトトギス』に発表、同年4月俳書(はいしょ)堂から刊行。作者の処女小説。主人公政夫(まさお)がまだ少年のころ、家にきていた従姉(いとこ)の民子との幼い恋を回想したものである。周囲の無理解から清純な恋が妨げられ、民子は嫁いで亡くなり、政夫は少女の愛していた野菊をその墓の周囲に植える。素朴な田園を背景にした牧歌的な純愛物語。技法的には欠点もあるが、薄幸な恋に寄せる作者の同情がそれを覆って、真率胸を打つ一編となっている。当時夏目漱石(そうせき)は左千夫あての手紙で、「自然で、淡白で、可哀想(かわいそう)で、美しくて、野趣があって」こんな小説なら「何百篇よんでもよろしい」と評した。木下恵介監督の『野菊の如(ごと)き君なりき』(1955)など、たびたび映画化されている。
[本林勝夫]
日本映画。1955年(昭和30)に、松竹で伊藤左千夫原作の『野菊の墓』を、木下恵介脚本・監督で『野菊の如き君なりき』として白黒でつくられ、キネマ旬報ベスト・テン第3位となる。老人(笠智衆(りゅうちしゅう))が60年前を回想する。旧家の次男、15歳の政夫(田中晋二(たなかしんじ)、1940― )と従姉の17歳の民子(有田紀子(ありたのりこ)、1940― )は互いに仲が良いので噂がたち、祖母(杉村春子(すぎむらはるこ))に実家へ戻され結婚させられる。だが子供は流産し、民子は実家で亡くなってしまう。回想場面を白い枠で囲み、若い男女を抒情(じょじょう)的に描写しつつ、封建的な田舎の実態をも残酷に露呈させている。1966年、大映で木下恵介の脚本・同タイトル、カラーで富本壮吉(とみもとそうきち)(1927―1989)監督が、安田道代(みちよ)(現、大楠(おおくす)道代、1946― )主演で再映画化。端正な風景描写が印象深い。1981年、三度目に東映で澤井信一郎(さわいしんいちろう)(1938―2021)初監督、松田聖子(まつだせいこ)(1962― )主演で『野菊の墓』を撮る。匂いたつような自然のなか、民子と政夫(桑原正(くわはらまさし))の二人が、夕陽に向かって祈りを捧げる場面の感動が全編を貫く傑作である。
[坂尻昌平]
『『野菊の墓』(岩波文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫)』
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…そのころの歌風は《万葉集》を尊重し,写実的詠風を求めた。一方06年には小説《野菊の墓》を発表,夏目漱石の激賞をうけ,以後,自伝的小説を書いた。《馬酔木》のあとの雑誌《アカネ》を三井甲之(こうし)に託したが不仲となり,蕨真(けつしん)が発刊した《アララギ》(1908)に協力し翌年9月自宅に発行所を移し,島木赤彦,斎藤茂吉ら若手を育成した。…
※「野菊の墓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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