改訂新版 世界大百科事典 「金属セッケン」の意味・わかりやすい解説
金属セッケン(石鹼) (きんぞくせっけん)
metallic soap
高級脂肪酸などの有機酸とアルカリ金属以外の金属イオンとの塩。一般に金属イオンの名をつけて,アルミニウムセッケン,カルシウムセッケンなどと呼ぶ。金属セッケンには,有機酸と金属イオンが等モル反応した中性セッケンのほかに,一方の過剰な組成をもつものも生じやすい。塩基性オレイン酸鉛2PbO・Pb(C18H33O2)2,酸性樹脂酸鉛(C20H29O2)2Pb・2C20H30O2がその例である。また金属イオンが多価の場合,塩を形成する有機酸の数により,モノソープ,ジソープ,トリソープなどが理論的には形成されうるが,アルミニウムセッケンの場合などでは,ジソープがおもに生成し,トリソープは確認されていない。
性質
一般に結晶性の固体または液体で,金属イオンの色をもつ。C8以上の有機酸金属セッケンは一般に水に不溶で,むしろ有機溶剤に可溶であり,アルカリセッケン(普通に用いられるセッケンで高級脂肪酸のアルカリ金属塩)とは逆である。アルカリセッケンを含めて,セッケンは一般に固相で比較的多量の水を吸収し,膨潤する性質がある。酸基が同一の場合には,膨潤率はNH4>K>Na>Li>Mg>Ca>Pb>Baの順となる。また酸基の分子が大きいほど膨潤率は大となる。セッケンが形を保ったまま吸収する最大抱水量を膠化能(こうかのう)gel capacity(略号gc)という。ステアリン酸マグネシウムは230%の水を吸収するので,gc2.3である。金属セッケンには炭化水素に容易に分散してゼリーまたはゲルを形成するものもある。
製法
水溶性アルカリセッケンの水またはアルコール溶液に目的とする金属の硫酸,硝酸,塩化物などの水溶性塩を過剰量加えて加熱反応させ,複分解により目的の金属セッケンを沈殿,分離する方法が広く行われている。また,金属酸化物または塩と遊離の脂肪酸または油脂とをよく混ぜて100~200℃に加熱反応させる方法もある。
応用
金属セッケンはその油溶性を利用した次のような用途がある。(1)油脂の乾燥剤(ドライヤー) 鉛,コバルト,マンガンの各セッケンが用いられる。油膜の酸化重合を促進させるので,塗料工業ではきわめて重要である。(2)グリース用増粘剤 金属セッケンを鉱油,植物油に溶解すると粘度が増大し,ゲル化する特徴を利用したもので,通常カルシウム,ナトリウム,アルミニウム,鉛の各セッケンが用いられる。(3)塩化ビニル樹脂の光・熱に対する安定剤 バリウムリシノレート,カドミウムステアレート,ステアリン酸鉛等が用いられるが,金属イオンの種類によっては毒性を考慮してその使用に制限がある。(4)その他 繊維防水剤(Al,Mg,Co,Fe,Pb塩),製紙用サイジング剤(Al塩),農薬(Ca,Cu,Hg塩),医薬(Cu,Hg,Zn,Pb塩),化粧品(Zn,Ca,Al,Mg塩),そのほか擬革,印刷,ドライクリーニングなどに広く用いられている。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報